がんの症状に対してリラクセーションは効果があるのか?【ガイドライン解説】

今回は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの症状に対するリラクセーションの効果について記載している内容を紹介します。

最近はがんの症状に対するホメオパシーやアニマルセラピーといった様々な治療の効果について記載している内容を紹介しました。

がんの症状に対してホメオパシーは効果があるのか?【ガイドライン解説】

2022年8月5日

がんの症状に対してアニマルセラピーは効果があるのか?【ガイドライン解説】

2022年8月6日

多くの治療は論文数も少ないためか、ガイドラインとしては、効果があるという根拠が乏しいことが多いようでしたね。

 

一方で、がんの患者さんというのは身体的にも精神的にも緊張している状態が続いている場合が多いですので、どのような手段を用いてもリラックスするというのは非常に有用な手段だと思います。

 

そこで、今回は、がんの症状に対してリラクセーションの効果について記載している内容を紹介します。

記載内容は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版、から引用させていただいております。

まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの症状に対するリラクセーションの効果について記載している内容を紹介。

・リラクセーションががん患者の症状を改善させるといった十分な根拠は認められなかった。

・論文ごとに見ると、身体症状や精神症状、有害事象に対して効果があり、QOLも改善させる可能性はあると思われる。

・自律神経を整えるリラクセーションは効果を期待してもよさそうである。

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リラクセーションの概要

リラクセーションとは,「心身の緊張をときほぐすこと,リラックスすること」とされている。

医学的には,「ストレス反応として交感神経が興奮するのに対し,副交感神経の働きを優位にすること」と捉えることが多いです。

そのような状態をもたらす方法が「リラクセーション」とされており、その手段としてリラクセーションには種々の方法があり、漸進的筋弛緩法やはヨガ,アロマテラピー,音楽療法などがあります。

最近では,マインドフルネスストレス低減法注など確立された方法も出現し,今後もさらに研究が進むことが予想されています。

 

実施する際の一般的な注意事項として、

  • 飲酒,飲食直後,極端な空腹状態は避ける。
  • 入眠・脱力などによる転倒に備え,安全な場所で行う。
  • 血圧の低下が予想されるため,低血圧の患者には留意する。
  • 術後・化学療法後,発熱や強い痛みなど,身体症状が強いときは避ける。
  • 著しい気分の落ち込みや不安など,強い精神症状があるときは避ける。
  • リラクセーション後は簡単なストレッチングを行い,抑制されていた交感神経活動を高める必要がある。
  • てんかんなどの精神疾患をもつ人,心的外傷の既往のある人には発作の出現や症状の悪化の可能性がある。
  • 気管支喘息の発作が誘発される可能性がある。

などが記載されていますので注意しましょう。

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身体症状に対する効果

がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版

40編システマティックレビューをスクリーニングして、最終的に17編の論文から検討しています。

ガイドラインで項目となっている運動療法、音楽療法、鍼灸治療、ヨガに関する論文は除外されています。

 

痛み

心理社会的介入は痛みの強さ,痛みによる日常生活動作制限に対し中等度の効果をもたらすと結論づけています。

しかし,心理社会的介入としてあげられているのは,スキル訓練(認知行動療法含む),患者教育,支持的—表現的精神療法で,一般的なリラクセーションの概念との乖離がみられるとのことです。

 

サポートグループ(2 件),催眠療法(1 件),リラクセーション/イメージ療法(2 件)で有意な効果を認めています

しかし,個々の無作為化比較試験を再評価したのみに留まり,有望としながらもリラクセーションによるがん疼痛の緩和は根拠不十分としています。

痛みに対する心理教育的介入注を有望な補助的手段になり得るとしています。

ここでいう心理教育的介入とは,リラクセーション(筋弛緩法,誘導イメージ療法,自己催眠など)を基本とした認知行動的介入,鎮痛薬使用方法についての患者教育,支持的カウンセリングなどでした。

 

支持的グループ療法が乳がん患者の痛みを軽減し,さらに催眠療法を併用することにより効果が高まること,骨髄移植患者の口内炎の痛みがリラクセーション(筋弛緩法,イメージ療法,認知行動療法を含む)で改善することが示唆されています。

 

よって,リラクセーションが,がん患者の痛みを軽減する可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

 

論文を個別に見ると、リラクセーションは痛みの軽減を認めそうですが、リラクセーションの手段が統一されてないためか、十分な根拠があるとは言い切れないようですね。

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消化器症状、泌尿器症状

消化器症状、泌尿器症状に対しては、2016年度のガイドラインの時点では根拠を示すシステマティックレビューの報告はないため、その効果はわからないようです。

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呼吸器症状

前終末期の患者に対して、呼吸訓練とともに漸進的筋弛緩法を行うことで呼吸困難が改善する可能性を示唆しています。

 

②肺がん患者の呼吸困難に対して,看護師による個別指導とサポートが介入の効果を増している可能性を示唆しています。

 

以上より,リラクセーションが,がん患者の呼吸器症状を軽減する可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

 

呼吸困難はリラクセーションの効果が期待できそうな印象はありますね。

論文を個別に見ると、その効果が認められていますので、実際に活用してみてもいいかもしれません。

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倦怠感

①ヨガ,鍼灸,健康食品など幅広い補完代替療法を対象に含み,リラクセーションに該当する研究は3 件(うち1 件は鍼との併用)のみあるが、研究の質は低く,リラクセーションががん患者の倦怠感に有効であるかどうかは結論できないと述べています。

