がんの運動機能低下に対する運動療法の効果【ガイドライン解説】

今回は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの倦怠感運動機能低下に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介します。

前回は、がんの睡眠障害対する運動療法の効果について記載している内容を紹介しました。

がんの睡眠障害に対する運動療法の効果【ガイドライン解説】

2022年7月29日

がんサバイバー,進行がん,小児がんに対して運動療法を行うことが睡眠障害を改善させるという報告があり、運動は,睡眠障害の軽減に有用かもしれないという結論でしたね。

 

しかし、運動の効果として、真っ先に思いつくのは運動機能改善ですよね。

がん患者さんはがんや治療の影響によって、筋量低下や運動機能低下が生じやすくなってしまいます。

その運動機能低下を改善させるのは、やっぱり運動療法ですよね。

 

そこで今回は、がんの運動機能低下に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介します。

記載内容は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版、から引用させていただいております。

まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの運動機能低下に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介。

・がん患者の治療中・後に,有酸素運動や抵抗運動などを行うことは,身体機能や耐久力,心肺機能,上下肢の筋力,活動量,運動耐性,運動許容量,免疫機能,リンパ浮腫,骨密度の改善,退院促進などに有用であると考えられた。

・まとめた印象としては、15-60分間の運動を2~6ヶ月程度行うことで、運動機能や免疫機能の改善が認められるようである。

・どの運動が効果的であるか、その種類は特定できていないが、逆に言えば、どんな運動であれ継続すれば効果が期待できるのかもしれない。

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がん種混在を対象とした効果

まずは、がん種が混合された患者さんを対象とした報告をまとめています。

 

①がん治療後の患者を対象(乳がん 65%)に,メタアナリシスを行った結果,治療後の乳がん患者に対する運動は身体機能に良い影響を及ぼしていました。

乳がん患者以外のがん患者の運動効果として,BMI,体重減少,酸素消費量の改善がみられています。

運動は,主に有酸素運動で,その他に抵抗運動や耐久運動でした。

介入期間の平均は 13 週(範囲:3~60 週)でした。

 

②進行期のがん患者を対象に文献的考察を行った結果,運動は,身体機能の低下を軽減する効果がありました。

 

③ 主に乳がんや悪性リンパ腫(1 件)のがん治療中・後の患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,健康状態,身体機能に対するヨガの効果は少なからずみられたが,対照群との比較では統計学的有意差はありませんでした。

ヨガの介入期間は約7 週間(範囲:6 週間~6 カ月),1 回約30~120 分でした。

 

④ 肺がん,前立腺がん,大腸がんの術前の患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,ウォーキングの耐久力や心肺機能の改善に有意な効果がみられています。

前立腺がんでは骨盤底筋体操を取り入れた運動(毎日),肺がんは有酸素運動(1 週間に5 回),消化器系がんは有酸素運動や抵抗運動(1 週間2 回)などでした。

1 回の運動時間は,15 分~3 時間程度でした。

 

⑤乳がん,前立腺がん,頭頸部がんの治療中・後の患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,抵抗運動は上下肢の筋力強化に大きな効果があり,かつ体脂肪や体組成へも中等度の効果がありました。

介入期間は12 週間,4~6 カ月,1 年で,主に週2~3 回でした。

 

⑥ 主に早期のステージにある乳がん,前立腺がん,消化器系がん,大腸がん,肺がんのがん治療中の患者を対象に,文献的考察を行った結果,有酸素運動と抵抗運動による介入は通常のケアと比較して,上下肢の筋力が向上していました。

介入期間は4~52 週間,週 2~7 回,1 回10~45 分でした。

 

⑦乳がん,前立腺がん,頭頸部がん,肺がんなどのがん治療中・後の患者を対象に,文献的考察を行った結果,抵抗運動は,筋力や身体機能,体組成の強化に有意な効果がみられました。

介入期間は10 週間~12 カ月でした。

 

⑧成人(18 件)と小児(3 件)のがん患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動介入後,NK 細胞毒性,リンパ球増殖,顆粒球数の増加が認められました。

運動は,有酸素運動(11 件),抵抗運動(1 件),有酸素運動と抵抗運動の混合(8 件)でした。

介入期間は2~12 週間,頻度は毎日か週2~5 回,1 回15~90 分でした。

 

⑨ コクランのシステマティックレビューでは,座位傾向のがん患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,8~12 週間の運動介入群は対照群と比較して,運動耐性が改善していた。さらに,6 カ月以上の介入についても同様の結果が得られた。

運動は,有酸素運動と抵抗運動でした。

 

