化学療法や移植後の血液がん患者が抱える生活の困難感は?

今回は,急性白血病治療後患者の生活における困難感と対処について調査を行った論文を紹介します.

 

血液がんの治療は、化学療法や造血幹細胞移植などが長期に及ぶため、体力低下などの多くの問題を生じやすくなっています。

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2022年4月12日

身体や情緒などに問題を生じやすいので、リハビリも含めた多職種での介入が効果的となっております。

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2022年4月13日

しかし、リハビリなどの多職種が介入するのは入院治療中が大半であり、治療後はなかなか関わる機会はありません。

実際には、治療後からも日常生活で多くの困難を生じていることが予測されます。

 

そこで、今回は,急性白血病治療後患者の生活における困難感と対処について調査を行った論文を紹介します.

まとめ
・急性白血病治療後患者の生活における困難感と対処について調査を行った論文を紹介。

・対象284 人 のうち,化学療法群(化療群)84 人(45.1%),GVHD 有群106 人 (62.4%),GVHD 無群94 人(55.9%)で比較検討した。

・移植後GVHD 有群では身体面,化学療法群では精神面に関する困難感が多くなっていた。

・化療群と移植後GVHD 有群では就 労できない困難感,移植後GVHD 無群では復職後就労継続の困難感が多い結果だった。

・これらの困難感に対処するためには,「治療やその後の合併症についての知識・セルフケアを習得し活用する力」,「自分なりに対処できたと評価できる力」,「必要な支援を求め,現状を理解してもらえるよう説明する力」,「社会復帰に関する情報・支援を活用し,周囲とのコミュニケーションを良好に保つ力」が必要である。

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今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、急性白血病治療後患者の生活における困難感と対処について調査を行った内容になっています。

「森 文子, 黒澤 彩子, 山口 拓洋, 他. 急性白血病患者が治療後に経験する生活上の困難感とその対処に関する検討―健康関連QOLの側面に基づく質的分析―. 日本造血・免疫細胞療法学会雑誌/11 巻 (2022) 3 号」 2022年に発行された最新の論文になります。

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対象

森 文子, 黒澤 彩子, 山口 拓洋, 他. 急性白血病患者が治療後に経験する生活上の困難感とその対処に関する検討―健康関連QOLの側面に基づく質的分析―. 日本造血・免疫細胞療法学会雑誌/11 巻 (2022) 3 号

今回の研究では,対象者524 人のうち,自由記述のあった284 人(54.2%)の回答を調査対象としています。

表は、対象者の特徴になります。

284 人 のうち,化学療法群(化療群)84 人(45.1%),GVHD 有群106 人 (62.4%),GVHD 無群94 人(55.9%)でした。

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方法

この研究で用いた調査項目は,患者背景(年齢,性別,疾 患名,受けた治療,治療時期,治療後経過期間,婚姻状況, 職場復帰等),および自由記載欄の記述から抽出した患者が経験した(経験している)日常生活や社会生活における困りごとや要望等についての自由記述内容となっています。

 

化学療法群(化療群)と移植群,かつ移植群は移植後GVHD の有無で分け(以下GVHD 有群 とGVHD 無群),3 群に分けて、健康関連QOL を参考に Physical,Emotional,Functional,Social & Family の4 側面 のwell-being に分類し,抽象化しカテゴリ化し、各群の特性を比較しています。

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結果

森 文子, 黒澤 彩子, 山口 拓洋, 他. 急性白血病患者が治療後に経験する生活上の困難感とその対処に関する検討―健康関連QOLの側面に基づく質的分析―. 日本造血・免疫細胞療法学会雑誌/11 巻 (2022) 3 号

こちらのグラフは、生活の困難感についてPhysical,Emotional,Functional,Social & Familyのうちのどの項目が該当するかを示しています。

 

