がんの治療の有害事象に対して鍼灸治療は効果があるのか?【ガイドライン解説】

今回は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの治療の有害事象に対する鍼灸治療の効果について記載している内容を紹介します。

前回は、がん患者に対する鍼灸治療の有害事象について記載している内容を紹介しました。

がん患者に対する鍼灸治療の有害事象は?【ガイドライン解説】

2022年9月27日

 

鍼治療による有害事象は報告は認められるものの、低頻度かつ軽微であり、その実施は比較的安全ということでしたね。

 

それでは、鍼灸治療は、がんの治療の有害事象に効果は期待できるのでしょうか?

 

そこで今回は、がんの治療の有害事象に対する鍼灸治療の効果について記載している内容を紹介します。

記載内容は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版、から引用させていただいております。

まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの治療の有害事象に対する鍼灸治療の効果について記載している内容を紹介。

・鍼治療は化学療法に伴う悪心・嘔吐を軽減させ、灸治療は骨髄抑制を軽減させる可能性がある。

・ホットフラッシュや放射線性口腔乾燥、化学療法性末梢神経障害性疼痛などの難治性の症状にも効果がある可能性もあるようである。

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化学療法に伴う悪心・嘔吐に対する効果

①システマティックレビューでは、化学療法後のがん患者の悪心・嘔吐に対して、経穴刺激による軽減効果に関する11件の無作為化比較試験のメタアナリシスを行った結果、介入群は対照群と比較して、化学療法に伴う急性の嘔吐の頻度を減少させています

電気鍼治療を行った患者群も対照群と比較して、急性の嘔吐を示す患者の割合を減少させています。

さらに、指圧療法は急性の悪心の重症度を低下させています

 

②システマティックレビューでは、乳がん患者に対して特定の経穴への刺激を行うことで化学療法に伴う悪心の軽減に関する3件の無作為化比較 試験の文献的考察を行った結果、乳がん患者の化学療法に伴う悪心・嘔吐を軽減させると述べています。

 

③システマティックレビューでは、がん患者の化学療法に伴う悪心・嘔吐に対して、鍼治療による効果に関する1件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、がん患者に対して鍼治療は化学療法に伴う悪心・嘔吐を軽減させると結論づけています。

 

④システマティックレビューでは、灸治療によるがん患者の化学療法による悪心・嘔吐の改善に関する5件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、2件の無作為化比較試験において、介入群は対照群と比較して化学療法による悪心・嘔吐の頻度を低下させました。

これらの結果から、灸治療はがん患者の化学療法に伴う悪心・嘔吐の軽減に有効である可能性はあるが、結論を導くには十分なエビデンスとはいえないと結論づけています。

 

⑤システマティックレビューでは、経穴への薬物注射(pharmacopuncture)によるがん患者の化学療法に伴う悪心・嘔吐の改善に関する5件の無作為化比較 試験のメタアナリシスを行った結果、3件の無作為化比較試験において、介入群は対照群と比較して、化学療法に伴う悪心・嘔吐の重症度を軽減させました。

また、2件の無作為化比較試験において、悪心・嘔吐の頻度が減少しました。

しかし,その有効性は結論づけられないと述べています。

 

⑥ システマティックレビューでは,鍼治療によるがん患者の化学療法に 伴う悪心・嘔吐の軽減効果に関する13件の無作為化比較試験について文献的考察を行った結果,鍼治療は対照群と比較して,がん患者の化学療法に伴う悪心・嘔吐 の軽減に有効であると結論づけています。

 

以上より,鍼治療は,化学療法による悪心・嘔吐を軽減させると考えられます。

 

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ホットフラッシュに対する効果

①システマティックレビューでは,乳がん患者のホットフラッシュに対する鍼治療あるいは電気鍼治療の効果に関する3 件の無作為化比較試験の文献的考察とメタアナリシスを行った結果,1 件の無作為化比較試験において,介入群は 対照群(偽鍼治療)に比較してホットフラッシュの頻度が低下していました。

メタアナリシスでは,介入群は対照群(偽鍼治療)に比較してホットフラッシュを軽減させていました。

しかし、異質性が高いことから,鍼治療は乳がん患者のホットフラッシュに有効であるとはいえな いと結論づけています。

 

② システマティックレビューでは,前立腺がん患者のホットフラッシュ に対する鍼治療および電気鍼治療の効果に関する1 件の無作為化比較試験と5 件の対照群のない観察研究の文献的考察を行った結果,前立腺がん患者に対する鍼療は,ホットフラッシュの軽減に有効であるとはいえないと結論づけています。

 

