以前は骨粗鬆症のリスク因子について解説しました。
骨粗鬆症は、骨の密度が低下し、もろくなって骨折しやすくなる病気です(Cosman F, et al. 2014)。
特に高齢になると発症しやすく、転倒による骨折が寝たきりの原因となることもあります。
しかし、適切な運動療法を行うことで、骨密度の維持・改善や転倒予防に効果が期待できます(Sheng B,et al.2021)。
そこで今回は、健康寿命を延ばすために重要な骨粗鬆症予防、特に運動療法について、分かりやすく解説します。
•骨粗鬆症予防には適切な力学的負荷の運動療法が不可欠で、骨密度維持・向上や骨折リスク低減に繋がります。
•骨密度を高めるには、ウォーキング等の荷重運動と筋力トレーニングやジャンプ運動を積極的に行うと効果的です。
•高齢者の転倒予防には、バランス訓練(片足立ちなど)や下肢筋力強化(スクワット、ヒールレイズなど)が推奨されます。
•運動療法は、無理なく日常生活に取り入れ継続が重要です。ロコモトレのような簡単な運動から始めましょう。
骨粗鬆症患者さんへの運動療法の重要性
骨粗鬆症と診断された方も、そうでない方も、運動は骨の健康維持に不可欠です(Zhu K,et al. 2015)。
運動には、骨に 適度な刺激を与えて骨形成を促す効果や、筋力を向上させてバランス能力を高め、転倒を予防する効果があります(Papadopoulou SK, et al. 2021)。


骨密度改善に効果的な運動
骨密度を高めるためには、骨に負荷がかかる運動が推奨されます。具体的には、以下のような運動が効果的です。
- weight-bearing exercise (体重負荷運動): これは、自分の体重を支えながら行う運動で、骨に直接的な刺激を与えます。
- ウォーキング: 手軽に始められる運動ですが、骨に適切な負荷を与えることができます(Pasa C et al. 2023)。特に閉経後の骨密度維持には、朝食後すぐ、速い速度(6.4km/h目安)で45分間の平坦歩行、または40分間の下り坂歩行が効果的です(Zheng Q, et al. 2021)。
- 軽いジョギング: ウォーキングよりも負荷が高く、骨密度改善により効果的です。ただし、無理のない範囲で行いましょう。
- 階段昇降: 下半身の筋力も鍛えられ、骨にも良い刺激になります。
- ダンス: 楽しく続けやすく、全身の骨に適度な負荷がかかります。

- resistance exercise (レジスタンス運動、筋力トレーニング): 筋肉に抵抗をかける運動は、骨にも間接的な刺激を与え、骨密度を維持・向上させるのに役立ちます(Ponzano M, 2021)。
- スクワット: 下半身全体の大きな筋肉を鍛え、骨盤や大腿骨に負荷を与えます。
- 腕立て伏せ: 上半身の筋力とともに、背骨や上腕骨にも刺激を与えます。
- ダンベルやチューブを使ったトレーニング: 全身の様々な筋肉を個別に鍛えることができます。専門家の指導のもと、適切な負荷とフォームで行いましょう。
- high-impact exercise (高衝撃運動):
- ジャンプやランニングなど、骨に瞬間的に大きな負荷がかかる運動は、骨形成を強く促す可能性があります(Manaye S et al. 2023.)。ただし、骨粗鬆症が進行している場合は骨折のリスクもあるため、医師や理学療法士と相談しながら慎重に行う必要があります。

転倒予防に効果的な運動
骨粗鬆症患者さんにとって、骨折の最大の原因となるのは転倒です。
転倒を予防するためには、バランス能力や下半身の筋力を高める運動が重要です(Yu WY,et al 2021)。
- balance exercise (バランス運動): 体のバランスを保つ能力を高めます。
- 片足立ち: バランス感覚を養う基本的な運動です。最初は壁や椅子につかまりながら行い、慣れてきたら手を離して行いましょう。
- タンデム歩行: まっすぐな線上を、つま先とかかとを交互につけながら歩きます。
- 重心移動: 前後左右にゆっくりと重心を移動させる練習をします。
- lower limb muscle strengthening exercise (下肢筋力強化運動): 下半身の筋力を高めることで、踏ん張りが利き、転倒しにくくなります(Inceoglu SC et al. 2022)。
- 椅子からの立ち上がり: 太ももの筋力を鍛えます。
- かかと上げ・つま先上げ: ふくらはぎや足首の筋力を鍛えます。
- ウォーキング: 持久力とともに、下半身の筋力維持にも効果があります。
運動に自信がない方は、とりあえず座る時間を減らすだけでも骨密度に効果的であることが報告されていますよ(Ricci C, 2019)!!
まずは、30分間の座り時間を活動時間に置き換えるようにしてみましょう!!

骨粗鬆症患者の運動のガイドライン
韓国骨代謝学会(KSBMR)と韓国運動生理学会(KSEP)が共同で発表した骨粗鬆症患者向けの運動ガイドラインが存在し、特にレジスタンス運動と衝撃運動が推奨されています(Bae S,2023)


また、骨粗鬆症に特化したものではないですが、アメリカスポーツ医学会が推奨している運動ガイドラインが存在し、それを遵守することが骨密度に対して好影響であることが報告されています。


運動療法を行う上での注意点
運動療法は骨粗鬆症予防に非常に有効ですが、安全に行うためにはいくつかの注意点があります。
•始める前に医師に相談する: 特に骨粗鬆症と診断されている方や、持病のある方は、運動療法を開始する前に必ず医師に相談し、適切な運動の種類や強度について指示を受けてください。
•無理のない範囲から始める: 最初から無理な運動を行うと、怪我につながる可能性があります。ウォーミングアップとクールダウンを必ず行い、徐々に運動の強度や時間を増やしていきましょう。
•継続することが重要: 骨の健康を維持するためには、 регулярные な運動が不可欠です。毎日少しずつでも良いので、継続することを心がけましょう。
•痛みを感じたら中止する: 運動中に痛みを感じたら、無理せず中止し、必要であれば医療機関を受診してください。
•転倒予防対策も忘れずに: 自宅内の整理整頓や滑り止めマットの使用など、日常生活での転倒予防対策も合わせて行いましょう。
まとめ
骨粗鬆症予防には、骨に適切な負荷をかける運動(体重負荷運動、レジスタンス運動、高衝撃運動)と、バランス能力や下半身の筋力を高めて転倒を予防する運動(バランス運動、下肢筋力強化運動)**が重要です(Bae S, et al: 2023.)。ご自身の体力や骨の状態に合わせて、無理のない範囲で継続的に運動を続けることが、健康な骨を維持するための鍵となります。
以前紹介した骨粗鬆症に対する運動についてもう少し詳しく知りたい方はコチラにを参考にしてみてください。
•骨粗鬆症予防には適切な力学的負荷の運動療法が不可欠で、骨密度維持・向上や骨折リスク低減に繋がります。
•骨密度を高めるには、ウォーキング等の荷重運動と筋力トレーニングやジャンプ運動を積極的に行うと効果的です。
•高齢者の転倒予防には、バランス訓練(片足立ちなど)や下肢筋力強化(スクワット、ヒールレイズなど)が推奨されます。
•運動療法は、無理なく日常生活に取り入れ継続が重要です。ロコモトレのような簡単な運動から始めましょう。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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