がん患者の痛みに対する運動療法の効果

最近はがん患者さんの疼痛に関することについて紹介してきました。

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本日でとりあえず総論的なことは一段落する予定ですが、最後に紹介するのは、理学療法士の専門とする運動療法についてです。

最近では、がん患者さんに限らず、疼痛の治療目的として運動療法が注目されています。

そこで今回は、がんサバイバーも知っておきたい疼痛に対する運動療法について紹介します。

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運動療法は慢性痛に対して有効である

がん患者さんに限らず、痛みが強い方は、長期間痛みを抱えていることが多くなってきます。

そんな長期間の痛みになってくると、いわゆる急性疼痛から慢性疼痛という名称に変わってきます(正確には期間だけの問題だけではないですが、ここでは長期間続く疼痛を慢性疼痛とします)

一般的には3ヶ月以上超えて続く痛みを慢性疼痛と呼ぶことが多いです。

 

そのような慢性疼痛に対して、「慢性疼痛診療ガイドライン」という指針が2021年に公表されています。

そのガイドラインでは、慢性疼痛に対して、一般的な鎮痛薬であるNSAIDsの使用は「使用することを弱く推奨する」となっています。

さらに、温熱や電気などの物理療法に至っては、「推奨なし」となっています。

慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ(編集). 慢性疼痛診療ガイドライン . 2021

それに対して、運動療法は「施行することを強く推奨する」と高い評価となっています。

外傷などの明らかに傷の痛みなどは安静が必要ですが、長期間続くような痛みに関しては運動が効果的というわけですね。

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運動が疼痛を改善させるメカニズム

それでは、運動をするとなぜ痛みが軽減するのでしょうか?

細かい話をすると難しくなりますが、すごく簡単に説明すると、一つは運動すると、人間がもともと持っている痛みを弱くしようと働く「下降性疼痛抑制機能」というのが強くなります。

脳が命令して、痛みを感じにくくさせるというわけです。

また、長期間痛みが続いている方は、痛みに対して敏感になってきます。

例えば、軽い刺激でも痛みを感じやすくなったり、刺激が繰り返されると痛みが強くなってしまうような感じです。これを「中枢性感作」といいます。

運動を行うと、この痛みを感じやすくなってしまう異常な状態が軽減すると言われています。

 

Shiro Y, et al. Pain Res Manag. 2017

こちらは、運動を行うことによって、脳が痛みを感じにくくさせる機能である「下降性疼痛抑制機能」が増加するとういうグラフです。

健常成人女性の身体活動量と下行性疼痛抑制機能の関連性を調査しています。

グラフは、右に進むと身体活動量が増加している、上に進むと下降性疼痛抑制機能が増加していることを表しています。

すると、身体活動量が増えると下降性疼痛抑制機能が増加するという関係性が見られますね。

つまり、いっぱい動いた方が疼痛が軽減するという結果になっています。

 

城由起子 他. PAIN RESEARCH. 2017

こちらは、運動を行うことによって、痛みに非常に敏感になっている状態である「中枢性感作」が改善するとういうグラフです。

慢性的な頚や肩の疼痛がある方を対象に、運動実施頻度と中枢性感作の関連性を調査しています。

グラフは、右に進むと運動の実施期間が長くなり、下に進むと中枢性感作が減少していることを表しています。

運動の内容は20分間の自転車こぎ運動で、白丸が週に2回、黒丸が週に3回実施しています。

すると、運動期間が長くなると中枢性感作が減少していることがわかります。運動の頻度が多いほど効果が強いようですね。

 

このように運動を行うと、疼痛が軽減するメカニズムが働いていることを示している研究が数多くあります。

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がん患者の疼痛に対する運動療法の効果は?

それでは、がん患者さんの疼痛に対しては、運動の効果はどうなのでしょうか?

「がんの補完代替療法クリニカル・エビデ ンス2016年版」では,「運動療法は,乳がんや頭頸部がん患者の治療に関連した肩の痛みの軽減に有用である」とされており,その有用性が認められています。

また、「がんのリハビリテーションガイドライン第2版」においても,乳がん 患者の慢性疼痛に対して運動療法を行うことは疼痛改善を認め,実施することが弱く推奨されています.

私たちの研究でも、入院中のがん患者さんに対して、低強度の運動を実施したところ、身体活動量の増加と疼痛の軽減が認められました。

石井瞬 他:第50回日本理学療法学会学術大会,2015 

このように慢性疼痛だけでなく、がん患者さんの疼痛にも運動が効果がある可能性は高そうですね。

痛みがあっても体調に合わせて運動することが大事です!!

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まとめ
・がんサバイバーも知っておきたい疼痛に対する運動療法について紹介。

・慢性疼痛ガイドラインでは、慢性疼痛の治療として運動療法が強く推奨されている。

・運動は下降性疼痛抑制機能を改善させたり、中枢性感作を低下させることにより疼痛を軽減させる。

・がん患者さんに対しても、疼痛緩和に関して、ガイドラインで運動療法が推奨されている。

・痛みがあるがん患者さんでも、体調に合わせて運動を行うことが大事だと思われます。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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