腰痛と坐骨神経痛に対する鎮痛薬の効果について解説

今回の記事では、腰痛と坐骨神経痛に対する鎮痛薬の効果についてまとめた論文を紹介します。

以前、がん患者さんの痛みの治療として鎮痛薬を紹介しました。

がん患者の痛みに対する鎮痛薬の使い方

2022年2月26日

がん患者さんの痛みに対しては鎮痛薬って非常に重要でしたね。 

 

鎮痛薬を選択するためには、その痛みの原因をある程度特定する必要がありました。

がん患者の痛みの原因、評価について解説

2022年2月25日

がん患者さんの痛みの原因は、がん性疼痛と思いがちですが、最近では「がんロコモ」という言葉があるように、運動器疾患の問題で痛みが出現する場合もよくあります。

がん患者の運動機能低下~ロコモティブシンドロームについて~

2022年2月23日

 

運動器の痛みで最も多く出現しやすいのが腰痛です。

腰痛に対してどのような鎮痛薬が効果があるのか知っておく必要がありますね。

 

そこで、今回は、腰痛と坐骨神経痛に対する鎮痛薬の効果についてまとめた論文を紹介します。

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まとめ
・腰痛と坐骨神経痛に対する鎮痛薬の効果についてまとめた論文を紹介。

・急性腰痛にはNSAIDsを使用しつつ、アセトアミノフェンやオピオイドも検討する。

・慢性腰痛には、抗うつ薬を使用しつつ、NSAIDsやオピオイドも検討する。

・坐骨神経痛には、Ca2+ チャネル α2δ リガンドを使用しつつ、NSAIDsやオピオイドを検討する

・NSAIDs、オピオイド、抗うつ薬、Ca2+ チャネル α2δ リガンドは有害事象を把握して使用する必要がある。

今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、基本チェックリストの社会・認知・精神的側面に着目して地域在住高齢者の生活機能を評価し,生活機能低下に与える心身機能および痛みの影響について調査した内容になっています。

「加藤 欽志, 伊藤 紀治, 野澤 一貴, 他. 腰痛と坐骨神経痛に対する薬物療法に関するナラティブレビュー. Journal of Spine Research/13 巻 (2022) 2 号」 2022年に発行された論文になります。

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方法

加藤 欽志, 伊藤 紀治, 野澤 一貴, 他. 腰痛と坐骨神経痛に対する薬物療法に関するナラティブレビュー. Journal of Spine Research/13 巻 (2022) 2 号

2016 年 12 月以降の文献検索を実施しています.

検索に用いたキーワードは,腰痛と坐骨神経痛の類義語を含めています.

薬物療法に関して は,①非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal antiinflammatory drugs;NSAIDs),②ア セ ト ア ミ ノ フェン,③オピオイド,④抗うつ薬,および⑤Ca2+ チャネル α2δ リガンドを対象とし,これらの総称,薬 剤名,商品名を検索キーワードとしています.

非薬物療法 について検討した論文は対象外とし,神経ブロック療法,電気刺激療法,手術,理学療法,運動療法, 認知行動療法,ヨガ,太極拳,瞑想を除外キーワー ドとしました.

 

一次スクリーニングにおける除外基準は,①抄録 がない,②基礎研究,③対象とする患者の症状が腰 痛または坐骨神経痛ではない,④本レビューで対象とした上記 5 種の薬剤以外の薬物療法(筋弛緩薬な ど)についての検討,⑤非薬物療法についての検討, ⑥比較対照群がない(単一群の治療前後での比較),である.

二次スクリーニングでは,①腰痛または坐 骨神経痛の患者のみで構成された集団における結果 が報告されていない,②評価尺度を用いた痛みの評 価がなされていない,③副次的な論文(事後解析), ④医中誌で抽出された英語文献,を除外基準として加えています.

 

最終的にRCT12 報,観察研究 9 報が採択されました。

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結果

急性・亜急性腰痛に対する薬物療法

①NSAIDs

既存の SR では疼痛・機能改善効果が報告されており ,現行ガイドラインでは急性腰痛の推奨薬とされていますが、2017 年以降の RCT はありませんでした.

 

日本では使用されていませんが、ジフルニサルというNSAIDsを使用した研究では,無治療群に比べてジフルニサル群で有意な疼痛改善が見られています.

また、アセクロフェナク群,ジクロフェナク群,ナ プロキセン群,ニメスリド群といったNSAIDsの効果を調査した研究でも、治療薬投与前と比較して有意な疼痛改善が認められ,特にアセクロフェナク群で痛みの改善度合いが最も大きかったとのことです.

 

②アセトアミノフェン

現行ガイドラインでは推奨薬とされて いますが、今回抽出した SR では疼痛にも機能にも改善効果がないとしています .

