がん患者の痛みに対する物理療法について

最近は疼痛に対する鎮痛薬や放射線治療について紹介してきました。

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疼痛緩和に関しては、鎮痛薬が最も有効と思いますが、なかなか奏功しないことも少なくありません。

そのような場合は、どのような方法があるのでしょうか?

疼痛緩和目的で、私たちのような理学療法士が行う手段の一つとして、物理療法というものがあります。

これは、温熱や電気刺激などで疼痛を緩和させようとする治療のことです。

整形外科なんかでは、腰痛の治療なんかで良く行っていますね。

今回は、がんサバイバーも知っておきたい疼痛に対する物理療法について紹介します。

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物理療法とは?

物理療法とは、痛みを和らげたり、循環を改善させたり、むくみを軽減させたり、体を動かしやすくする目的で、温熱、光線、電気、マッサージなどの物理的手段を用いて行う治療のことを指します。

温熱治療はホットパックやマイクロウェーブ、超音波治療といった、痛い部位を温めて疼痛を緩和する治療になります。

光線治療とは、主にレーザー治療のことで、炎症を抑えて疼痛を軽減したり、当てる部位によっては自律神経の興奮を抑える効果などが期待できます。

電気治療は、低周波、中周波、高周波、干渉波などの種類があり、筋肉のこわばりをやわらげたり、痛み刺激が脳に伝わるのを阻害したり、脳内の鎮痛薬の分泌を促したりする効果があります。

そして、マッサージとしてはウォーターベッドや観血的空気圧迫(メドマー)などがあり、循環改善や自律神経の改善などによる疼痛軽減が考えられます。

このような機器を、患者さんの状態に応じて使い分けることで、疼痛緩和を図ることが可能となるわけです。

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がん患者の疼痛は物理療法の適応となるのか?

それでは、がん患者さんの疼痛は物理療法の適応になるのでしょうか?

適応と禁忌から判断すると、答えはNOとなってしまいます・・・。

なぜなら、ほぼ全ての物理療法機器の禁忌や注意事項に、「悪性腫瘍」という記載が存在しています。

メーカーさんに話を聞いてみると、実際にがん患者さんに対して物理療法を行って有害だったという報告はほとんどないが、安全だという根拠もないため、どうしても禁忌と記載せざるを得ないとのことでした。

どうしてもリスク管理上は、安全かどうかわからないことは推奨できないという結論になってしまうようです。

そのため、日本ではがん患者さんに対する物理療法の使用は、あまり行われていない現状です。

それでは、海外ではどうなのでしょうか?

A Jacox, DB Carr, et al.: Agency for Health Care Policy and Research (AHCPR): Management of Cancer Pain. AHCPR CIinical Practice Guidelines. No.9,1994. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK52307/

Agency for Health Care Policy and Research(AHCRP)による「AHCPR Clinical Practice Guidelinesがん疼痛マネジメ ント」では ,「皮膚表面への使用が禁忌と明確に示している実験はないため,温熱の使用は推奨されるが, 活動性のがんがある患者やがんのある部位での深部熱の使用は注意が必要である」と記載されています.

寒冷療法についても同様に推奨されている記載があります。

しかし、注意点として、まずは薬物療法で疼痛をコントロールしようとしていることが大前提として、それに追加して物理療法などの非薬物療法を追加することとなっています。

やはり、薬物療法が第一選択肢というわけです。

間違っても、薬がイヤだから物理療法を第一選択肢にするという考え方はやめておきましょう。

私たちが物理療法を行う場合も、副作用の影響で鎮痛薬が増量できないなど、鎮痛薬の効果が乏しい患者さんに併用することが多いです。

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がん患者への物理療法の安全性は?

最近は、動物や細胞のがんのモデルに対する物理療法の安全性を調査した研究も認められます。

白血病モデルラットに対して赤外線による温熱刺激を,1日40分間4週間照射しても悪影響は認められなかったという報告(川内春奈, 他.: 日本基礎理学療法学雑誌, 2018.)や.培養がん細胞や皮膚がんモデルラットに対し て電気刺激を行なったが,腫瘍の成長,サイズ,重量には影響をおよぼさなかったという報告(Wang S, et al.: Int Urogynecol J , 2019.)などがあります。

基礎研究ではありますが、その安全性が認められつつありますので、必ずしも危険というわけではないようです。

しかし、医療機器上は禁忌になっていますし、ガイドラインにおいても注意を要すると記載されていますので、細心の注意を払う必要はありそうです。

少なくとも、コントロールされていない腫瘍がある部位に、積極的な物理療法を行うのは避けた方がいいかもですね。

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がん患者への物理療法の効果は?

それでは、がん患者さんに対する物理療法の効果はどうなのでしょうか?

有用性に関しては、入院中のがん患者20名に30分間の経皮的電気神経刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)を実施したところ,即時的に疼痛が軽減し,1週間後の疼痛も軽減していたことが報告されています(Nakano J, et al.: International Journal of Rehabilitation Research , 2019,).

さらに、「がんのリハビリテーションガイドライン第2版」 においても, がん患者の痛みに対してTENSを行うことは,有害事象が少なく疼痛緩和が期待できるため,実施することが提案されています.

つまり、安全性に注意しながら行う分には、その効果は期待できるということですね。

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結局どうしたらいいの?

禁忌にはなっているけど、安全である報告や有用性に関する報告もあり、ガイドラインで提案されているということになると、どうしたらいいのでしょうか?

私見になってしまいますが、基本的には、炎症があったり腫瘍がコントロールされていない部位を除けば、ホットパックや低周波などの表在に作用するような機器は使用してもいいのではないかと思います。

腹部の腫瘍の患者さんでも、腹痛や便秘があるとお腹を温めたりもしていますしね。

ウォーターベッドなんかも、やって気持ちいいのであれば制限する必要はないと思います。

ただし、超音波やマイクロウェーブといった深部熱の機器は、腫瘍の部位に熱を加えてしまい悪影響を及ぼす可能性があるかもしれないので、避けた方が無難でしょう。

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まとめ
・がんサバイバーも知っておきたい疼痛に対する物理療法について紹介。

・ほぼ全ての物理療法機器の禁忌や注意事項に、「悪性腫瘍」が記載されている。

・しかし、がん患者に対する物理療法の安全性や有効性を認める論文も散見されるようになっている。

・炎症があったり腫瘍がコントロールされていない部位を除けば、ホットパックや低周波などの表在に作用するような機器は使用していいかもしれない。

・超音波やマイクロウェーブといった深部熱の機器は、腫瘍の部位に熱を加えてしまい悪影響を及ぼす可能性があるかもしれないので、避けた方が無難かもしれない。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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