がん患者の運動療法は有害事象を引き起こすのか【ガイドライン解説】

今回は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がん患者さんの運動療法は有害事象を引き起こすのかについて記載している内容を紹介します。

前回までは、がんの身体症状や運動機能低下、精神症状、QOLに対する運動療法の効果について記載している内容を紹介しました。

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多くのがん種の患者さんに対して、運動を行うことは身体症状や精神症状、QOLを改善することが報告されていましたね。

 

運動療法のメリットが多いことはわかりましたが、デメリットはないのでしょうか?

がん患者さんの運動はリスク管理を行う必要がありましたよね。

 

そこで今回は、がん患者さんの運動療法は有害事象を引き起こすのかについて記載している内容を紹介します。

記載内容は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版、から引用させていただいております。

まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)よりがん患者さんの運動療法は有害事象を引き起こすのかについて記載している内容を紹介。

・がん患者に対する運動は,一般的に安全で重篤な有害事象は起こりにくいと考えられますが,まれに有害事象が発生する場合がある。

・運動に関する有害事象の防止としてガイドラインで提示されている留意事項や禁忌事項等を参考にし,運動の専門家のコンサルテーションや指導下による運動を実施することが望ましいと考えられる。

・既存のガイドラインにも、運動中止の基準なども記載されているので参考にしましょう。

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がん種混在の有害事象

まずは、がん種が混合された患者さんを対象とした報告をまとめています。

 

①造血器腫瘍,固形がんの治療中・後の患者を対象に,メタアナリシスを行った結果、有害事象は,がんの種類や治療によるものであるが,最も多く報告されていたのが,心臓血管系に関する事象でした。

 

②さまざまながんの対象者に運動を介入した11 件の無作為化比較試験(1,530 例)で,3 件(27%)の有害事象を報告していました。

1 件が乳がん患者に運動を介入した際の有害事象として,リンパ浮腫,婦人科系合併症,インフルエンザ,さらに対照群で足の骨折,気管支炎を報告してました。

2 件目は,悪性リンパ腫の患者を対象とした研究で,1 例のみ有害事象の報告があり,運動介入群に背中,臀部,膝の痛みがありました。

3 件目は,前立腺がん患者を対象とした研究で,抵抗運動を介入した際に,有酸素運動のトレッドミルエクササイズの前に失神のエピソード,また有酸素運動後に15 分間の心筋梗塞の発生がありました。

 

様々な有害事象がありますが、失神や心筋梗塞などの重篤な有害事象も報告されていますので注意が必要ですね。

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乳がん患者の有害事象

① 治療後の乳がん患者に15 週間の有酸素運動の介入を,週に3 回,1 回15~35 分行った際に,運動介入群が対照群と比較して,リンパ浮腫の有害事象が高い割合で出現していました。

しかし,身体活動によるものか明確でないため,さらなる検証が必要であるとされています。

 

②リンパ浮腫あるいはそのリスクを伴っている乳がん患者を対象に,筋力トレーニングの介入効果に関する11件の無作為化比較試験(1,091 例)において,低・中等度の筋力トレーニングの介入は安全であると結論づけています。

以前の記事でも、リンパ浮腫患者さんに対する運動は安全に実施可能と紹介しましたね。

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しかし、リンパ浮腫の発症率が高くなるという論文も存在しますので、運動後はセルフチェックを行いながら、運動負荷の調整が必要ですね。

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造血器腫瘍患者の有害事象

①悪性リンパ腫の治療前・中・後の患者を対象に,身体活動とフィジカルフィットネスの2 種類の介入を行った13 件(2,450 例)の研究で,有酸素運動は実行可能で安全な介入であると結論づけています。

重篤な事象は起こらなかったが,1 件のみ運動関連の有害事象として,背中,腰,膝への影響があったようです。

 

②幹細胞移植治療中の造血器腫瘍患者に有酸素運動や抵抗運動を介入した8 件の無作為化比較試験(介入群472 例)で,全体的に運動は安全であると結論づけています。

 

③造血器腫瘍患者(幹細胞移植中6 件)を対象に,有酸素運動の介入に関する9 件の無作為化比較試験(818 例)で,3 件の重篤な有害事象を報告されています。

例えば,出血,発熱,肺炎,深部静脈血栓,感染などが出現していましたが,有酸素運動の介入による統計学的有意差は認められていないため,介入によるものなのかは定かではないと報告されています。

 

造血器腫瘍患者に対する運動療法は安全に実施可能という報告が多いです。

骨髄抑制などによって有害事象が生じやすい状態ですが、注意して行えば安全に実施可能ということでしょうね。

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肺がん患者の有害事象

①手術前後の非小細胞性肺がん患者を対象にした研究で,9 件の有害事象を報告されています。

1 件の研究では,2 例の患者の収縮期血圧が急激に下がり(<20 mmHg),他の研究では,腰痛,肩の炎症の悪化,肩の痛みがみられました。

 

②肺がん患者に有酸素運動などの運動介入を行った10 件(192 例,症例報告1 件含む)のうち,7 件の研究で肺がん患者は困難な症状や身体可動性に制限があるが,運動は安全であると報告しています。

ただし,NCCN(National Comprehemsive Cancer Network)ガイドラインでは,運動を行う際には貧血や痛みなどの既往歴や合併症などを定期的にアセスメントすることが必要であると。されています。

 

やはり手術後は血圧低下や疼痛には注意が必要なようです。

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大腸がん患者の有害事象

①大腸がん患者に有酸素運動や抵抗運動などを介入した5 件の無作為化比較試験(238 例)で,1 件のみ免疫とDNA へのダメージに関する報告がなされていました。

 

免疫やDNAといったレベルでのダメージとなるとイメージがつきにくいですね。

運動強度が高すぎると免疫が低下することはよく言われていますので、やはり中等度の運動くらいがいいのでしょうね。

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頭頸部がん患者の有害事象

①頭頸部がんの治療による肩の機能不全に対して運動を介入した3 件の無作為化比較試験で、1 件は,放射線治療中の最後に出現した悪心と、1件は,肩甲骨に傷口があるため痛みの増強を報告しています。

 

こちらも有害事象の報告はあるものの、あまり重篤ではないということになっていますね。

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進行がん患者に対する効果

①進行期のがん患者を対象にした 16 件の研究(患者 816 例,家族169 例)のすべてにおいて,安全性と運動の実施可能性について支持していました。

 

進行がん患者さんは、様々な症状が出やすいので、安全に運動が実施可能という報告は安心できますね。

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まとめ

がん患者に対する運動は,一般的に安全で重篤な有害事象は起こりにくいと考えられますが,まれに有害事象が発生する場合があります。

運動に関する有害事象の防止としてガイドラインで提示されている留意事項や禁忌事項等を参考にし,運動の専門家のコンサルテーションや指導下による運動を実施することが望ましいと考えられます。

 

どのがん種においても運動は比較的有害事象は少ないようですので、注意しながら運動する分には大丈夫なようですね。

既存のガイドラインにも、運動中止の基準なども記載されているので参考にしましょう。

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まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)よりがん患者さんの運動療法は有害事象を引き起こすのかについて記載している内容を紹介。

・がん患者に対する運動は,一般的に安全で重篤な有害事象は起こりにくいと考えられますが,まれに有害事象が発生する場合がある。

・運動に関する有害事象の防止としてガイドラインで提示されている留意事項や禁忌事項等を参考にし,運動の専門家のコンサルテーションや指導下による運動を実施することが望ましいと考えられる。

・既存のガイドラインにも、運動中止の基準なども記載されているので参考にしましょう。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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