超音波を用いたサルコペニアの評価:ISarcoPRMの特徴について解説

以前の記事では、サルコペニアの筋量の評価として、超音波による計測を採用している診断基準を紹介しました。

サルコぺニアの診断基準について~超音波の筋厚計測も含めて~

2023年2月27日

Kara M, Kaymak B, Frontera W, et al. Diagnosing sarcopenia: Functional perspectives and a new algorithm from the ISarcoPRM. J Rehabil Med. 2021; 53(6):jrm00209.

様々な検討を行った上で、上記のようなフローチャートが作成されたわけですが、その過程において筋量や筋機能低下に対する多くの疑問についてまとめられています。

 

具体的には下記のとおりです。

 

 

Kara M, Kaymak B, Frontera W, et al. Diagnosing sarcopenia: Functional perspectives and a new algorithm from the ISarcoPRM. J Rehabil Med. 2021; 53(6):jrm00209.

 

そこで今回は、サルコペニア診断のために解決すべき疑問点に対してまとめられた内容について紹介します。

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まとめ
・サルコペニア診断のために解決すべき疑問点に対してまとめられた内容について紹介。

・ISarcoPRMでは、より早期に、より可逆的な時期にサルコペニア患者を同定するために、すべての高齢者のスクリーニングが提案されている。

・全身の骨格筋量でなく、必要な部位の骨格筋量の測定を考慮しなければ、不正確となってしまう可能性がある。

・超音波測定は、特に大腿前部筋厚の測定において、有効かつ信頼でき、簡単、迅速、安全、携帯できる手段となり得ます。

・握力はサルコペニアのスクリーニングには有用だが、下肢筋力の測定も行う必要がある。

・大腿前面の筋量をBMIで調整した値を使用することが推奨される。

・ISarcoPRMは、高齢者全般を対象としていること、5回立ち座りテストと超音波による大腿前面の骨格筋量の評価に着目していることが特徴である。

サルコペニア評価のスクリーニング

サルコペニアには、様々なスクリーニング検査が提案されています。

転倒、脱力、遅い歩行速度、椅子からの立ち上がりや階段の昇降の困難といった症状や徴候を、患者が報告してからスクリーニングが始まることがあります。

このような場合、さらに下腿周径の測定や、自己申告によるSARC-F質問票を評価することが提案されています。

 

しかし、これらの検査は、感度が低く、特異度が高いという特徴があり、早期の治療が有効であると思われる移動制限のある重症例や晩期症例をほとんど発見することができません。

 

したがって、より早期に、より可逆的な時期にサルコペニア患者を同定するために、ISarcoPRMでは、すべての高齢者のスクリーニングを提案しています。

そして、コントロールされていない高血圧や降圧剤使用者を含む肥満、代謝症候群、RAS関連障害などの慢性共存疾患を持つ成人のスクリーニンも提案しています。

 

スクリーニング内容としては、チェアスタンドテスト(CST)と握力が、サルコペニアのスクリーニングのための簡単で有用なツールと考えられています。

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骨格筋量の測定

加齢に伴う筋肉の減少をDXAで正確に検出できるかは不明とされています。

縦断的研究により、筋力とパフォーマンステストは有害な結果(転倒、移動制限、股関節骨折、死亡率)を予測し、DXAに付加価値はないことが示されています。

 

この理由としては、加齢に伴う筋肉の減少が、他の筋肉一般よりも大腿前部に顕著であることに起因すると考えられています。

つまり、全身の骨格筋量でなく、必要な部位の骨格筋量の測定を考慮しなければ、不正確となってしまうわけです。

 

サルコペニアでは、移動能力の基本となる大腿前部筋がより一般的に、そしてより深刻に影響を受けおり、12年間で、膝伸展筋力が24~30%、大腿四頭筋が16%低下していることを明らかになっています。

また、下腿と大腿の筋断面積は、移動制限と死亡率と相関していることがわかっています。

さらに、最近の横断的研究では、筋力/筋量およびパフォーマンステストは、総筋肉量測定よりも大腿前部筋測定とより良い相関があると報告されています。

 

サルコペニアの(早期)診断には、全身の骨格筋量よりも大腿前部筋の測定の方が価値が高いかもしれません。

そして、超音波測定は、特に大腿前部筋厚の測定において、有効かつ信頼でき、簡単、迅速、安全、携帯できる手段となり得ます。

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筋力検査

加齢による低下の勾配は、力が最も大きく、力は中程度、筋CSAはあまり顕著ではないと報告されています。

例えば、20代の被験者と比較すると、85歳以上の脚伸展パワーは75%、筋力は40~50%、筋断面積は20%低下となっています。

したがって、下肢の筋力・パワーテスト(CST、階段昇降テスト、最大歩行速度など)は、早期の筋機能低下を特定するために使用することが可能と考えられます。

 

