整形外科疾患の研究では運動の実施率が調査されていないことが多いことは、以前紹介しました。
整形外科疾患の治療の一つは運動療法なのですが、その実施率が低いと効果にも影響をおよぼしそうですよね。
運動を実施しない理由の一つが、負担がかかって悪化しそうというイメージですよね。
運動を実施することが好影響であることも報告されていますが、負担をかけすぎるのはよくない気もしますね。
この論文では、日常生活やスポーツでのさまざまな動作における脊椎の機械的負荷を数学的モデルを使って推定しています。
脊椎の機械的負荷は、背中の痛みやけがの原因となることがあります。
特に、脊椎の能力を超える負荷や、繰り返し高い負荷がかかると、脊椎の組織が傷ついたり弱くなったりする可能性があります。
その結果、椎間板ヘルニアや骨折などの障害が起こることがあります。
したがって、さまざまな動作での脊椎の負荷を知ることは、けがのリスクを評価したり、予防策を考えたりするのに役立ちます。
しかし、現在のところ、脊椎の負荷に関するガイドラインや体系的な調査はほとんどありません。
脊椎の機械的負荷を正確に測定するのは難しいです。
なぜなら、脊椎の中にある椎間板や骨などの組織に直接センサーを入れるのは、倫理的にも技術的にも困難だからです。
そこで、数学的なモデルを使って、脊椎の機械的負荷を推定する方法が考えられました。
このモデルは、身体の動きや筋肉の活動、地面からの反力などのデータをもとに、脊椎にかかる圧縮力やねじれ力を計算します。
この研究の目的は、日常生活やスポーツでの脊椎の機械的負荷を数学的モデルを使って推定することです。
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今回紹介する論文の概要
今回紹介する論文は、日常生活やスポーツでの脊椎の機械的負荷を数学的モデルを使って推定した内容となっています。
「Schäfer R, Tet al. The mechanical loading of the spine in physical activities. Eur Spine J. 2023 Sep;32(9):2991-3001. doi: 10.1007/s00586-023-07733-1.」。
2023年の論文になります。
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対象と方法
この研究では、日常生活やスポーツで行うさまざまな動作が、脊椎にどのくらいの負荷を与えるかを数学的なモデルを使って計算しました。
このモデルは、動作の様子や筋肉の活動、地面からの反力などを測定して、脊椎の一部分(L4/L5というところ)にかかる力やねじれを推定するものです。
Schäfer R, Tet al. The mechanical loading of the spine in physical activities. Eur Spine J. 2023 Sep;32(9):2991-3001. doi: 10.1007/s00586-023-07733-1.
- 被験者は、下肢と上肢の各部位、胴体、脊椎に合計54個の反射マーカーを装着しています。これらのマーカーは、3次元モーション解析システムによって追跡され、被験者の動きを正確に記録するために使用されます。
- 被験者は、地面に埋め込まれた力プラットフォームの上に立っています。この力プラットフォームは、被験者が行う様々な活動に伴う地面反力を測定します。地面反力は、モーションデータと同期して記録され、サンプリングレートは1000 Hzです。
- 被験者の右と左の腰椎筋、広背筋、腸骨筋、外腹斜筋、直腹筋の筋活動は、表面筋電図(EMG)によって測定されます。EMGは、チャンネルあたり2000 Hzのサンプリングレートで8チャンネルで記録され、無線で送信されます。EMGは、モーションデータと地面反力データと同期して記録されます。
このモデルは、実際に脊椎の中にセンサーを入れて測定するのは難しいので、代わりに使われるものです。
ただし、モデルは完全ではなく、いくつかの仮定や簡略化をしています。
例えば、脊椎の形や大きさ、筋肉の数や方向、靭帯の役割などは、人によって違うのですが、このモデルでは一定の値を使っています。
また、筋肉の力は、筋肉の断面積や電気信号(EMG)などから推定していますが、これも正確ではありません。
さらに、モデルは、筋肉の力が最小になるように動作を選択しているという仮定をしていますが、これも必ずしも当てはまらないかもしれません。
ですから、このモデルで計算された負荷は、実際の負荷よりも低めに見積もられていると考えられます。
しかし、それでも、このモデルは、動作によって脊椎にどのくらいの違いがあるかを比較するのに役立ちます。
この研究では、統計的な方法を使って、動作の種類や強度が負荷にどのような影響を与えるかを分析しました。
例えば、前かがみになる角度や持ち上げる重さ、走る速さやジャンプする高さなどを変えて、負荷の変化を見ました。
また、異なるスポーツや日常生活で行う動作をたくさん集めて、負荷の平均やばらつきを調べました。これらの分析によって、動作の特徴や危険性を評価することができます。
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結果
Schäfer R, Tet al. The mechanical loading of the spine in physical activities. Eur Spine J. 2023 Sep;32(9):2991-3001. doi: 10.1007/s00586-023-07733-1.