⑩乳がん(8 件)やその他のがん(5 件)を対象に,メタアナリシスを行った結果,太極拳(8 件)や気功(5 件)は,免疫機能,コルチゾールレベルを改善していました。

12 週間の介入により,BMI や体組成はベースラインよりも減少していました。

介入期間は5~12 週間でした。

 

様々ながん種で運動機能や免疫機能が改善したとの報告があるようですね。

だいたいが数か月の運動を行っているので、やはり長期間の継続が大事なようですね。

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乳がん患者に対する効果

①乳がん術後のリンパ浮腫患者を対象に,文献的考察を行った結果,数日~13 週間の運動は,リンパ浮腫患者の上部の身体機能の改善(短期間),リンパ浮腫の改善(1 年間)に有意な効果がありました。

運動は,有酸素運動,水中リンパ療法,ダンス療法,理学療法,多機能運動,包括的リハビリテーション,ウエイト・リフティングの7 種類で,理学療法や多様な運動の組み合わせが多かったようです。

 

②リンパ浮腫あるいはそのリスクを伴っている乳がん患者を対象に,筋力トレーニングの介入効果に関するメタアナリシスを行った結果,低・中等度の筋力トレーニングの介入は安全であり,対照群と比較して,腕の容積や乳がんに起因するリンパ浮腫の出現を悪化させることなく,上下肢の筋力を有意に強化させていました。

筋力トレーニングの介入期間は5 週間~1 年間で,運動強度は主に低・中等度の運動でした。

 

③ 1989~2013 年までの25 年間の乳がんサバイバーに関する51 件の文献的考察を行った結果,乳がんサバイバーに対する運動介入は,心肺機能の改善,身体の強度や体組成の改善に効果的でした。

主な運動は,有酸素運動と抵抗運動でした。

 

乳がん患者さんを対象にすると、リンパ浮腫に対する運動の効果が多くなっていますね。

以前も紹介したように、やはりリンパ浮腫に対して運動療法は有効なようです。

がんのむくみ、リンパ浮腫に対して運動は効果あるの?

2023年6月30日
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肺がん患者に対する効果

①コクランのシステマティックレビューでは,肺切除後12 カ月以内の非小細胞性肺がん患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,6 分以上の歩行群と歩行なし群とでは,歩行群のほうの運動許容量が有意に増加していました。

 

②手術前後の非小細胞性肺がん患者を対象に,メタアナリシスを含む文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,心肺機能の運動能力や筋力の向上,術後合併症の軽減,入院期間の短縮がみられました。

すべての研究に有酸素運動(主にウォーキングやサイクリング)が含まれており,その他に抵抗運動(1 件)や呼吸運動(9 件)があっりました。

17 件が理学療法士や理学療法を専門とする医師,その他リハビリテーションチームなどの指導下による介入で,多くの研究が1 日2 回~1 週間 2 回,1 回10~45 分の頻度で運動プログラムが実施されていました。

介入期間は6~14 週間,週2~5 回,1 日 1~2 回,1 回5~45 分でした。

 

肺がん患者さんを対象にすると、運動が持久力を改善させるこうかが認められますね。

さらに、最近注目されているプレハビリテーションもメタアナリシスで効果が認められています。

大腸がんの手術前の運動、リハビリの効果は??

2022年4月15日

1 日2 回~1 週間 2 回,1 回10~45 分と具体的に記載されていますので参考にして運動を頑張りましょう!

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造血器腫瘍患者に対する効果

①幹細胞移植治療前・中・後の造血器腫瘍患者の運動効果に対するメタアナリシスを行った結果,運動介入群は対照群と比較して,退院を促進する効果がありました。

運動は,耐久運動や抵抗運動,日常生活の身体活動,漸進的リラクセーションやストレッチングでした。

介入期間は3 週間~6 カ月でした。

 

②悪性リンパ腫の治療前・中・後の患者を対象に,身体活動とフィジカルフィットネスの2 種類の介入を行った文献的考察を行った結果,有酸素運動は実行可能で安全な介入であり,心肺機能や身体機能の改善に効果がありました。

 

③ 幹細胞移植治療中の造血器腫瘍患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,運動介入群が対照群と比較して,心肺機能状態,下肢筋力に対する効果が大きかったようです。

主な運動は,有酸素運動や抵抗運動,混合運動で,運動強度は軽度・中等度でした。

介入期間は4 週間~6 カ月,週2~10 回,1 回20~70 分でした。

幹細胞移植治療中の患者に対して運動は安全であると報告されていました。

 

④ コクランのシステマティックレビューでは,造血器腫瘍患者(幹細胞移植中6 件含む)を対象に,有酸素運動の介入に関するメタアナリシスを行った結果,有酸素運動の介入群は対照群と比較して,身体機能の向上に有効でした。

