圧迫療法は化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の症状を軽減させる

今回は,圧迫療法によるCIPN症状の変化を調査し,CIPNに対する圧迫療法の有用性を検討した論文を紹介します.

 

化学療法誘発性末梢神経障害(Chemotherapy Induced Peripheral Neuropathy以下CIPN)は,がん患者さんが抱える問題の一つであり、最近注目されております。

タキサン系,プラ チナ系をはじめとする化学療法剤の副作用として,神経 が影響を受けることにより手足のしびれ症状などを引き 起こし、日常生活に支障をき たし,症状が増悪すると,抗がん剤の減量や中止を余儀 なくされることもあります.

牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号

重篤な状態では日常生活が困難 となり,写真のように手足の変形と拘縮により治療用 装具を必要とする場合もあります.

CIPNは大きな問題となりますが、なかなか有効な予防法や対処法がない現状です。

そのような中で、がん治療に関連する局所性の浮腫と腫脹や皮膚硬化に対して圧迫療法を実施することで,CIPN発現後の手足のしびれや疼痛などの症状も軽減すると言われており、CIPNの対処法として期待されています。

 

そこで、今回は,圧迫療法によるCIPN症状の変化を調査し,CIPNに対する圧迫療法の有用性を検討した論文を紹介します.

まとめ
・圧迫療法によるCIPN症状の変化を調査し,CIPNに対する圧迫療法の有用性を検討した論文を紹介。

・圧迫肢と非圧迫肢のそれぞれにつ いて,圧迫開始前,直後,1カ月後,半年後,1年後の FPSスコアを比較した。

・圧迫療法後からFPSスコアは低下して、1年後までその状態を維持していた。

・圧迫群のFPSス コア低下は,下肢,浮腫肢,圧迫前FPS高スコア(3以 上)において顕著な傾向がみられた.

・圧迫療法は,CIPN発現後の症状軽減および症状緩和や,重症化予防に有効である可能性が示唆された.

・末梢神経障害(ニューロパチー)は,圧迫療法の慎重使用の対象であることから,実施にあたっては注意を要し適切に使用する必要がある。

【リンパマッサージセルライトスパッツ】

今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、圧迫療法によるCIPN症状の変化を調査し,CIPNに対する圧迫療法の有用性を検討した内容になっています。

牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号」 2021年に発行された論文になります。

【リンパマッサージセルライトスパッツ】

対象

対象は2017年1月から2018年12月までの2年間に,がん治療関連浮腫の治療を目的に受診し,圧迫療法を実施した53例のうち,基準を満たす20例40肢です.対象肢は,乳がん症例の両上肢と婦人科がん症例の両下肢です.

選択基準は,CIPNの原因となり得る抗がん剤による治療中または治療歴があり,両側の手足全てにCIPN症状を有する症例です.

除外基準は,外来フォローアップ期間が1年未満,抗がん剤以外による末梢神経障害が疑われる症例(糖尿病,脊柱管狭窄症,末梢動脈疾患,感染症,脳血管障害,外傷後),がん終末期の症例,浮腫に対する外科的治療後の症例となっています。

そして、圧迫群と非圧迫群の2群に分けて比較を行っています。

牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号

表は、対象者の特徴になります。

年齢は34歳から80歳までの年齢中央値68.0歳,性別は全例女性でした.

抗がん剤の種類は,タキサン系とプラチナ系の併用12例,タキサン系4例,プラチナ系4例でした.

部位別がんの種類は,乳がん6例,子宮頸がん2例,子宮体がん6例,卵巣がん6例で,全例リンパ節廓清を伴う手術後となっています.

圧迫群の30肢のうち,明らかな浮腫を有する肢は25肢でした.

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方法

圧迫療法

上肢には グローブと弾性スリーブを下肢にはトウキャップと弾性 ストッキングなどを装着して,手指足趾まで圧迫保護しました.

CGsの圧迫強度,サイズ,硬度,形状,装着時間 は,浮腫の状態や自己管理能力などに応じて個別に選 定しました.

CGsは,外来にて指導しながら装着して,自宅 での装着と管理を毎日継続していただきました

 

評価項目

CIPNの自 覚症状として「しびれ,疼痛」について,主観的指標で あるWong-Bakerのフェイスペインスケール(Faces Pain Scale以下FPS)を用いて,スコア0から5の6段階で評 価しています.

