がん患者のQOLに対する運動療法の効果【ガイドライン解説】

今回は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がん患者さんのQOLに対する運動療法の効果について記載している内容を紹介します。

前回までは、がんの身体症状や運動機能低下、精神症状に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介しました。

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がんの運動機能低下に対する運動療法の効果【ガイドライン解説】

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多くのがん種の患者さんに対して、運動を行うことは身体症状や運動機能低下を改善することが報告されていましたね。

さらに、精神症状に対しても効果が期待できるようでした。

がんの精神症状に対する運動療法の効果【ガイドライン解説】

2022年7月31日

 

でも、身体症状や精神症状、運動機能低下を改善させる目的は、最終的にはQOL、つまり生活の質を改善させるためですよね。 

症状が改善したところでQOLが改善しないのであれば、あまり意味ないような気がしますね。

 

そこで今回は、がん患者さんのQOLに対する運動療法の効果について記載している内容を紹介します。

記載内容は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版、から引用させていただいております。

まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がん患者のQOLに対する運動療法の効果について記載している内容を紹介。

・がん治療中・後を含め,がん一般,乳がん,造血器腫瘍の患者に運動療法を行うことは,全般的なQOL を改善すると考えられます。

・がんの種類がどうしても乳がんや造血器腫瘍が多くなってしまうので、それらのがん種に対する効果は認められますが、研究数が少ないがん種は効果が認められにくいようである。

・さらにがんの治療別,運動の種類や介入方法,QOL 尺度の相違,など多くの項目を統一した条件での研究を増やしていく必要がある。

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がん患者さんのQOL評価の尺度

主なQOL 尺度としては以下のものがあります。

 

①HRQOL(Health Related Quality of Life)

②FACT—G(Functional Assessement of Cancer Therapy—General)

③FACT—B(Functional Assessement of Cancer Therapy—Brest)

④EORTC QLQ—C30(European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire—C30)

⑤SF36(Short FormHealth Survey)

 

がん患者さんによく使用されるのは、FACTやEORTC QLQ—C30ですね。

どちらも20-30項目の質問紙で評価する方法です。

 

SF36もよく使用されていますが、こちらはがん患者さんに特化した評価ではなく、どのような患者さんにも使用できる評価用紙となります。

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がん種混在を対象とした効果

まずは、がん種が混合された患者さんを対象とした報告をまとめています。

 

①がん治療後の患者(乳がん65%)を対象に,メタアナリシスを行った結果,治療後の乳がん患者に対する運動は身体機能,精神的側面,QOL の改善に良い影響を及ぼしていました。

乳がん以外のがん患者の運動効果としても,QOL の改善がみられました。

運動は,主に有酸素運動,その他に抵抗運動や耐久運動であり、介入期間は平均13 週(範囲3~60 週)でした。

 

② コクランのシステマティックレビューでは,乳がん,大腸がん,頭頸部がん,悪性リンパ腫,その他のがんサバイバーを対象に,メタアナリシスを行った結果,12 週間以上かつ6 カ月の運動で,HRQOL の有意な改善がみられました。

HRQOL の下位尺度で有意だったのは,ボディイメージ/セルフエフィカシー,情緒的健康,セクシャリティ,睡眠障害,社会的役割,不安,倦怠感,痛みでした。

有意でなかったのは,認知機能,身体機能,全体的健康状態,役割機能,スピリチュアリティでした。

運動は,筋力トレーニング,抵抗運動,ウォーキング,サイクリング,ヨガ,気功,太極拳でした。

 

③コクランのシステマティックレビューでは,乳がん,前立腺がん,造血器腫瘍,その他のがんを含んだ治療中の患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,12 週間以上の運動は対照群と比較して,HRQOL を有意に向上させていました。

特にHRQOL の下位尺度である,身体機能,役割機能,社会的機能,倦怠感に対する効果がみられました。

運動強度において,中等度あるいは激しい運動が軽度の運動に比較して,HRQOL と身体機能の改善,不安,倦怠感,睡眠障害の軽減に顕著な効果を示してました。

運動は,ウォーキング単独やサイクリング,抵抗運動,耐久運動,ヨガ,気功などの併用でした。

 

