日本でのオピオイドの依存、過剰摂取を防ぐための方法とは

今回の記事では、日本でのオピオイドクライシスを防ぐための方法についてまとめられている論文の内容を紹介します。

以前の記事で、がんの痛みに使用するオピオイドの疫学や問題点、そして安全に使用するための方法について解説しました。

がんの痛みに使用するオピオイドの疫学や問題点について解説

2022年7月16日

がんの痛みに対して安全にオピオイドを使用するためには

2022年7月17日

オピオイドは非常に有効な手段の一つですが、やはり副作用が心配にはなってきます。

実際にアメリカでは、オピオイドクライシスと言って、オピオイドの依存症、中毒、過剰摂取、死亡の増加が問題となっていました。

 

オピオイドクライシスは日本では起こることはないのか不安になりますね。

 

そこで、今回の記事では、日本でのオピオイドクライシスを防ぐための方法についてまとめられている論文の内容を紹介します。

記載内容は、林 伸治, 高薄 敏史, 山口 重樹, 「日本でのオピオイドクライシスを防ぐために」―製薬会社の立場から. 日本ペインクリニック学会誌/28 巻 (2021) 12 号 、から引用させていただいております。

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まとめ
・日本でのオピオイドクライシスを防ぐための方法についてまとめられている論文の内容を紹介。

・米国ではオピオイド鎮痛薬から始まり,ヘロイン,違法フェンタニルの3つの波でオピオイドクライシスが問題となった。。

・日本においては,欧米と比べてオピオイド 鎮痛薬の消費量が少なく、オピオイド鎮痛薬のリスク を不安視する国民の意識や治安の良さも,オピオイドク ライシスが問題となっていない。

・今後もオピオイドクライシスを予防するためには,疼痛治療においてオピオイド鎮痛薬は,最強の鎮痛薬ではなく,数ある疼痛治療法の単なるオプションの一つであるということを認識することが必要である.

米国におけるオピオイドクライシスの3 つの波

まずは、米国におけるオピオイドクライシスをおさらいしましょう。

米国におけるオピオイドクライシスは,オキシコドン やヒドロコドンを中心とする処方されたオピオイド鎮痛薬から始まり,ヘロイン,違法フェンタニルの3つの波で拡大しました。

 

第1 波は,1990 年代,オピオイド鎮痛薬の処方が増加したことから始まり,急性疼痛にオピオイド鎮痛薬が過剰処方されたり,オピオイド鎮痛薬を本人や家族が誤用したりして,依存症となる患者が広がっていきました.

オピオイド過量摂取による死亡の原因の多くは,呼吸抑制であり,特に粉 砕(crush)や,噛み砕く(chewing)などして服薬することで,急激に血中濃度が上昇し,呼吸抑制のリスク が高まってしまいます.

2010 年に粉砕や溶解ができないオキシコ ドンの乱用防止製剤が,開発,販売され, オキシコドン乱用防止製剤による乱用は減少しました.

 

しかし、第2 波として、す でに依存症になった患者は,ストリートドラッグである ヘロインに流れてしまいました.

 

3 つ目の波は,2013 年ごろから、フェンタニルを中心とした合成オピオ イドが,違法なルー トで流れるようにりました.

 

これらの結果,米国のオピオイドクライ シスは,20 年間で77 万7,000 人の死者を出してしまいました.

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米国におけるオピオイドクライシスの原因

社会的背景

オピオイドが米国で蔓延した背景の一つには,米国地方都市の社会経済構造の崩壊があります.

経済の衰退,頭脳流出,人口減少を経験し,怪我が多い炭鉱夫などの治療のために頻繁にオピオ イド鎮痛薬が処方されることになってしまいました.

 

学会と政治

政治や学会の活動もオピオイドクライ シスに影響を与えています.

1996 年,米国疼痛学会(the American Pain Society:APS)は,疼痛を体温,血圧, 心拍,呼吸数に次ぐ,「5 つ目のバイタルサイン(fifth vital sign)」として採用し,痛みを重視するキャンペーンを開催し,この考えは,米国人に受け入れられ て,急速に広がっていきました.