ロキソプロフェンに対する アセトアミノフェンの鎮痛効果の非劣性が確認された研究がありますが.小規模かつ非盲検の試験であり,割付 後の 4 週間の follow-up で約半数が脱落しておりバ イアスのリスクは大きいとされています.

 

③オピオイド

現行ガイドラインでは,弱オピオイドが推奨薬とされています .

しかし、SR では,急性腰痛に対する 弱・強オピオイド単独療法の有効性に関するエビデンスはないようです.

 

観察研究では、弱オピオイドに関して,トラマドール+dexketoprofen(NSAIDs)の配合剤とジクロフェナク+thiocolchicoside(筋弛緩薬)の 2 種類の併用療法を比較 した観察研究で、いずれの治療群で も疼痛は治療前に比べて有意に改善し,レスキュー 薬使用状況や副作用発現の観点からはトラマドール 併用療法の方が好ましいとする結果となっています。

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慢性腰痛に対する薬物療法

①NSAIDs

NSAIDs は慢性腰痛に対する推奨薬となっています。

一方で、今回検討した SR では疼痛改善効果は報告さ れているが,機能改善については「効果はないか, わずかな効果がある」と報告されています.

しかし, 今回得られた RCT3 報では一貫して,疼痛と機能障 害の改善効果が示されていました .

 

疼痛に関して, セレコキシブのロキソプロフェンに対する非劣性が示され、ロキソプロフェン群と同程度の改善が認められています.

また,1 日 1 回のアセクロフェナク徐放剤(200mg)の有効性を 1 日 2 回の錠剤(100 mg)と比較し た実薬対照RCTでは,両群とも治療前に比べて疼 痛とODI スコアが有意に改善し,服用回数の少ない 徐放剤の有効性が示されています.

 

②オピオイド

本邦では弱オピオイドは推奨薬ですが,強オピオイドは過量使用や依存性の問題から, 他の治療法を先に検討することが推奨されています.

SR では,トラマドールと強オピオイド の疼痛と腰痛関連 QOL 改善効果が報告されています.

Kawamata らの強化組み入れランダム化治療中 止(enriched enrollment randomized withdrawal; EERW)試験25) では,主要評価項目(ランダム化後, 効果不十分になるまでの時間)ではオキシコドン徐 放性製剤の有効性が示されていますが,EERW デザインの 特性上,オキシコドンの忍容性や疼痛改善効果が漸 増期間中に確認された患者のみランダム化されてい るため,一般化可能性は限定的であるとされています.

 

③抗うつ薬

SR では,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込 み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor;SNRI)であるデュロキセチンの疼痛・機能改 善効果が認められています.

一方で,三環系抗うつ薬 と選択的セロトニン再取り込み阻害薬の疼痛改善効 果は認められていません .

本邦では,SNRI は慢性腰 痛に対する推奨薬となっています.

 

RCT では,デュ ロキセチン群でプラセボ群に比べて有意な疼痛軽減 と RDQ スコアの改善が示されています .

 

④Ca2+チャネル α2δ リガンド

Ca2+チャネル α2δ リガンドとは、日本で販売されている商品名としては「リリカ」が有名ですね。

Enke らの SR では疼痛と腰痛関連 QOL の改善効果はないと結論づけられています.

また,現行ガイドラ インでも Ca2+チャネル α2δ リガンドは慢性腰痛の推奨薬にはなっていません.

 

観察研究では、 NSAIDs 無効例の 65 歳以上の慢性腰痛患者を対 象にプレガバリンとトラマドール+アセトアミノ フェン配合錠の治療効果を比較したています.

プレガバリン治療群では,神経障 害性疼痛の有無に関わらず,4 週後には治療前と比 べて有意な疼痛改善が認められています.

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坐骨神経痛に対する薬物療法

①NSAIDs

現行ガイドラインでは推奨薬となっていますが,SR ではエビデンスが少なく一貫した結論 が得られていないことから,疼痛改善効果は評価不能とされています.

 

観察研究 急性腰痛と慢性腰痛の項でも紹介した Hurme ら の研究では,坐骨神経痛患者においても,ジフルニ サル群では無治療群に比べて有意な疼痛軽減が認められています.

 

②オピオイド

現行ガイドラインではオピオイドは坐骨神経痛に対する推奨薬にはなっていません.

今回検討した SR では腰部 脊柱管狭窄に対するオキシコドンの有効性を検討した小規模 RCT が 1 報28) 紹介されていますが,有効性は認められていません。

観察研究では,慢性腰痛患 者で,painDETECT questionnaire(PDQ)により神 経障害性疼痛があると判定した患者を対象に,オキ シコドンとタペンタドールの治療効果を評価しています.