化療群ではEmotional が最も多く,次いでPhysical,Social & Family でした。

GVHD 有群ではPhysical が最も多く, 次いでEmotional でした。

GVHD 無群ではEmotional, Physical が同等で,次いでSocial & Family でした。

GVHD 有群ではPhysical が一番目立ちますね。また、Emotionalはどの群でも割合が高くなっています。

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Physical の内訳

化療群では『治療薬/移植前処置の副作用』が最も多く, 次いで『晩期合併症』でした。

GVHD 有群では『GVHD』 が半数以上を占め,次いで『治療薬/移植前処置の副作用』, 『感染症』でした。

GVHD 無群では『治療薬/移植前処置の副作用』が最も多く,次いで『感染症』でした。

3 群 ともに,『治療薬/移植前処置の副作用』『感染症』『晩期合併症』が共通していました。

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Emotional の内訳

化療群とGVHD 有群では『不安』に関するコードが最も多くなっています。

化療群では「再発に対する不安がある」が他群より多く,GVHD 有群では「今後の経過」「経済面」 「再発」「将来」といった自分自身の今後に対する不安が多くなっています。

GVHD 無群では『周囲の理解と支援へのニード』に関するコードが最も多く,「闘病中や治療後も精神的な支えが必要である」「社会全体や周囲から理解を得られないと感じる」といった他者との関わりの中で生じる困難感が多くなっています。

 

一方,ポジティブな意見として3 群ともに,「自分なりの対処法をみつけた」「回復を実感し,安心する」等から成る 『自分なりの安定感・自信』がありました。

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Functional の内訳

GVHD 有群では 「合併症が日常生活・社会生活に影響した」が最も多く、GVHD 無群では「性腺機能障害が家族や日常生活に影 響している」が最も多くなっていました。

また、「自分なりの対処法をみつけ継続している」というポジティブな意見もありました。

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Social & Familyの内訳

この側面は就労と家族に関する内容に分けられました。

 

就労に関しては,化療群とGVHD 有群は就労そのものが難しい『復職・就労困難』が多くなっていました。

GVHD 無群は,「復 帰後に社会や周囲の理解が得られにくいと感じる」等の『復 職・就労後の困難感』が他群より多くなっていました。

一方『職場の 支援・配慮の大切さ』や『社会復帰の意味』等のポジティ ブな内容のものは3 群類似していました。

 

家族に関するコードは3 群類似し「自分の病気療養が家 族に影響した」「家族内での役割継続の困難があった」「家 族とわかりあうことの難しさを感じた」等がありました。

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結論

移植後GVHD 有群では身体面,化学療法群では精神面に関する困難感が多くなっていました。

化療群と移植後GVHD 有群では就 労できない困難感,移植後GVHD 無群では復職後就労継続の困難感が多い結果でした。

 

これらの困難感に対処するためには,「治療やその後の合併症についての知識・セルフケアを習得し活用する力」,「自分なりに対処できたと評価できる力」,「必要な支援を求め,現状を理解してもらえるよう説明する力」,「社会復帰に関する情報・支援を活用し,周囲とのコミュニケーションを良好に保つ力」が必要と記載されています。

 

まずは、病気や治療に対する知識や対処法を身に着け、自己評価を行えるようになることが大事なようです。

ただし、自分の力だけでは困難なことも多いですので、現状を理解してもらいサポートしてもらえるような環境調整も行っていく必要があるということですね。

なかなか、社会や職場に理解してもらうのは難しいかもしれませんが、少しずつそのような社会になりつつありますので、理解してもらえるように周知していきましょう。

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まとめ
・急性白血病治療後患者の生活における困難感と対処について調査を行った論文を紹介。

・対象284 人 のうち,化学療法群(化療群)84 人(45.1%),GVHD 有群106 人 (62.4%),GVHD 無群94 人(55.9%)で比較検討した。

・移植後GVHD 有群では身体面,化学療法群では精神面に関する困難感が多くなっていた。

・化療群と移植後GVHD 有群では就 労できない困難感,移植後GVHD 無群では復職後就労継続の困難感が多い結果だった。

・これらの困難感に対処するためには,「治療やその後の合併症についての知識・セルフケアを習得し活用する力」,「自分なりに対処できたと評価できる力」,「必要な支援を求め,現状を理解してもらえるよう説明する力」,「社会復帰に関する情報・支援を活用し,周囲とのコミュニケーションを良好に保つ力」が必要である。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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