筋力・パフォーマンステストは、筋量測定よりも罹患率や死亡率と高い相関があります。

特に、握力は、シンプルで簡単、かつ安価なスクリーニングツールであり、若年、中年、高齢者における将来の罹患率と死亡率の強力な予測因子となっています。

握力はサルコペニアのスクリーニングには有用ですが、握力のみ(すなわち、CSTなし)では誤ってサルコペニアを診断してしまう可能性があります。

下肢筋力は上肢筋力よりも早く(そして、より大きく)低下するため、CSTや階段昇降試験などのツールは、高齢成人における下肢機能だけでなく、筋力/パワーを評価するための適切なツールと思われます。

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パフォーマンステスト

CSTは、座った状態から腕を使わずに立ち上がり、できるだけ早く座ることを5回繰り返す時間を測定します。

加齢に伴い、パワーは筋力よりも速い速度で低下するので、CSTのような筋力/パワーテストは、サルコペニアの早期発見に有用であると思われます。

 

しかし、下肢筋力低下は高齢者のCSTパフォーマンスを修飾する唯一の要因ではなく、持久力、姿勢、痛みの有無、心理的要因もCSTの低下を説明する可能性があります。

 

杉本 諭, 古山 つや子, 関根 直哉, Short Physical Performance Battery は要介護高齢者に対するパフォーマンステストとして利用できるか?, 理学療法科学, 2020, 35 巻, 2 号, p. 237-243

Short Physical Performance Battery(SPPB)は、有効で信頼性の高い下肢機能の測定法で、障害と死亡率を予測することができます。

SPPBの3つの構成要素のうち、障害リスクの急勾配は歩行速度に見られます。

歩行速度のみは測定が容易であるため、移動制限を定義するために、より包括的なカットポイント値である≦0.8m/sを使用することもあります。

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骨格筋量やその他のテストのカットオフ値

大腿前面の筋肉は加齢に伴い早期に関与するため、大腿前面の筋肉測定にカットオフ値を用いることで、筋肉の減少、すなわち身体構造の障害についてより迅速な情報を提供できる可能性があります。

大腿前面の筋肉の減少を検出するために、大腿前面筋厚や前後比を用いる研究もありますが、被験者の筋肉測定は、年齢、性別、体重、身長によって異なります。

したがって、調整された部位別筋肉量測定値を使用する必要があります。

健康な若年成人におけるこれら2つの変数の相関性(男性でr = 0.500、女性でr = 0.447)から、大腿前部筋厚をBMIで調整することが提案されています。

 

そのほかの検査のカットオフ値は下記のとおりです。

 

Kara M, Kaymak B, Frontera W, et al. Diagnosing sarcopenia: Functional perspectives and a new algorithm from the ISarcoPRM. J Rehabil Med. 2021; 53(6):jrm00209.

多くのカットオフ値があるので、実際の臨床場面に応じてどれを使用するか検討するといいでしょうね。

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ISarcoPRM 診断アルゴリズム

Kara M, Kaymak B, Frontera W, et al. Diagnosing sarcopenia: Functional perspectives and a new algorithm from the ISarcoPRM. J Rehabil Med. 2021; 53(6):jrm00209.

Kara M, Kaymak B, Frontera W, et al. Diagnosing sarcopenia: Functional perspectives and a new algorithm from the ISarcoPRM. J Rehabil Med. 2021; 53(6):jrm00209.

上記の内容が他のサルコペニア診断との違いになります。

高齢者全般を対象としていること、5回立ち座りテストと超音波による大腿前面の骨格筋量の評価に着目していることが大きな違いのようですね。

 

超音波さえあれば、臨床場面で実施しやすそうなアルゴリズムですので、ぜひ活用したいですね。

まとめ
・サルコペニア診断のために解決すべき疑問点に対してまとめられた内容について紹介。

・ISarcoPRMでは、より早期に、より可逆的な時期にサルコペニア患者を同定するために、すべての高齢者のスクリーニングが提案されている。

・全身の骨格筋量でなく、必要な部位の骨格筋量の測定を考慮しなければ、不正確となってしまう可能性がある。

・超音波測定は、特に大腿前部筋厚の測定において、有効かつ信頼でき、簡単、迅速、安全、携帯できる手段となり得ます。

・握力はサルコペニアのスクリーニングには有用だが、下肢筋力の測定も行う必要がある。

・大腿前面の筋量をBMIで調整した値を使用することが推奨される。

・ISarcoPRMは、高齢者全般を対象としていること、5回立ち座りテストと超音波による大腿前面の骨格筋量の評価に着目していることが特徴である。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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