④主に乳がん(1 件のみ悪性リンパ腫)のがん治療中・後の患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,ヨガはQOL の改善に中等度の効果がありました。

ヨガの介入期間は約7 週間(範囲:6 週間~6 カ月),1 回当たり約30 分でした。

 

⑤乳がん,前立腺がん,頭頸部がんの治療中・後の患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,QOL の改善に有意な効果がみられました。

介入期間は12 週間(2 件),4~6 カ月(4 件),1 年(4 件)で,主に週2~3 回でした。

 

⑥ 乳がん,前立腺がん,頭頸部がん,肺がん,その他のがんにおける治療中(6 件)・後(9 件)の患者を対象に,文献的考察を行った結果,抵抗運動はQOL の改善に有意な効果がみられました。

介入期間は10 週間~12 カ月でした。

 

⑦乳がん(8 件)やその他のがん(5 件)を対象に,メタアナリシスを行った結果,太極拳(8 件)や気功(5 件)は,QOL の向上に有効でした。

介入期間は5~12 週間でした。

 

⑧主に乳がん(22 件)とその他のがんサバイバーを対象(がん治療中・後の10 件含む)に,メタアナリシスを行った結果,12 週間の運動介入は,全般的 HRQOL,その下位尺度である感情的健康状態,社会的機能の改善,不安,倦怠感の軽減に有効でした。

運動は,耐久運動や抵抗運動,ウォーキング,サイクリング,ヨガ,気功,または混合運動であり、介入期間は3 週間~1 年,1 回 20~90 分でした。

 

多くのがん種で、運動療法はQOLを改善させる効果があるようです。

QOLの下位項目の中に、身体機能や身体症状、精神症状が含まれていますので、当たり前と言えば当たり前の結果かもしれないですね。

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乳がん患者に対する効果

① 化学療法や放射線治療中の乳がん患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,運動介入群は対照群と比較して,QOL の向上に有意に有効でした。

特に, 1 週間に90~120 分以上の比較的軽い運動は激しい運動より倦怠感の軽減やQOL の向上に有効でした。

運動は,有酸素運動や抵抗運動またはその併用,ヨガであり、介入期間の平均は17±8 週間(範囲:5~26 週間),1 回の平均回数は4±1 回(範囲:2~6 回),平均時間数は39±10 分(範囲:23~60 分)でした。

 

②乳がんサバイバーを対象に文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,QOL が有意に向上していた。

介入期間は8 週間~6 カ月でした。

 

③ 乳がんサバイバーを対象にメタアナリシスを行った結果,運動介入群は対照群と比較して,全般的なQOL 得点が高かったです。

運動は,有酸素運動,有酸素運動と無酸素運動の混合運動,ヨガ,太極拳,有酸素運動と耐久運動,有酸素運動と抵抗運動,抵抗運動でした。

介入期間は4~52 週間で,そのうち15 件が8~12 週間と最も多く,週1~5 回,1 回15~90 分でした。

④1989~2013 年までの25 年間の乳がんサバイバーに関する51 件の文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,QOL の改善に有効でした。

主な運動は,有酸素運動と抵抗運動でした。

 

⑤リンパ浮腫あるいはそのリスクを伴っている乳がん患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,低・中等度の筋力トレーニングの介入は安全であり,対照群と比較して,QOL の特定な側面に関して有効でした。

筋力トレーニングの介入期間は5 週間~1 年間で,運動強度は主に低・中等度でした。

 

乳がん患者さんに対しては、運動強度で検討している論文がいくつかあり、低強度や中等度強度の運動は安全かつ効果が期待できるようです。

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造血器腫瘍患者に対する効果

①幹細胞移植治療前・中・後の造血器腫瘍患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,運動介入群は対照群と比較して,QOL の向上に有効でした。

運動は,耐久運動や抵抗運動,日常生活の身体活動,漸進的リラクセーションやストレッチングであり、介入期間は3 週間~6 カ月でした。

 

②幹細胞移植治療中の造血器腫瘍患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,運動介入群は対照群と比較して,全般的なQOL,身体的,精神的,認知的な機能の改善に有意な効果がありました。

