以前もお話ししたように、がん患者さんは骨粗鬆症になりやすいために注意が必要です。
今回は、がんの病気や治療以外の要因で、骨粗鬆症に注意しなければならないことを紹介します。
•骨粗鬆症は高齢者に多く、年間約890万件もの骨折発生している。
•リスクは加齢、低体重、骨折歴、家族歴、喫煙、運動不足など。
•特に大腿骨近位部骨折はQOLを下げ、死亡リスクも上昇する。
•早期発見と予防で骨折リスクを減らし、健康寿命を延ばす。
骨粗鬆症は静かに進行する病気
骨粗鬆症とは、骨の量が減ったり、骨の質が劣化したりして、骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です(Pisani P, et al. 2016)。
普段は症状がないため、「静かなる病気」とも言われています(Pisani P, et al. 2016)。
骨粗鬆症の有病率と疫学

世界では約2億人もの人が骨粗鬆症に苦しんでいると言われており、年間約890万件もの骨折が、この骨粗鬆症を背景に発生しています(Pisani P, et al. 2016)。
日本においても、高齢化が進むにつれて骨粗鬆症患者は増加しており、40歳以上の方で全脊椎のX線検査を行った結果、約1460万人もの方が脊椎椎体骨折を経験していると推計されています(荒井秀典 2022)。
特に、より重症化しやすい大腿骨近位部骨折は、日本で年間約20万件発生すると言われています(荒井秀典 2022)。
大腿骨近位部を骨折すると、その後の生活にも大きな影響が出ることがわかっています。
骨折後半年で生存している方は約82%ですが、約30%もの方が自力で歩くことが困難になってしまうという報告もあります(荒井秀典 2022)。
さらに、一度骨折を経験すると、再び骨折してしまうリスクも高まります。骨折をしていない人と比較して、脊椎椎体骨折後では約5.9倍、大腿骨近位部骨折後では約16.9倍も骨折のリスクが高くなると報告されています(Johnell O, et al. 2004)。
知っておきたい骨粗鬆症のリスク因子
骨粗鬆症になりやすいかどうかには、様々な要因が関わっています。主なリスク因子を知っておくことで、予防のための対策を立てることができます。

•低体重(BMIの低さ):低BMIの方は骨密度が低い傾向があり、骨粗鬆症のリスクが高いとされています(Pisani P, et al. 2016)。
•女性:特に閉経後は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少し、骨密度が低下しやすくなります(Pisani P, et al. 2016)。
•過去の骨折経験(脆弱性骨折の既往):一度、ちょっとしたことで骨折をしてしまったことがある方は、骨がもろくなっている可能性があります(Pisani P, et al. 2016)。
•家族歴:ご家族に骨粗鬆症の方や、ちょっとしたことで骨折した方がいる場合、遺伝的な要因で骨粗鬆症になりやすい可能性があります(Pisani P, et al. 2016)。
•早期の閉経:女性ホルモンには骨密度を維持する働きがあるため、閉経が早く始まった方は、骨粗鬆症のリスクが高まります(Pisani P, et al. 2016)。
•喫煙:喫煙は骨の形成を阻害し、骨密度を低下させることが知られています(Pisani P, et al. 2016)。
•ビタミンD不足:ビタミンDは、カルシウムの吸収を助け、骨の健康を維持するために不可欠な栄養素です(Pisani P, et al. 2016)。
•内分泌疾患:糖尿病や副甲状腺の病気などが、骨粗鬆症のリスクを高めることがあります(Pisani P, et al. 2016, 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 2015)。
•特定の薬の使用:長期間にわたるステロイド薬の使用は、骨密度を著しく低下させる可能性があります(Pisani P, et al. 2016, 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 2015)。
•過剰なアルコール摂取:過度の飲酒は、骨の健康を損なう可能性があります(Pisani P, et al. 2016)。
•運動不足(不動):骨は、適度な負荷がかかることで強くなります。運動不足は骨密度の低下を招きます(Pisani P, et al. 2016)。
•慢性的な病気:関節リウマチなどの炎症性疾患、慢性肝疾患、腎臓病なども骨粗鬆症のリスクを高めることがあります(abassum S, et al. 2018)。腎疾患(腎結石の既往)、心血管疾患、認知症、がんなども、骨粗鬆症と関連があると言われています(Pouresmaeili F, et al. 2009)。
•高年齢:加齢とともに骨の形成と吸収のバランスが崩れ、骨密度が低下しやすくなります(Aspray TJ, et al. 2019)。
•後弯(猫背):背骨が丸まっている状態は、骨折のリスクを高める可能性があります(Huang MH, et al. 2006)。
•屋外活動の不足:日光を浴びる時間が少ないと、体内でビタミンDが十分に作られず、骨の健康に影響が出ることがあります(Tang G, et al. 2023)。

早期発見と予防が大切
骨粗鬆症は、骨折が起こるまで気づきにくい病気です。しかし、早期に発見し、適切な予防策を講じることで、骨折のリスクを減らし、健康な生活を送ることができます。
骨粗鬆症についてもう少し詳しく知りたい方はコチラにを参考にしてみてください。
•リスクは加齢、低体重、骨折歴、家族歴、喫煙、運動不足など。
•特に大腿骨近位部骨折はQOLを下げ、死亡リスクも上昇する。
•早期発見と予防で骨折リスクを減らし、健康寿命を延ばす。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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