オキシコドン群の方が改善の程度は有意に大きかっ たが,いずれの治療群においても治療前と比べて有 意な疼痛と機能改善が認められました.

 

③Ca2+チャネル α2δ リガンド

Chou らの SR ではエビデンス不足により疼痛・ 機能改善効果は評価不能とされています.

また,Enke らの SR では,短期的な疼痛改善効果に関しては一貫した報告がなく,中長期的な疼痛や機能改善の効果はな いとされています.

一方,現行ガイドラインでは,Ca2+ チャネル α2δ リガンドは坐骨神経痛に対する推奨薬とされています .

 

急性および慢性の坐骨神経痛患者を対象としたプ レガバリンのプラセボ対照試験では,プラセボ群 と比べて有意な疼痛軽減や機能改善は認められていません.

Nakashima らの実薬対照試験では,疼痛における群間の有意 差はなかったものの,ロキソプロフェン単独よりも プレガバリンを併用した方が睡眠障害の改善度が大 きかったと報告されています。

Robertson らのク ロスオーバー試験 においてガバペンチンとプレガ バリンの有効性が検討され、いずれの治療におい ても治療前と比べて有意な疼痛・機能改善効果が観 察されています。

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安全性

①NSAIDs

プラセボと比較して有害事象のリスクが高いこと が SR で報告されており、主な有害事象として胃腸障害が報告されています.

プラセボ対照 RCT でもセレコキシブ群 での有害事象の発現割合はプラセボ群よりわずかに 高かったが,忍容性は概ね良好であったと報告され ています.

 

②アセトアミノフェン

SR では重篤な有害事象のリスクはプラセボと同 程度で NSAIDs よりも小さいと報告されています。

今回検討したアセトアミノフェンとロキソプロフェ ンの実薬対照試験においてもアセトアミノフェン群 の方が有害事象の発現は少なかっったようです .

 

③オピオイド

ガイドライン改訂時のメタアナリシスでは,トラマドールや強オピオイドでは,プラセボに比較して有意に有害事象の頻度が高いことが報告されています.

オピオイドの一般的な副作用としては嘔気・嘔吐,便秘,眠気,めまい・ふらつきが知られていますが,今回検討した研究でもオピオイド治療群には共通してこれらの有害事象または副作用が報告されています。

 

④抗うつ薬

SNRI であるデュロキセチンの安全性に関しては,重篤な有害事象のリスクはプラセボと同程度で あるが,悪心のリスクが高いことが SR で報告され ています.

今回検討したプラセボ対照 RCTでも同 様の結果が示され,悪心のほかに,傾眠,便秘,め まい,口渇がデュロキセチン群でプラセボ群より有 意に多く認められています.

 

⑤Ca2+チャネル α2δ リガンド

SR では有害事象のリスクが報告されており,主に 傾眠,めまい,悪心が挙げられています.

今回検討し たプラセボ対照 RCTでも有害事象の発現割合はプレガバリン群の方がプラセボ群より高くなっていました.

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まとめ

本稿では,急性腰痛,慢性腰痛,坐骨神経痛それ ぞれに対する薬物治療を概説しました.

今回得られたエビデンスは 総じて現行ガイドラインの推奨に沿うものでした.

各治療法の「益」 と「害」を理解した上で,患者の背景に応じた適切 な薬剤選択をすることが求められます.

エビデンスが 依然不十分である薬剤もあり,今後も RCT・観察研 究双方からの知見集積の継続が求められます。

 

なかなかどの疼痛に対して、どの鎮痛薬がいいと断言はできませんが、概ね現行のガイドラインに沿って問題ないようです。

 

具体的には、急性腰痛にはNSAIDsを使用しつつ、アセトアミノフェンやオピオイドも検討する。

慢性腰痛には、抗うつ薬を使用しつつ、NSAIDsやオピオイドも検討する。

坐骨神経痛には、Ca2+ チャネル α2δ リガンドを使用しつつ、NSAIDsやオピオイドを検討するといったところでしょうか。

ただし、NSAIDs、オピオイド、抗うつ薬、Ca2+ チャネル α2δ リガンドは有害事象を把握して使用する必要がありますね。

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まとめ
・腰痛と坐骨神経痛に対する鎮痛薬の効果についてまとめた論文を紹介。

・急性腰痛にはNSAIDsを使用しつつ、アセトアミノフェンやオピオイドも検討する。

・慢性腰痛には、抗うつ薬を使用しつつ、NSAIDsやオピオイドも検討する。

・坐骨神経痛には、Ca2+ チャネル α2δ リガンドを使用しつつ、NSAIDsやオピオイドを検討する

・NSAIDs、オピオイド、抗うつ薬、Ca2+ チャネル α2δ リガンドは有害事象を把握して使用する必要がある。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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