その後,2000 年10 月,第106 回米国議会において, 2001 年1 月1 日から始まる10 年を「痛みの10 年 (decade of pain control and research)」として,宣言し, クリントン大統領はそれに署名したことも,大きな影響 を及ぼした.

「痛みの10 年」を規定する法律「疼痛緩 和促進法:the Pain Relief Promotion Act」も発行され, その中には,慢性疾患 やがん患者における不十分な疼痛管理は,深刻な公衆衛 生上の問題であり,医師は規制薬物を投与することを躊躇しないと規定されました

その結果 にオピオイド鎮痛薬が積極的に処方されるようになりました。

 

NSAIDs の問題

米国人は,鎮痛薬の使用量が多く,NSAIDs による腎障害や消化管出血による死亡が多いこ とが問題視されていました.

その問題に乗じ,オピオイド 鎮痛薬を販売する製薬会社はNSAID のリスクを誇張し て,オピオイド鎮痛薬がNSAIDs より安全であると主張しました。

その結果,筋骨格系疼痛患者のオピオイド 鎮痛薬とNSAIDs の処方割合は,2003 年から2006 年の間で逆転し,2011 年までオピオイド鎮痛薬の処方は増 加していきました。

 

製薬会社の責任

このような政策の中,製薬会社は,政策転換を悪用し,オピオイド 鎮痛剤で,ほとんどの患者は依存症にならないとした安全性軽視のプロモーションを行い,急性痛,慢性疼痛と もに,オピオイド鎮痛薬の処方が急増しました.

実際,オ キシコドン徐放錠のプロモーション資材には,「オピオ イドを服用している患者で実際に依存症になるのは1% 未満」という記述が含まれていました。

 

米国の混迷

2016 年 には,オピオイドクライシスが問題となったことから,慢性疼痛に対するオピオイ ド鎮痛薬処方のためのガイドライン(CDC Guideline for Prescribing Opioids for Chronic Pain ― United States, 2016)を発行しました.

 

ガイドラインには,90 mg/日(モ ルヒネ換算)以上の投与を避けることや3 カ月以上の頻 度で再評価を行い,利益が害を上回らない場合は漸減中止するよう推奨されました.

 

現在は,患者が同意したうえで進める漸減 は,成功率が高いとして,自発的な漸減(voluntary tapering) が,推奨されるようになってきています.

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日本における状況

オピオイド鎮痛薬充足率における日本の現状

このように米国では,オピオイド鎮痛薬が慢性疼痛に 過剰に処方されている一方で,日本においては,必要な患者にオピオイド鎮痛薬が十分に使用されていないとの議論もあります.

WHO によって提案された末期がん患者の 疼痛緩和に必要なオピオイド鎮痛薬消費量(adequacy of opioid analgesic consumption:AOM)の指標達成率 を見ると,日本全体では,2013 年と2015 年において, それぞれ78.2%と73.8%でした.

 

日米における非がん性慢性疼痛におけるオピオイド 鎮痛薬の処方習慣の違い

日米のプライマリケア医を対象として行ったアンケートでは,慢性疼痛に対して,オピオイド鎮痛薬を時折もしくは常に処方すると回答したのは,米国で90.9%であったのに対して, 日本では63.7%であり,急性疼痛においては,米国では97.0%であったのに対し, 日本では49.4%でした.

急性疼痛においてオピオイド鎮痛薬が標準治療と答えたのは、米国 66.0%,日本27.3%でした.

 

日米の整形外科を対象とした周術期のオピオ イド鎮痛薬の処方パターンに関するアンケート調査では、術前のオピオイド鎮痛薬使用に関して,日本は,米国と比べ,使用頻度が低く,使用期間も短かくなっています.

術後においても日本は,米国と比べオピオイド鎮痛薬の処方頻度が低く,処方錠数も少なかったです.

また,米国では,術後疼痛管理にオピオイド鎮痛薬が必須と強く考える医師が,22.7%であったのに対し,日本ではたったの2.7%でした。

 

しかし,手術適応でない慢性疼痛患者に対し,米国では51.9%がオピオイド鎮痛薬を処方していないと回答したのに比べ,日本ではオピオイド鎮痛薬を処方していないのは6.9%しかいませんでした。

 

日本において,オピオイドクライシスは起こらないのか?