主な運動は,有酸素運動や抵抗運動,混合運動で,運動強度は軽度・中等度であり、介入期間は4 週間~6 カ月,週2~10 回,1 回 20~70 分でした。

 

③ 急性リンパ白血病の治療中の小児がん患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,QOL の向上に有効でした。

運動プログラムの方法は多様で,介入期間は,6 週間~2 年,週1~5 回,1 回15~120 分でした。

 

④造血器腫瘍患者(幹細胞移植中6 件含む)を対象に,メタアナリシスを行った結果,有酸素運動の介入群は対照群と比較して,QOL の改善に有効でした。

 

造血器腫瘍患者さんに対しては、化学療法後の成人を対象にしただけでなく、幹細胞移植後や小児白血病など幅広く効果が認められています。

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肺がん患者に対する効果

①コクランのシステマティックレビューでは,肺切除後12 カ月以内の非小細胞性肺がん患者を対象に,メタアナリシスを行った結果,6 分以上の歩行群と歩行なし群の比較で,HRQOL に統計学的有意差はみられませんでした。

大腸がん患者に対する効果

①大腸がん患者を対象にメタアナリシスを行った結果,運動介入群は対照群と比較して,QOL に統計学的有意差はみられませんでした。

運動は,中等度・高度の有酸素運動,抵抗運動であり、介入期間は2 週間(2 件),12 週間(2 件)と16 週間(1 件),週2~5 回,1 日20~50 分でした。

小児がん患者に対する効果

①コクランのシステマティックレビューでは,19 歳以下の急性リンパ性白血病などの小児・青年期のがん治療中・後の患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動介入群は対照群と比較して,HRQOL は改善しませんでした。

運動は,身体活動トレーニングでさまざまな運動を含んでおり、介入期間は10 週間~2 年間,1 回 15~60 分でした。

 

対象をがん種別に分けて、1編のシステマティックレビューだけだと、なかなか運動のQOLに対する効果を認めるのは難しいようですね。

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肺がん患者に対する効果

①前立腺がん患者を対象に文献的考察を行った結果,運動介入によって全般的および筋肉量,筋力,身体機能,健康に関連する身体・社会的 QOL の改善がみられました。

運動効果は,在宅よりもグループでの効果が高く,特に抵抗運動を含んだ場合は顕著でした。

運動は,主に有酸素運動や抵抗運動の単独や混合運動などで,介入期間は4~52 週,週2~5 回でした。

 

②前立腺がんの治療中・後の患者を対象に,文献的考察を行った結果,運動の介入によりQOL の改善がみられました。

主な運動は,ウォーキング,抵抗運動,耐久運動,指導下または在宅での骨盤筋抵抗運動などであり、介入期間は4 週間~1 年,週1~5 回,1 日数回, 1 回15~90 分でした。

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まとめ

以上より,がん治療中・後を含め,がん一般,乳がん,造血器腫瘍の患者に運動療法を行うことは,全般的なQOL を改善すると考えられます。

ただし,大腸がんや肺がん,小児がん患者に関して,研究数や方法論的に限界があるため運動療法によるQOL に対する効果は得られませんでした。

 

がんの種類がどうしても乳がんや造血器腫瘍が多くなってしまうので、それらのがん種に対する効果は認められますが、研究数が少ないがん種は効果が認められにくいようです。

さらにがんの治療別,運動の種類や介入方法,QOL 尺度の相違,など多くの項目を統一した条件での研究を増やしていく必要がありますね。

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まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がん患者のQOLに対する運動療法の効果について記載している内容を紹介。

・がん治療中・後を含め,がん一般,乳がん,造血器腫瘍の患者に運動療法を行うことは,全般的なQOL を改善すると考えられます。

・がんの種類がどうしても乳がんや造血器腫瘍が多くなってしまうので、それらのがん種に対する効果は認められますが、研究数が少ないがん種は効果が認められにくいようである。

・さらにがんの治療別,運動の種類や介入方法,QOL 尺度の相違,など多くの項目を統一した条件での研究を増やしていく必要がある。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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