頚部や腰痛のある患者の運動療法の遵守度に影響する要因は?

     

整形外科疾患に対する運動の実施率について、以前紹介しました。

    

          

首や腰の痛みは、一般の人々にとって大きな健康問題です。

首の痛みの1年間の発生率は12%から72%、生涯の発生率は30%から50%とされています。

腰の痛みの1年間の発生率は22%から65%、生涯の発生率は11%から84%とされています。

首や腰の痛みは、仕事や日常生活に支障をきたすだけでなく、長期にわたって繰り返したり慢性化したりすることもあります。

首や腰の痛みのケアには、運動療法や身体活動の増加が重要な要素です。

運動や身体活動は、首や腰の痛みを予防したり緩和したりする効果があるという研究が多くあります。

しかし、運動や身体活動の効果は、実施率にも左右されます。

        

では、首や腰の痛みに対する運動や身体活動の実施率には、どのような要因が関係しているのでしょうか?この論文では、ランダム化比較試験とコホート研究を系統的に調べて、その答えを探っています。

                       

       

     

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今回紹介する論文の概要

    

   

今回紹介する論文は、首や腰の痛みに対する運動や身体活動の実施率には、どのような要因が関係しているかを調べた内容となっています。

 

   

「Areerak K, Waongenngarm P, Janwantanakul P. Factors associated with exercise adherence to prevent or treat neck and low back pain: A systematic review. Musculoskelet Sci Pract. 2021 Apr;52:102333. doi: 10.1016/j.msksp.2021.102333. 」。

2021年の論文になります。

    

    

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対象と方法 

   

この研究は、ランダム化比較試験とコホート研究という二つの方法で行われました。それぞれの方法について、簡単に説明します。

まず、ランダム化比較試験とは、参加者を無作為に二つ以上のグループに分けて、それぞれに異なる介入(治療法や予防法)を行って、その効果を比較する方法です。

 

コホート研究とは、ある特定のグループの人たちを長期間にわたって追跡して、その間に起こった出来事や状態の変化と、最初に測定した特徴との関係を調べる方法です。

 

この研究では、首や腰の痛みを持つ人に対して、運動や身体活動のプログラムを行って、その実施率に関係する特徴を探しました。

 

 

Areerak K, Waongenngarm P, Janwantanakul P. Factors associated with exercise adherence to prevent or treat neck and low back pain: A systematic review. Musculoskelet Sci Pract. 2021 Apr;52:102333. doi: 10.1016/j.msksp.2021.102333.

              

図1は、首や腰の痛みを予防または治療するための運動や身体活動への遵守に関連する要因を調べたシステマティックレビューの検索と選択の過程を示しています。

 

その内容は以下の通りです。

 

  • まず、8つのデータベースから1980年から2019年までの記事を検索しました。その結果、2,223件の記事が見つかりました。

 

  • 次に、重複した記事を除外し、1,648件の記事のタイトルと抽象化をスクリーニングしました。その結果、1,595件の記事が選択基準に合わないと判断され、除外されました。

 

  • 残った53件の記事の全文を評価しました。その結果、36件の記事が選択基準に合わないと判断され、除外されました。除外された理由は、研究デザインがランダム化比較試験(RCT)やコホート研究でない、対象者が首や腰の痛みを持っていない、運動や身体活動への遵守に関連する要因を直接評価していない、英語でない、などです。

 

  • 最終的に、17件の記事(9件のRCTと8件のコホート研究)がこのレビューに含まれました。

   

       

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結果

この研究では、9つのランダム化比較試験と8つのコホート研究を分析しました。

 

この研究では、運動や身体活動に従うことを、日記や自己報告のアンケート、直接観察などの方法で測定しました。

 

この研究の結果は、以下のようにまとめることができます。

 

 

  • 自己効力感:自己効力感とは、自分ができると信じる力のことです。
  • 自己効力感が高い人は、運動や身体活動に従うことができると信じて、挑戦し続けます。
  • 自己効力感が低い人は、運動や身体活動に従うことができないと思って、あきらめやすくなります。
  • この研究では、自己効力感が運動や身体活動に従うことに影響する要因として、中程度の証拠が見つかりました。
  • つまり、自己効力感が高い人は、運動や身体活動に従うことができる可能性が高いということです。