このように日本においては,欧米と比べてオピオイド 鎮痛薬の消費量が少なく,非がん性疼痛における処方習 慣も異なっています。

さらに、オピオイド鎮痛薬のリスク を不安視する国民の意識や治安の良さも,オピオイドク ライシスが問題となっていない理由と考えられます.

 

では,日本は心配する必要はないのでしょうか?

日 本におけるオピオイド関連死亡は, 2004 年4 月から2017 年3 月までで,転帰が死亡であっ た報告は,335 例と,海外と比べるとオピオイド関連の 死亡はきわめて少数であり,まだ社会問題となっていません.

しかし、2009 年までモルヒネの報告が多かったが,2010 年はフェ ンタニルが慢性疼痛に適応を取得するとフェンタニルの報告が増えています。

さらに、2020年には,オキシコドンも慢性疼痛に適応が追加されていることから、慎重な処方が望まれます.

 

日本における,非がん性慢性疼痛におけるレスキューの使用

現行の「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬 処方ガイドライン 改訂第2 版」には,「CQ16:オピオ イド鎮痛薬による治療中に生じる突然増強する痛みに, どのように対処するのか?」に対して,「非がん性慢性 疼痛患者に発生する突然増強する痛みに対し,安易にオ ピオイド鎮痛薬を使用すべきではない.また,オピオイ ド鎮痛薬による治療中にレスキューとしてオピオイド鎮 痛薬を使用することは,乱用につながる可能性が高く, 推奨されない.」と記載されています.

しかし2010 年に,慢性疼痛におけるオピオイド治療 の現況を調査した井関の報告によると,疼痛治療専門施 設の医師を対象にアンケートを実施した結果,非がん性 慢性疼痛における突出痛に対する短時間作用性オピオイ ド(レスキュー)の使用について,必要とする意見が 60%程度(n=134)にのぼったと報告されています.

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製薬会社が関与する市販後における安全対策

現在,非がん性慢性疼痛に効能を取得したフェンタ ニル経皮吸収型製剤,ブプレノルフィン経皮吸収型製 剤,オキシコドン徐放錠には,製薬会社による適正使用 のための管理体制が敷かれています.

また,各薬剤は,承認条件として,慢性疼痛の診断, 治療に精通した医師に処方は限定されており,処方医師 の登録,e-learning の受講,確認テストの合格,薬局での確認が必要とされています.

さらに,e-learning を受講した医師を対象として,が ん性疼痛と非がん性慢性疼痛における治療目標の違いや オピオイド鎮痛薬の適正使用を啓発するため,継続した 医学教育を行うこととしています.

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まとめ

オピオイドクライシスを起こさないために製薬会社が 求められていることの一つに,依存症を起こしにくい鎮 痛薬の開発や乱用防止製剤の開発があります.

日本において,オピオイドクライシスが大きな問題と なっていないのは,日本の製薬会社が倫理的に素晴らし かったわけではなく,国民性や法規制の寄与が大きいとされています.

オピオイドクライシスを予防するためには,疼痛治療においてオピオイド鎮痛薬は,最強の鎮痛薬ではなく,数ある疼痛治療法の単なるオプションの一つであるということを認識することが必要です.

さらに,患者個々に,リスクとベネフィットを判断の上,必要とされる患者に,適切な投与量で,適切な期間に使用されるよう,適切な情報提供を行い,産官学を含めオピオイド鎮痛薬にかかわるすべての関係者が,協力していくことが求められています.

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まとめ
・日本でのオピオイドクライシスを防ぐための方法についてまとめられている論文の内容を紹介。

・米国ではオピオイド鎮痛薬から始まり,ヘロイン,違法フェンタニルの3つの波でオピオイドクライシスが問題となった。。

・日本においては,欧米と比べてオピオイド 鎮痛薬の消費量が少なく、オピオイド鎮痛薬のリスク を不安視する国民の意識や治安の良さも,オピオイドク ライシスが問題となっていない。

・今後もオピオイドクライシスを予防するためには,疼痛治療においてオピオイド鎮痛薬は,最強の鎮痛薬ではなく,数ある疼痛治療法の単なるオプションの一つであるということを認識することが必要である.

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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