Table 1は、本研究に参加した236人の選手の特徴を示しています。
選手は18の異なるスポーツや活動のグループに分けられており、それぞれについて以下の情報が記載されています。
具体的には
- n: グループの人数
- Body mass [kg]: 体重の平均値と標準偏差
- Height [cm]: 身長の平均値と標準偏差
- Female/male: 女性と男性の人数
例えば、バスケットボールのグループでは、10人の選手が参加しており、そのうち1人が女性で9人が男性です。
彼らの平均体重は82.3kgで、標準偏差は7.6kgです。平均身長は187.4cmで、標準偏差は5.4cmです。
このように、表1は各グループの選手の体格や性別の分布を示しています。
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Table 2は、様々な日常生活やスポーツにおける脊椎の機械的負荷を示しています。
各活動は、それぞれ異なるスポーツ選手のグループによって実施され、L4/L5の圧縮力、体重に対する相対圧縮力、負荷時間、累積負荷という4つの変数が測定されました。
表2の内容を詳細にわかりやすく説明すると以下のようになります。
- 圧縮力は、L4/L5にかかる垂直方向の力で、単位はニュートン(N)です。この力は、活動の種類や強度によって大きく変化します。例えば、立っているときは平均596 N、10 kgのバーベルを持ち上げるときは平均2632 N、60 cmの高さからドロップジャンプするときは平均11,953 Nとなります。一般的に、下半身を使った活動や衝撃的な着地などでは、圧縮力が高くなります。
- 相対圧縮力は、圧縮力を体重で割った値で、単位はなしです。この値は、個人の体重による影響を除いて、活動の負荷度を比較するのに便利です。例えば、立っているときは平均0.9倍、10 kgのバーベルを持ち上げるときは平均3.9倍、60 cmの高さからドロップジャンプするときは平均16.8倍となります。一般的に、相対圧縮力が10倍を超えると、脊椎に対するリスクが高まると考えられます。
- 負荷時間は、圧縮力が最大値の80%以上に達する時間の長さで、単位はミリ秒(ms)です。この時間は、活動の持続時間や繰り返し回数によって異なります。例えば、立っているときは平均749 ms、10 kgのバーベルを持ち上げるときは平均324 ms、60 cmの高さからドロップジャンプするときは平均21 msとなります。一般的に、負荷時間が長いほど、脊椎にかかる累積負荷が増えます。
- 累積負荷は、相対圧縮力を負荷時間で積分した値で、単位はなしです。この値は、活動の全体的な負荷量を表します。例えば、立っているときは平均0.7、10 kgのバーベルを持ち上げるときは平均1.3、60 cmの高さからドロップジャンプするときは平均0.4となります。一般的に、累積負荷が高いほど、脊椎に対する慢性的なダメージが生じる可能性があります。
図2で分かった結果を簡単にまとめます。
- 立位姿勢では、体幹の前屈角度が大きくなるほど、L4/L5にかかる圧縮力が増加します。90度の前屈では、体重の約3倍の圧縮力が発生します。
- 持ち上げ動作では、持ち上げる重量や技術によって、L4/L5にかかる圧縮力が大きく変化します。ボブスレーの押し出しでは、体重の約11倍の圧縮力が最も高くなります。
- 歩行・走行動作では、速度が速くなるほど、L4/L5にかかる圧縮力が増加します。6.5 m/sの走行では、体重の約10倍の圧縮力が発生します。ただし、圧縮力がかかる時間は短くなります。
- 跳躍動作では、カウンタームーブメントジャンプでは体重の約5倍、ドロップジャンプでは落下高さに応じて体重の約12倍から17倍の圧縮力が発生します。プロの高跳びや走り幅跳びの選手では、体重の約9倍から16倍の圧縮力が発生します。
- スポーツ特有の動作では、バレーボールのダイブやホッケーのアルゼンチンバックハンドなど、強い衝撃や方向転換が伴う動作では、体重の約6倍の圧縮力が発生します。一方、上半身を主に使う動作では、圧縮力は比較的低くなります。
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Schäfer R, Tet al. The mechanical loading of the spine in physical activities. Eur Spine J. 2023 Sep;32(9):2991-3001. doi: 10.1007/s00586-023-07733-1.
