前回は運動を行っているがん患者さんの特徴や、日常生活指導を行ったときに患者さんが陥りやすい誤解について紹介しました。
医療者は、「無理に運動しすぎないように」≒「安静しておいた方がいい」と考えられてしまう可能性を懸念しておいた方がいいということでしたね。
指導内容にも工夫が必要なようです。
指導の内容としては、具体的にどのようなことを行うことがいいのか、逆にどのようなことは行わない方がいいのかをしっかりと説明しておくべきだと思います。
今回は、運動や活動に関して、リンパ浮腫患者さんが行っていいこと、ダメなことをまとめて、指導の参考にしてもらえればと思います。
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運動や活動でリンパ浮腫患者さんが行った方がいいこと
運動療法を行った方がいいことは以前に紹介しました。
具体的な運動方法もいくつか紹介しているので参考にしてもらえればと思います。
ただし、こんな運動が効果があるという研究結果だけでなく、どのようなメカニズムで運動に効果があるので、どのような運動が推奨されるのかを知っておいた方がいいでしょう。
北海道リンパ浮腫診療ネットワーク, リンパ浮腫簡易指導マニュアル. 2022
まず、リンパ浮腫に対して運動療法が効果があると言われているメカニズムは、左上の図の筋ポンプ作用によるものです。
圧迫された状態で、筋肉が収縮ー弛緩を繰り返すことでリンパ液の流れが良くなるという理屈ですね。
つまり、筋肉を収縮ー弛緩させるようなリズミカルな運動が推奨されるというわけです。
運動療法が効果があるといっても、何分間も筋肉を収縮しっぱなしの運動は推奨されないわけですね。
重たいものを持ってはいけないという指導も、正確に言うと、重いものを同じ姿勢で持ち続けて、同じ筋肉が収縮しっぱなしになってはいけませんよということです。
なかなかしないでしょうが、重いものを持つのも、ダンベル運動のように一瞬持って、おいて休憩してというのを繰り返すことは、筋肉の収縮ー弛緩が繰り返されるのでむしろ推奨されるでしょうね。
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行った方がいいことがわかれば、行ってはダメなことも何となく想像つきますね。
行ってはいけないことは、先ほどとは逆に筋肉を収縮しっぱなしの動作になります。
具体的には、「しゃがみ作業」、「デスクワーク」、「正座」、「持ち続ける」、「立ち続ける」などが挙げられます。
しゃがみ作業や正座は、一部分が圧迫されるのでリンパ液の流れが悪くなってしまいますね。
また、デスクワークなどは負荷としては軽いですが、腕が同じような姿勢で使い続けるため、腕の筋肉が収縮しっぱなしで浮腫が増強しやすくなります。
また、持ち続ける、立ち続ける動作も筋肉が収縮しっぱなしになりますね。
重い荷物を持ってはいけないというのも、このように持ち続けることが負担になるというわけです。
また、お出かけして浮腫が増強したという方も、理屈としては歩くことは筋肉の収縮ー弛緩が繰り返されるので推奨されるはずです(もちろん程度にもよりますが・・・)。
ですので、歩きすぎたというよりは、立ちっぱなしや座りっぱなしの方が悪影響があると考えられます。
このように、どのようなメカニズムで運動が推奨されるのか、具体的にはどのような動作を注意したらいいのかを指導することで、運動を行いやすい思考になってくるでしょうね。
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そして、運動によってリンパ浮腫が予防・改善された研究を紹介することで、さらに信ぴょう性が増すことでしょう。
Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel AB, et al. Weight lifting for women at risk for breast cancer-related lymphedema: a randomized trial. JAMA. 2010 Dec 22;304(24):2699-705
こちらの研究は、1-5年前に片側乳がんの診断を受け、リンパ節郭清術を受けた女性154名を対象に上半身の筋トレ5種類、下半身の筋トレ4種類を 週2回90分(10回3セット) 39週間実施しています。
対照群にも運動に関する講義は実施しておりますが、リンパ浮腫の発症は、対照群17%、WL群11%(p=0.003)、リンパ節郭清個数5個以上では、対照群22%、WL群7%(p=0.001)と運動を行った方がリンパ浮腫の発症が予防できています。
Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel A, et al. Weight lifting in women with breast-cancer-related lymphedema. N Engl J Med. 2009 Aug 13;361(7):664-73.
こちらの研究は、乳がん治療後のリンパ浮腫の病歴を持つ141名を対象に上半身の筋トレ5種類、下半身の筋トレ4種類を 週2回90分(10回3セット) 39週間実施しています。
最初の13週間で負荷を漸増して、その後は同じ負荷で運動しています。
結果としては、5%以上の体積の増加は、対照群8%、WL群8%で差を認めていません。専門家による増悪の認定は、対照群29%、WL群14%(p=0.04)と、運動を行った方が浮腫増悪しにくいという結果になっています。
このように、まずは運動の効果のメカニズムとどのような運動が推奨されるか、どのようなことを行ってはいけないのかを説明します。
そして、具体的な運動内容や期間で、リンパ浮腫の予防や改善が認められた研究を紹介することで、リンパ浮腫患者さんの運動を促進することができるのではないでしょうか。
医療者の方々はぜひとも指導の参考にしてください!
リンパ浮腫患者さんは、この記事の内容を参考に運動に取り組むように頑張ってください!
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・まずは運動の効果のメカニズムとどのような運動が推奨されるか、どのようなことを行ってはいけないのかを説明する。
・次に、具体的な運動内容や期間で、リンパ浮腫の予防や改善が認められた研究を紹介することで、リンパ浮腫患者さんの運動を促進することができる。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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