  

  

  • 教育水準:教育水準とは、学校でどのくらい勉強したかを表す指標のことです。
  • 教育水準が高い人は、運動や身体活動の効果や方法について理解しやすく、自分で計画や管理ができます。
  • 教育水準が低い人は、運動や身体活動の必要性や重要性に気づきにくく、指示やサポートが必要になります。
  • この研究では、教育水準が運動や身体活動に従うことに影響する要因として、中程度の証拠が見つかりました。
  • つまり、教育水準が高い人は、運動や身体活動に従うことができる可能性が高いということです。

  

  

  • その他の要因:この研究では、他にもいくつかの要因が運動や身体活動に従うことに影響する可能性があることが示唆されましたが、証拠の質は低かったり、非常に低かったりしました。
  • 例えば、カウンセリングや目標設定、電話でのフォローアップ、コミュニケーションスキルのトレーニング、職場の心理的環境などが、運動や身体活動に従うことを助ける可能性があることが示されました。
  • また、年齢や性別、ストレスや恐怖、患者の満足度や痛みの期間、余暇の身体活動レベルなどが、運動や身体活動に従うことを妨げる可能性があることが示されました。
  • しかし、これらの要因については、まだ確かな結論を出すには、さらに研究が必要です。

       

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考察

                                      

この論文の結果によると、運動や身体活動の継続に関係する要因は、以下のようにまとめることができます。

 

 

  • 自己効力感:自分が運動や身体活動をできると信じる気持ちのことです。自己効力感が高い人は、運動や身体活動を続けることができる可能性が高いということがわかりました。自己効力感は、運動や身体活動の経験や成果、他人からの励ましやフィードバックなどによって高めることができます。

  

 

  • 教育レベル:学歴や知識の程度のことです。教育レベルが高い人は、運動や身体活動を続けることができる可能性が高いということがわかりました。教育レベルが高い人は、運動や身体活動の効果や方法について理解しやすく、自分で計画や調整をする能力が高いと考えられます。

 

 

  • カウンセリング:運動や身体活動のプログラムに参加する前に、専門家から運動や身体活動の効果や方法、目標や計画、困難や解決策などについて話を聞くことです。カウンセリングを受けた人は、運動や身体活動を続けることができる可能性が高いということがわかりました。カウンセリングは、運動や身体活動に対するモチベーションや自信を高める効果があると考えられます。

 

 

  • 目標設定:運動や身体活動のプログラムに参加するときに、自分が達成したい目標や計画を明確にすることです。目標設定をした人は、運動や身体活動を続けることができる可能性が高いということがわかりました。目標設定は、運動や身体活動に対する意欲や方向性を与える効果があると考えられます。

 

 

  • 電話サポート:運動や身体活動のプログラムに参加する間に、定期的に専門家から電話で運動や身体活動の状況や困難、アドバイスなどを聞くことです。電話サポートを受けた人は、運動や身体活動を続けることができる可能性が高いということがわかりました。電話サポートは、運動や身体活動に対する責任感やサポート感を高める効果があると考えられます。

 

 

  • 職場環境:運動や身体活動のプログラムに参加するときに、職場の上司や同僚からの理解や協力、支援や奨励を受けることです。職場環境が良い人は、運動や身体活動を続けることができる可能性が高いということがわかりました。職場環境は、運動や身体活動に対するストレスや障害を減らす効果があると考えられます。

 

 

以上の要因は、運動や身体活動の継続に関係することが示された要因ですが、他にも様々な要因が存在する可能性があります。

 

また、これらの要因は、個人や状況によって異なる影響を与える可能性があります。したがって、運動や身体活動の継続に関係する要因を探るためには、さらに多くの研究が必要です。

 

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2022年6月24日

    

まとめ
・首や腰の痛みを予防したり治療したりするための運動や身体活動に対する患者さんの継続性に関係する要因を調べた。

・首や腰の痛みの患者さんを対象に、ランダム化比較試験(RCT)とコホート研究の合計17件を系統的にレビューした。

・首や腰の痛みの管理において、運動や身体活動の継続性を高めるためには、患者さんの自己効力感を向上させることが重要であることがわかります。

・また、教育水準や心理社会的な要因にも配慮する必要があることが示唆されます。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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