③システマティックレビューでは,前立腺がん患者のホットフラッシュ に対する鍼治療の効果に関する4 件の臨床試験の文献的考察を行った結果, 前立腺がん患者に対する鍼治療は,ホットフラッシュの軽減に有効であるとはいえないと結論づけています。

 

以上より,鍼治療は,乳がんおよび前立腺がん患者のホットフラッシュを軽減させる根拠はないと考えられます。

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放射線性口腔乾燥に対する効果

①システマティックレビューでは、頭頸部がん患者における放射線性口腔乾燥症に対して鍼治療の効果に関する3件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、1件の試験では鍼治療による放射線性口腔乾燥症の予防的効果が認められました。

2件の試験では、唾液分泌量(salivary flow rate)の改善を認めたものの、介入群と対照群とでは統計学的有意差は認められませんでした。

 

② システマティックレビューでは、頭頸部がん患者における放射線性口腔乾燥症に対して鍼治療の効果に関する3件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、2件では唾液分泌量(salivary flow rate)の改善が認められ、3件すべてにおいて主観的な改善が認められていました。

これらの結果から、頭頸部がん患者における鍼治療は、放射線性口腔乾燥症をある程度軽減させるが、十分なエビデンスはないと結論づけています。

 

③ システマティックレビューでは、頭頸部がん患者における放射線性口腔乾燥症に対して鍼治療の効果に関する2件の無作為化比較試験のメタアナリシスを行った結果、鍼治療の効果は認められませんでした。

 

以上より、鍼治療は、頭頸部がん患者の放射線性口腔乾燥の軽減に有用であるとは結論づけられないとされています。

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骨髄抑制・免疫抑制に対する効果

①システマティックレビューでは、がん患者の化学療法に伴う白血球減少に対する鍼治療の効果に関する11件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、鍼治療により白血球増多が認められたものの、研究の質は低く出版バイアスがあるために治療の効果が十分にあるとはいえないと結論づけています。

 

②システマティックレビューでは、がん患者の化学療法に伴う白血球減少に対する灸治療の効果に関する6件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、2件の試験では標準治療に灸治療を併用することは標準治療のみに比較して白血球増多が認められ、4件の試験では灸治療は標準治療と比較して白血球増多を示していました。

これらの結果から、エビデンスレベルは低いが、灸治療はがん患者の化学療法に伴う白血球減少を改善させる可能性があると結論づけています。

 

③ システマティックレビューでは、がん治療中の肺がん患者に対する経穴刺激による免疫修飾効果に関する31件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、肺がん患者において経穴刺激は対照群と比較して、IL‒2、T 細胞サブタイプ(CD3+・CD4+)、NK 細胞の増加や骨髄抑制の改善が認められました。

これらの結果から、肺がん患者に対する経穴刺激は免疫修飾効果や骨髄抑制の改善に有効であると結 論づけています。

 

以上より、鍼治療は、がん治療に伴う骨髄抑制の軽減に有用であるとは結論づけられないが、灸治療は骨髄抑制を軽減させると考えられます。

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化学療法後末梢神経障害性疼痛に対する効果

①システマティックレビューでは、がん患者の化学療法後末梢神経 障害性疼痛に対する鍼治療の効果に関する3件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果、がん患者に対する鍼治療は、化学療法後末梢神経障害性疼痛の軽減に有効である可能性が示唆されるものの、さらなる研究が求められると述べています。

以上より、鍼治療は、がん患者における化学療法後の末梢神経障害性疼痛の軽減に有用であるとは結論づけられないとされています。

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まとめ

以上より,鍼治療は化学療法に伴う悪心・嘔吐を軽減させ、灸治療は骨髄抑制を軽減させる可能性があるようです。

やはり、身体症状に対する効果は期待してもいいようですね。

 

それぞれの論文で見ると、ホットフラッシュや放射線性口腔乾燥、化学療法性末梢神経障害性疼痛にも効果がある可能性もあるようです。

これらの症状は難治性の症状ですので、鍼灸治療を試してみる価値はあるかもですね。

 

一番の驚きは、骨髄抑制の軽減に有用である可能性があることですね!

機械的な刺激がなにかしら骨髄機能を賦活させるのでしょうか?

骨髄抑制で困っている患者さんも多いですので、鍼灸治療で予防できるのであれば嬉しいですね。

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まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの治療の有害事象に対する鍼灸治療の効果について記載している内容を紹介。

・鍼治療は化学療法に伴う悪心・嘔吐を軽減させ、灸治療は骨髄抑制を軽減させる可能性がある。

・ホットフラッシュや放射線性口腔乾燥、化学療法性末梢神経障害性疼痛などの難治性の症状にも効果がある可能性もあるようである。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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