CGsによる圧迫肢と非圧迫肢のそれぞれにつ いて,圧迫開始前,直後,1カ月後,半年後,1年後の FPSスコアを評価しています.

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結果

牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号

こちらのグラフは、FPSスコアの経時的変化を示しています。

 

圧迫療法後からFPSスコアは低下して、1年後までその状態を維持しています。

FPSスコアの低下が,圧迫療法による効果であるか, 観察期間による変化であるか,重複測定分散分析を 行った結果,圧迫療法による効果を認め,観察期間による変化は認めませんでした。

【リンパマッサージセルライトスパッツ】

牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号

こちらの表は圧迫前と後各期間のFPSスコアを対比較した多重比較検定の結果を示しています.

 

圧迫群30肢は,圧迫前 のFPSスコア平均値3.0と比較し,圧迫直後1.7, 1カ月後1.6,半年後1.8, 1年後1.8と圧迫開始後の全ての期間 において有意に低下しています。

非圧迫群10肢は, FPSスコア平均値2.0または1.9のまま全ての期間で変化を認めませんでした.

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牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号

こちらの表は圧迫群30肢について,圧迫後のFPSスコア変化に対 する影響因子を検討した結果を示しています.

 

影響の ある因子として,対象肢の部位(上肢,下肢),浮腫の 有無,圧迫前FPSスコアが抽出されました.

年齢,抗がん剤 の種類,抗がん剤の終了後期間,部位別がんの種類,蜂 窩織炎の既往は,明らかな影響を認めませんでした.

【リンパマッサージセルライトスパッツ】

牛山 浅美, 小島 淳夫, 鎌田 順道, 他. 抗がん剤による末梢神経障害に対する圧迫療法の効果に関する検討. 静脈学/32 巻 (2021) 1 号

こちらの表は影響因子として抽出さ れた因子別に,圧迫前と後各期間のFPSスコアをSteel 法にて比較した結果を示しています.

 

圧迫群のFPSス コア低下は,下肢,浮腫肢,圧迫前FPS高スコア(3以 上)において顕著な傾向がみられました.

ただし,非浮腫肢 も圧迫後のFPSスコアの低下傾向を認め,上肢のFPSス コアも統計学的有意差は認めないが低下傾向を示していました.

【リンパマッサージセルライトスパッツ】

結論

圧迫療法による体液(血液,リンパ液,間質液)のうっ滞軽減,微小循環の改善,周辺組織の保護,支持,固定は,CIPN発現後の症状軽減および症状緩和や,重症化予防に有効である可能性が示唆されました.

ただし,神経障害を有する肢への圧迫療法は,有害事象を生じる可能性もあり注意する必要があります。

 

CIPNで困っている患者さんは多いですので、圧迫療法で改善するのであれば、実践できそうですね。

圧迫療法は静脈還流とリンパ流の戻りを促進することにより,薬剤の末梢への残存を防ぐことで末梢神経を保護する可能性が考えられています.

しかし、一部分の締め付けがきつい着衣は血液循環を妨げるため避ける必要があります。

圧迫療法を行うのであれば、ちゃんと浮腫に対しての医療用のスリーブやストッキングを購入するようにしておきましょう。

 

末梢神経障害(ニューロパチー)は,圧迫療法の慎重使用の対象であることから,実施にあたっては注意を要し適切に使用する必要があります.

CIPNに対して圧迫療法を行いたい場合には、リンパ浮腫などの圧迫療法を専門とした医療従事者に相談するようにしましょう。

【リンパマッサージセルライトスパッツ】
まとめ
・圧迫療法によるCIPN症状の変化を調査し,CIPNに対する圧迫療法の有用性を検討した論文を紹介。

・圧迫肢と非圧迫肢のそれぞれにつ いて,圧迫開始前,直後,1カ月後,半年後,1年後の FPSスコアを比較した。

・圧迫療法後からFPSスコアは低下して、1年後までその状態を維持していた。

・圧迫群のFPSス コア低下は,下肢,浮腫肢,圧迫前FPS高スコア(3以 上)において顕著な傾向がみられた.

・圧迫療法は,CIPN発現後の症状軽減および症状緩和や,重症化予防に有効である可能性が示唆された.

・末梢神経障害(ニューロパチー)は,圧迫療法の慎重使用の対象であることから,実施にあたっては注意を要し適切に使用する必要がある。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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