高齢者の運動の実施率が低いことは、以前紹介しました。
整形外科疾患の治療の一つは運動療法なのですが、その実施率が低いと効果にも影響をおよぼしそうですよね。
筋骨格系の疾患とは、骨や関節、筋肉などの体の動きに関係する部分に起こる病気のことです。
世界中で約17億人が筋骨格系の疾患に悩んでおり、特に15歳から64歳の成人に多く見られます。
筋骨格系の疾患は、身体機能の障害や生活の質の低下、医療費の増加など、さまざまな問題を引き起こします。
筋骨格系の疾患に対する治療法のひとつとして、運動療法があります。
運動療法とは、ストレッチや筋力トレーニングなどの身体活動を行うことで、痛みや機能障害を改善する方法です。
運動療法は、多くのガイドラインや研究で、筋骨格系の疾患に効果的であると推奨されています。
しかし、運動療法の効果を最大限に引き出すには、運動の継続が必要です。
運動の継続とは、医師や理学療法士などの専門家から指示された運動を、決められた回数や強度で行うことです。
運動の継続が高いほど、運動療法の効果も高くなると考えられています。
しかし、運動の継続は、個人の動機や自信、不安などの要因や、運動の難易度や時間などの要因によって変わります。
運動の継続が低いと、運動療法の効果も低くなる可能性があります。
では、筋骨格系の疾患に対する運動療法の研究では、運動の継続はどのように測定されているのでしょうか?また、運動の継続はどの程度であるのでしょうか?
この記事では、腰痛や肩痛、膝の変形性関節症、アキレス腱炎などの代表的な筋骨格系の疾患に対する運動療法の研究を対象に、運動の継続に関する論文を紹介します。
この論文では、運動の継続を測定した研究の割合や方法、運動の継続のレベルや要因などを調査しています。
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今回紹介する論文の概要
今回紹介する論文は、腰痛や肩痛、膝の変形性関節症、アキレス腱炎などの代表的な筋骨格系の疾患に対する運動療法の研究を対象に、運動の継続を測定した研究の割合や方法、運動の継続のレベルや要因などを調査した内容となっています。
「Kenny M, et al. Exercise adherence in trials of therapeutic exercise interventions for common musculoskeletal conditions: A scoping review. Musculoskelet Sci Pract. 2023 Jun;65:102748. doi: 10.1016/j.msksp.2023.102748. 」。
2023年の論文になります。
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対象と方法
この論文は、運動が主な治療法として用いられる4つの筋骨格系の疾患(膝関節症、腰痛、肩痛、アキレス腱炎)について、運動の実施率をどのように評価し、報告しているかを調べたものです。
運動の実施率とは、患者さんが医師や理学療法士から指示された運動をどの程度守っているかということです。運動の実施率が高ければ、運動の効果も高まると考えられます。
この論文の方法について見ていきましょう。まず、5つのデータベース(Medline, Cinahl, Embase, Emcare, and SPORTDiscus)を使って、1986年から2022年11月までに発表されたランダム化比較試験を検索しました。
ランダム化比較試験とは、患者さんを無作為に2つ以上のグループに分けて、それぞれに異なる治療法を行い、その効果を比較する研究のことです。
この論文では、少なくとも1つのグループに運動が含まれる研究を対象にしました。
運動とは、ストレッチや筋力トレーニングなどの陸上で行う1対1の運動です。
歩くや走るなどの有酸素運動や、水中運動や太極拳などの集団で行う運動は含みませんでした。
また、参加者の年齢は16歳以上で、上記の4つの疾患以外のものは除外しました。
次に、2人の研究者が独立して、検索した研究のタイトルや要約を見て、適切なものを選びました。
そして、全文を読んで、最終的に321件の研究を含めることにしました。
その後、2人の研究者が独立して、各研究から必要なデータを抽出しました。
データには、研究の特徴や参加者の特徴、運動の実施率の定義や測定方法、運動の実施率のレベルなどが含まれていました。最後に、データを分析して、結果をまとめました。
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結果
Kenny M, et al. Exercise adherence in trials of therapeutic exercise interventions for common musculoskeletal conditions: A scoping review. Musculoskelet Sci Pract. 2023 Jun;65:102748. doi: 10.1016/j.msksp.2023.102748.
Fig. 1は、このシステマティックレビューで選択された試験の流れを示す図です。
- データベースから検索された研究の数(n = 10077)
- タイトルと抄録のスクリーニングで除外された研究の数(n = 5463)
- フルテキストのスクリーニングで除外された研究の数(n = 199)
- 最終的にレビューに含まれた研究の数(n = 321)
- 各段階で除外された研究の理由
について、まとめられています。
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Kenny M, et al. Exercise adherence in trials of therapeutic exercise interventions for common musculoskeletal conditions: A scoping review. Musculoskelet Sci Pract. 2023 Jun;65:102748. doi: 10.1016/j.msksp.2023.102748.