 

以上より,リラクセーションが,がん患者の倦怠感を軽減する根拠はないと結論付けています。

 

倦怠感は自律神経も関わっていますし、リラクセーションが効果が期待できそうな気はするんですが、ガイドラインでは効果がはっきりしないようですね。

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睡眠障害

マインドフルネスストレス低減法が,がん患者のメンタルヘルスに有用であることを示し,このなかで睡眠障害にも有用であることを言及しています。

 

マインドフルネスストレス低減法で睡眠の質やストレスの軽減などに有意な効果が認められ,さらに瞑想の実践の期間と効果に相関が認められたと報告しています。

 

よって,リラクセーションが,がん患者の睡眠障害を軽減する可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

 

マインドフルネスは論文や学会で報告が散見されますね。

睡眠障害に対しては、活用してみてよさそうですね。

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精神症状に対する効果

不安・抑うつ

精神的苦痛・不安・うつに対して、心理療法と心理教育で有意な効果が介入直後にみられ,減弱するものの効果は中期間(6 カ月以下)継続し,さらにグループ療法では長期間(6 カ月以上)持続しました。

リラクセーション(イメージ療法など)は有効であるが,効果は持続しないことが示されています。

精神的苦痛が大きい群では介入の効果が高く,介入期間が長いほど効果が持続することが示されています。

 

マインドフルネスストレス低減法がさまざまな精神症状(不安,ストレス過剰,疲労感,気分障害など)の緩和に有効としています。

 

看護指導と情報提供で有意なうつ症状の改善が認められたが,心理療法(2 件)では有意な結果が得られませんでした。

 

マインドフルネス瞑想が精神的苦痛とストレス軽減に有用である可能性が示されています。

 

よってリラクセーションが,がん患者の精神症状を軽減する可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

 

ガイドラインでは十分な根拠はないとされていますが、心理療法やマインドフルネスは精神面にも好影響をもたらすような印象ですね。

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QOLに対する効果

①QOL に対するリエゾン的介入(心理療法,心理教育,リラクセーション,情報提供など)の効果を検討した結果、心理療法と心理教育で有意なQOL の改善がみられ,心理療法(個人)では長期間(6 カ月以上)効果が持続するが,グループ療法では効果が持続しないことが示されています。

介入期間が長いほど効果が持続する傾向が把握されました。

 

②補完代替療法によるQOL の改善を検討した結果、このうちリラクセーションは3 件(うち2 件がマインドフルネスストレス低減法)で,いずれの研究でも精神的QOL に有意な改善がみられました。

よって,リラクセーションが,がん患者の全般的なQOL を改善する可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

 

身体症状や精神症状に効果があるので、QOLに対する効果も期待できそうな印象ですね。

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リラクセーションの有害事象

有害事象に関しては、2016年度のガイドラインの時点では根拠を示すシステマティックレビューの報告はないため、その効果はわからないようです。

 

イメージ的にもリラクセーションを行うことで、有害事象はあまり生じないような気がしますね。

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治療等に伴う有害事象に対する効果

悪心・嘔吐

①77 件の無作為化比較試験から,化学療法に関連する有害事象の非薬物的対策についてまとめた結果、リラクセーションの悪心・嘔吐に対する軽減効果は,有望とはしながらも質の高い研究は少なく,有用性について結論を導き出すのは困難とされています。

 

よって,リラクセーションが,化学療法による悪心・嘔吐を軽減する可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

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ホットフラッシュ

①乳がんサバイバーのホットフラッシュに対して、リラクセーション(いずれも呼吸療法,筋弛緩法,イメージ療法などを構成要素とする方法)は,ホットフラッシュの頻度・重症度が有意に減少したが,介入終了3 カ月で効果は消失しています。

 

② 乳がん患者に対して、リラクセーション(呼吸法,心理教育など)のホットフラッシュへの効果を示唆する研究もあるが,薬物療法やほかの補完代替療法の併用症例も含まれており,研究の質も低いことから,結果の解釈には留意すべきであるとしています。

 

よって,リラクセーションが,がん患者のホットフラッシュを改善させる可能性は示唆されるが十分な根拠はないと結論付けています。

 

ホットフラッシュはなかなか有効な治療法がないので、リラクセーションは治療の一つとして試してもいいかもですね。

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リラクセーションの予後に対する効果

予後に対して、2016年度のガイドラインの時点では根拠を示すシステマティックレビューの報告はないため、その効果はわからないようです。

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まとめ

残念ながら、リラクセーションががん患者の症状を改善させるといった十分な根拠は認められないようです。

しかし、論文ごとに見ると、身体症状や精神症状、有害事象に対して効果があり、QOLも改善させる可能性はあるようです。

痛みや睡眠障害、精神症状、ホットフラッシュなどは自律神経の機能低下が関わっていると言われていますので、自律神経を整えるリラクセーションは効果を期待してもよさそうですね。

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まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの症状に対するリラクセーションの効果について記載している内容を紹介。

・リラクセーションががん患者の症状を改善させるといった十分な根拠は認められなかった。

・論文ごとに見ると、身体症状や精神症状、有害事象に対して効果があり、QOLも改善させる可能性はあると思われる。

・自律神経を整えるリラクセーションは効果を期待してもよさそうである。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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