がん患者の運動機能低下~サルコぺニアについて~

前回は、がんサバイバーも知っておきたいフレイルについて紹介しました。

がん患者の運動機能低下~フレイルについて~

2022年2月21日

フレイルとは、簡単に言うと「加齢により心身が老い衰えた状態」のことでした。

似たような状態を指す言葉で、サルコペニアという言葉もあります。

フレイルもサルコペニアも弱っているような状態の印象ですが、違いを理解できていない方も多いのではないでしょうか。

今回は、がんサバイバーも知っておきたいサルコペニアについて紹介します。

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まとめ
・がんサバイバーも知っておきたいサルコペニアについて紹介。

・サルコペニアとは、「加齢に伴う骨格筋量減少」という意味。

・筋肉量の減少と運動機能の低下が併存している状態である。

・診断方法としては、骨格筋量と運動機能の評価が必要。

・スクリーニングとしては、下腿周径と運動機能の評価や、質問紙のみの評価などがある。

・がんサバイバーにとっても、予後や有害事象と関連があるので、注意する必要がある。

サルコペニアとは?

サルコペニアとは、簡単に言うと「加齢に伴う骨格筋量減少」という意味になります。

2010年にヨーロッパのワーキンググルー プ(EWGSOP)が,サルコペニアは「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で,身体機能障害,QOL 低下,死のリスクを伴うもの」と定められました。

つまり、筋量が少なくて、筋力が落ちている場合をサルコペニアというわけです。

 

フレイルには身体的、社会的、精神・心理的など、多くの側面がありましたが、サルコペニアは主に身体面のことだけを指すようですね。

一方で、フレイルが握力や歩行速度といった運動機能を中心に評価するのに対して、サルコペニアではそれに加えて、筋量の減少が必要になるということです。

つまり、やせ細って、筋力が落ちている人は、サルコペニアを疑いましょうというわけです

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サルコペニアの診断

そんな注意すべきサルコペニアですが、どのように確認したらいいのでしょうか?

評価方法はいくつかありますが、その中でも日本では、アジアにおけるサルコペニアワーキング
グループが2014年に作成したサルコペニアの診断基準を、2019年に改訂したAWGS2019を使用することが多くなっています。

Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Chou MY, Iijima K, et al.: Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc 2020; pii: S15 25-8610(19)30872-2

Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Chou MY, Iijima K, et al.: Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc 2020; pii: S15 25-8610(19)30872-2
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AWGS2019

AWGS2019では、コミュニティーとクリニカルの 2 つのセッティングから判定が可能な経路を準備してあります。

つまり、詳細な評価が難しい地域の現場でのスクリーニングと、機器を用いてしっかりと診断を行える医療現場の両方で使用できるようになっているのです。

私の病院も、忙しさと機器の不足により、コミュニティーセッティングを使用しています。

 

具体的には、最初に下腿周径を測定し、その後握力と5回立ち上がりテストといった筋力などの運動機能をチェックすることで、ある程度の診断が可能となります。

メジャーと握力計、ストップウォッチがあれば測定できるので簡単ですね。

 

しかし、コミュニティーセッティングでは、あくまでサルコペニア疑い程度しかわかりません。

正確に診断するのであれば、クリニカルセッティングの骨格筋量の測定までが必要になります。

骨格筋量の測定は高価な機器が必要なので、なかなか簡単にはできないですね。

簡便なものでは、一般の体重計でも使用されている、インピーダンス法という微弱の電流を流して測定する方法がありますが、ちゃんとした医療機器を購入すると100万円以上するのです・・・。

 

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SARC-F

Tanaka S, Kamiya K, Hamazaki N, et al.: Utility of SARC-F for Assessing Physical Function in Elderly Patients With Cardiovascular Disease. Journal of the American Medical Directors Association 2017; 18 (2): 176―181.

SARC-Fはコミュニティーセッティングでも使用可能となっている、サルコペニアのスクリーニング法となります。

たった5問の質問に答えてもらうだけで、スクリーニングができるのでとても簡単です。

Strength(S;力の弱さ),Assistance walking(A;歩行補助具の有無),Rising from a chair (R;椅子からの立ち上がり),Climbing stairs(C; 階段を登る),Falls(F;転倒)について“まったく ない”から“とても難しい”まで 0~2 点で回答させ, その合計点(10 点満点)を算出します。

10点満点で4点以上をサルコペニア疑いと判定します。

指輪っかテスト



厚生労働省資料 口腔機能・栄養・運動・社会参加を総合化した複合型健康増進プログラムを用いての新たな健康づくり市民サポーター養成研修マニュアルの考案と検証(地域サロンを活用したモデル構築)を目的とした研究事業

指輪っかテストは、ふくらはぎを指で囲むだけで、筋量減少をスクリーニングする、すさまじく簡単な方法です。

とても簡単な方法ですが、「隙間ができる集団」は,四肢骨格筋量も少なく,サルコペニアのリスクが高いことがわかっています。

隙間ができる集団は、囲めない集団と比較すると,サルコペニアに6.6倍なりやすいということがわかっているので、有用なスクリーニングですね。

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サルコペニアの評価の注意点

スクリーニングでは下腿周径と運動機能のチェックだけで、評価ができるサルコペニアですが、その結果の解釈には注意が必要です。

例えば、もともと若いときからやせ型の人であれば、下腿周径は標準より減少しています。

その上で、膝に痛みがあって起立能力が低下していたり、麻痺の影響で握力が低下していたりすると、サルコペニアに該当してしまいます。

この場合は、運動機能低下が本当に筋量の減少によって出現しているのか、確認する必要があります。

山田 実. サルコペニア新診断基準(AWGS2019)を踏まえた高齢者診療. 日本老年医学会雑誌. 58 巻 (2021)

逆に、浮腫などがある場合には筋量減少があっても、周径では筋量減少が見逃されてしまいます。

そのような方は、運動機能低下に該当しても、サルコペニアからは除外されてしまうという危険性も含まれています。

周径が本当に筋量を反映しているかにも注意が必要です。

山田 実. サルコペニア新診断基準(AWGS2019)を踏まえた高齢者診療. 日本老年医学会雑誌. 58 巻 (2021)

簡便なサルコペニアのスクリーニング方法ですが、このようなことには注意しながら使用する必要がありますね。

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サルコペニアの影響

サルコペニアもフレイルと同様に、高齢者に対して多くの影響を及ぼすことがわかっています。

さらに、がん患者さんにおいても、フレイルと同様に生命予後が悪かったり、治療の効果が減少したりなどの影響が強いことが数多く紹介されています。

そのあたりについては、また後日紹介します。

最近注目されている「サルコペニア」ですが、がんサバイバーの皆さんも、その内容を理解してしっかり予防しましょう!!

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まとめ
・がんサバイバーも知っておきたいサルコペニアについて紹介。

・サルコペニアとは、「加齢に伴う骨格筋量減少」という意味。

・筋肉量の減少と運動機能の低下が併存している状態である。

・診断方法としては、骨格筋量と運動機能の評価が必要。

・スクリーニングとしては、下腿周径と運動機能の評価や、質問紙のみの評価などがある。

・がんサバイバーにとっても、予後や有害事象と関連があるので、注意する必要がある。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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