Table 1は、運動介入の効果を調べた321件の試験のうち、運動への順守を測定した150件の試験のうち、順守のレベルを報告した100件の試験のデータをまとめたものです。
順守のレベルは、運動を指示された回数のうち、実際に運動を行った回数の割合で表されています。この表から、以下のことがわかります。
- 運動への順守の中央値は82.5%でした。つまり、半数以上の試験では、参加者は指示された運動の82.5%以上を実施していました。
- 運動への順守は、自己報告で測定した場合よりも、監督下で測定した場合の方が高かったです。自己報告では80.1%、監督下では87.9%でした。
- 運動への順守は、筋骨格系の疾患の種類によっても異なっていました。肩の痛みでは85.9%、腰痛では82.8%、膝の変形性関節症では81.5%、アキレス腱症では80.3%でした。
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321件の研究を調べたところ、以下のことがわかりました。
- 運動療法の効果を調べる研究の約半分は、参加者がどれだけ運動を守ったかを測っていませんでした。
- 運動を守ったかどうかを測ることは、運動療法の効果を正しく評価するために重要です。
- また、運動を守ることが痛みや機能障害にどのように影響するかを知ることも、運動療法の改善に役立ちます。
- 運動を実施したかどうかを測った研究の中でも、その結果を報告していない研究が約2割ありました。
- 運動を実施したかどうかの結果を報告することは、運動療法の効果や守り方の工夫を共有するために必要です。
- また、研究を登録している研究ほど、運動を実施したかかどうかの結果を報告していることがわかりました。
- 研究を登録することは、研究の透明性や品質を高めることにつながります。
- 運動を実施したかどうかの結果を報告した研究のほとんどは、運動の回数だけを測っていました。
- 運動の回数だけではなく、運動の量や強度も測ることが、運動療法の効果や守り方の理解に役立ちます。
- 例えば、毎日運動をしたとしても、指示された量や強度よりも少なかったり、多かったりすると、筋骨格系に望ましい変化が起こらなかったり、逆に痛みを悪化させたりする可能性があります。
- 運動を実施したかどうかを自分で報告する方法よりも、監督される方法のほうが、運動を守る割合が高かったです。
- 監督される方法とは、運動を研究者や治療者の前で行うことです。
- 監督される方法では、参加者に教育やフィードバック、サポートや目標設定などを行いやすいです。
- これらの要素は、運動を守ることに影響すると考えられます。また、運動の種類や期間なども、運動を守ることに関係するかもしれません。
考察
この論文の考察の内容を簡単にまとめると、以下のようになります。
- 運動療法の守り方の評価と報告は不十分:321件の臨床試験のうち、運動療法の実施率を評価したのは150件(46.7%)でした。しかし、そのうち31件(20.7%)は評価した結果を報告していませんでした。
- 運動療法の実施率を評価した臨床試験は、登録された臨床試験やアキレス腱炎の臨床試験に多く見られました。
- 発表年度と運動療法の実施率の評価や報告には関係がありませんでした。つまり、運動療法の守り方の評価や報告は、時間とともに改善されていないということです。
- 運動療法の守り方の測定方法は多様だが、頻度が主に用いられる:運動療法の実施率を測定した150件の臨床試験のうち、自己報告が71件(47.3%)、監督下での運動が48件(32.0%)、両方の組み合わせが31件(20.7%)でした。
- 自己報告は、日記やログ(87.3%)、電話(7.0%)、ウェブサイトやオンラインアプリ(5.6%)などの方法で行われました。
- 運動療法の実施率の測定結果を報告した100件の臨床試験のうち、97件(97.0%)は頻度(運動を行った回数や割合)を用いていました。
- しかし、頻度だけでは、運動療法の量や強度など、運動療法の効果に重要な要素を無視してしまう可能性があります。
- 運動療法の実施率の水準は監督下で高い:運動療法の実施率の測定結果を報告した100件の臨床試験のうち、66件(68.0%)が自己報告、31件(32.0%)が監督下での運動を用いていました。
- 監督下での運動の方が、自己報告よりも運動療法の守り方の水準が高かったです。
- 監督下での運動では、参加者に教育やフィードバック、サポートや目標設定などを行うことができ、運動療法の守り方を向上させることができます。
- また、運動療法の種類や期間なども、運動療法の守り方に影響する可能性があります。
これらの内容を参考に、運動の実施率を評価したり、実施率を高める工夫をしていきたいですね!
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運動が苦手な方には、1日3秒で効果が出る運動を紹介しているコチラにを参考にしてみてください。
・運動療法の実施率の中央値は82.5%で、監督下での運動療法の方が自己報告の運動療法よりも高かった 。
・運動療法の実施率を評価し報告することは、運動療法の効果を正しく判断するために重要でが、その際には頻度だけでなく、量や強度などの他の指標も考慮する必要がある。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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