主な有酸素運動はさまざまな歩行プログラムで,運動強度や介入期間は異なっていました。

 

造血器腫瘍患者さんだと、幹細胞移植患者を対象とした研究が多くなります。

幹細胞移植は、長期間の入院になるため、運動機能低下予防や入院期間の短縮が重要になります。

運動は安全に実施可能という報告もあるようですので、リスク管理しながら行えば大丈夫みたいですね。

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小児がん患者に対する効果

①コクランのシステマティックレビューでは,19 歳以下の急性リンパ性白血病などの小児・青年期のがん治療中・後の患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,骨密度や身体的健康状態(体組成,柔軟性,心肺機能)が有意に改善していました。

運動は,身体活動トレーニングでさまざまな運動を含んでおり、介入期間は10 週間~2 年間,1 回15~60 分でした。

 

② 急性リンパ白血病の小児がん治療中の患者を対象に,運動効果に関する文献的考察を行った結果,運動介入群の筋力強化に対して有意な効果が得られた。1 件の論文のみ,運動介入は免疫機能,活動量,身体機能の改善において有効であった。

運動プログラムの種類は多様で,2 件を除きすべて指導下における在宅や病院内での教育プログラムであり、介入期間は6 週間~2 年,週1~5 回,1 回15~120 分であった。

最近は小児がん患者に対するケアも非常に重要視されています。

国内では小児がんに対する運動やリハビリの効果はまだまだ報告が少ないですので、このガイドラインは参考になりますね。

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前立腺がん患者に対する効果

①前立腺がん患者を対象に12 件の無作為化比較試験の文献的考察を行った結果,運動は筋力持久力,有酸素持久力,身体機能,その他筋肉量,筋力の改善に有効でした。

運動効果は,自宅よりもグループでの効果が高く,特に抵抗運動を含んだ場合は顕著でした。

運動は,主に有酸素運動や抵抗運動の単独,混合運動などで,介入期間は4~52 週,週2~5 回でした。

 

②前立腺がんの治療中・後の患者を対象に,運動を介入した25 件の無作為化比較試験(2,590 例)の文献的考察を行った結果,運動の介入により健康状態,体組成の改善に有効でした。

主な運動は,ウォーキング,抵抗運動,耐久運動,指導下または在宅での骨盤筋抵抗運動などでした。

介入期間は4 週間~1 年,週1~5 回,1 日数回,1 回15~90 分でした。

 

③アンドロゲン除去療法中の前立腺がん患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動介入により筋力強化,心肺機能の強化,機能的タスクパフォーマンス,体組成の改善に効果がみられました。

運動は,有酸素運動,抵抗運動,ヨガ,ストレッチングなどであった。介入期間は12~24 週,週 1~5 回,1 回15~60 分でした。

 

前立腺がん患者さんにも、運動機能の効果が期待できるようですね。

前立腺がん患者さんに対しては、泌尿器症状に対しても効果が期待できるため、積極的に運動を行った方がよさそうですね。

がんの痛み、消化器症状に対する運動療法の効果

2022年7月27日
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まとめ

以上より,がん患者の治療中・後に,有酸素運動や抵抗運動などを行うことは,身体機能(BMI,体重,体組成,体脂肪,酸素消費量)や耐久力,心肺機能,上下肢の筋力,活動量,運動耐性,運動許容量,免疫機能,リンパ浮腫,骨密度の改善,退院促進などに有用であると考えられます。

ただし,がんの種類やステージ,運動の種類や運動期間,頻度,強度,運動実施のタイミング,ならびに専門家による指導などは,運動の効果に影響があると考えられるので,それらを考慮した臨床への応用が必要です。

 

まとめた印象としては、15-60分間の運動を2~6ヶ月程度行うことで、運動機能や免疫機能の改善が認められるようですね。

ただし、運動の種類は統一されていないため、どの運動内容が良いのかはっきりは言えないようです。

逆に言えば、どんな運動であっても継続することが大事ということかもしれませんね。

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まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの運動機能低下に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介。

・がん患者の治療中・後に,有酸素運動や抵抗運動などを行うことは,身体機能や耐久力,心肺機能,上下肢の筋力,活動量,運動耐性,運動許容量,免疫機能,リンパ浮腫,骨密度の改善,退院促進などに有用であると考えられた。

・まとめた印象としては、15-60分間の運動を2~6ヶ月程度行うことで、運動機能や免疫機能の改善が認められるようである。

・どの運動が効果的であるか、その種類は特定できていないが、逆に言えば、どんな運動であれ継続すれば効果が期待できるのかもしれない。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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