この記事の図2は、様々な日常生活やスポーツにおける腰椎L4/L5にかかる圧縮力を示しています。
以下にその内容を詳細にわかりやすく説明します。
- 横軸に運動の種類、縦軸に圧縮力を体重に対する倍数で表しています。例えば、走るときには、腰椎にかかる圧縮力は体重の約4倍から10倍になります。
- 運動の種類や強度によって、腰椎にかかる圧縮力が大きく異なることがわかります。一般的に、下半身を使った運動や、高速や高負荷で行われる運動ほど、圧縮力が高くなります。例えば、ボブスレーのスタートや、ロングジャンプの着地では、圧縮力が体重の約10倍から15倍になります。これは、腰椎にとって非常に高い負荷であると言えます。
- 実験室でトレーニングの状況で測定したものであり、競技の状況や最大努力で行われる場合は、さらに高い圧縮力が発生する可能性があります。また、異なる身体的特徴を持つ選手のデータをまとめたものであり、個人差や運動技術の差も影響することに注意が必要です。
- 腰椎にかかる圧縮力のみを示していますが、腰椎にはねじりや曲げなどのほかの力も作用します。これらの力も、腰椎の損傷や痛みの原因となる可能性があります。したがって、腰椎の負荷を評価するには、圧縮力だけでなく、ほかの力も考慮する必要があります。
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Schäfer R, Tet al. The mechanical loading of the spine in physical activities. Eur Spine J. 2023 Sep;32(9):2991-3001. doi: 10.1007/s00586-023-07733-1.
図3は、様々な身体活動における腰椎L4/L5の圧縮力を示しています。
4つの身体活動について、圧縮力とそれらの要因との関係を線形回帰モデルで表しています。
- A: 前傾姿勢で立つ場合、胴体の傾き角度が大きくなるほど、圧縮力が増加します。傾き角度が0度のときは圧縮力は約0.9倍、30度のときは約1.8倍、90度のときは約3.1倍になります。
- B: バーベルを持ち上げる場合、持ち上げる重量が大きくなるほど、圧縮力が増加します。持ち上げる重量が0kgのときは圧縮力は約1.8倍、10kgのときは約3.9倍、100kgのときは約9.4倍になります。
- C: 走る場合、走る速度が速くなるほど、圧縮力が増加します。走る速度が2.5m/sのときは圧縮力は約4.7倍、3.5m/sのときは約7倍、6.5m/sのときは約10.3倍になります。
- D: 落下ジャンプをする場合、落下する高さが高くなるほど、圧縮力が増加します。落下する高さが20cmのときは圧縮力は約11.5倍、40cmのときは約13.5倍、60cmのときは約16.8倍になります。
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Schäfer R, Tet al. The mechanical loading of the spine in physical activities. Eur Spine J. 2023 Sep;32(9):2991-3001. doi: 10.1007/s00586-023-07733-1.
この図は、走行速度が脊椎の圧縮力と接触時間にどのように影響するかを示しています。
- 圧縮力の増加:Aの図から、走行速度が上がるにつれて、圧縮力も上昇することがわかります。これは、走行速度が高くなると、地面反力が大きくなり、それが脊椎に伝わるためです。走行速度が2.5m/sから6.5m/sになると、圧縮力は約2倍になります。
- 接触時間の減少:Bの図から、走行速度が上がるにつれて、接触時間が短くなることがわかります。これは、走行速度が高くなると、足の運動が速くなり、地面に触れる時間が減るためです。走行速度が2.5m/sから6.5m/sになると、接触時間は約半分になります。
この結果は、走行速度が脊椎に与える負荷の大きさと頻度に影響することを示しています。
走行速度が高いほど、脊椎にかかる力は大きくなりますが、その時間は短くなります。逆に、走行速度が低いほど、脊椎にかかる力は小さくなりますが、その時間は長くなります。
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考察
この論文の考察の部分では、以下のようなことが述べられています。
- 腰椎にかかる力は動作や運動の種類によって大きく異なる。立っているときは体重の約1倍、前かがみになると体重の約3倍、重いものを持ち上げると体重の約4倍、走ると体重の約7倍、ジャンプすると体重の約10倍以上の力が腰椎にかかります。特に、バスケットボールやボブスレーなどの激しい運動では、体重の10倍以上の力が腰椎にかかることがあります。
- 腰椎にかかる力は運動の強度や技術によっても変わる。走る速度やジャンプする高さが高くなると、腰椎にかかる力も増えます。また、重量挙げのような運動では、持ち上げる重さだけでなく、持ち上げる方法や姿勢も腰椎にかかる力に影響します。経験や技術が高い人は、腰椎にかかる力を低く抑えることができます。
- 腰椎にかかる力は時間とともに蓄積する。腰椎にかかる力は、一瞬でかかるだけでなく、繰り返しや持続的にかかることもあります。例えば、走るときは、足が地面に着くたびに腰椎に力がかかります。また、立っているときや前かがみになっているときは、腰椎にずっと力がかかり続けます。このように、腰椎にかかる力は時間とともに蓄積され、腰の組織にダメージを与える可能性があります。
- 腰椎にかかる力は個人差がある。腰椎にかかる力は、運動や動作の種類や強度だけでなく、個人の体格や筋力、柔軟性、姿勢などにもよって変わります。例えば、体重が重い人や筋力が弱い人は、腰椎にかかる力が大きくなりやすいです。また、腰椎の形や動きにも個人差があり、腰椎にかかる力の分散や方向に影響します。
以上が、この論文の考察の要点です。
この論文は、腰椎にかかる力を数学的に推定することで、スポーツや日常生活で腰にどのくらいの負担がかかるかを示しました。しかし、この論文にはいくつかの限界もあります。
例えば、腰椎にかかる力だけでは、腰痛や腰のけがの原因を完全に説明できないことや、数学的なモデルにはいくつかの仮定や単純化が含まれていることなどです。
そのため、この論文の結果をそのまま信じるのではなく、参考程度にすることが大切です。
腰の健康を保つためには、腰椎にかかる力を適切にコントロールすることが必要です。
そのためには、自分の腰椎にかかる力を知ることや、腰椎にかかる力を低く抑える方法を学ぶことが役立ちます。
また、腰椎にかかる力を蓄積させないためには、運動や動作の頻度や時間を調整したり、休息やストレッチを取り入れたりすることが大切です。
知識を身に着けて、負担がかかりにくい体作りや日常生活習慣を進めていきましょう!!
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腰痛がフレイルと関連していることを紹介している論文はコチラです。参考にしてみてください。
・スポーツ関連の活動では、日常生活や作業で報告された値よりもはるかに高い腰椎の圧縮力が見られた。
・特に、跳躍や着地、重量挙げやウエイトトレーニングなどの爆発的な動作では、腰椎の圧縮力が体重の10倍以上に達した。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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