看護師さんが行うリンパ浮腫ケアの一つとして、マニュアルリンパドレナージが多いことを以前紹介しました。
ただし、ガイドライン上はドレナージより運動の方が効果があると言われています。
実際のところ、ドレナージには効果はあるのでしょうか?
この記事では、乳がんによるリンパ浮腫の29人の女性を対象に、マニュアルリンパドレナージの効果を検証した論文を紹介します。
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今回紹介する論文の概要
今回紹介する論文は、乳がんによるリンパ浮腫の29人の女性を対象に、マニュアルリンパドレナージの効果を検証した内容となっています。
「Da Cuña-Carrera I, et al. Is the Absence of Manual Lymphatic Drainage-Based Treatment in Lymphedema after Breast Cancer Harmful? A Randomized Crossover Study. J Clin Med. 2024 Jan 11;13(2):402. doi: 10.3390/jcm13020402. 」。
2024年の論文になります。
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対象と方法
この研究は、ランダム化比較試験という方法で行われました。
これは、参加者を無作為に二つのグループに分けて、それぞれに異なる治療を行い、その効果を比較するという方法です。
一つのグループにはマニュアルリンパドレナージを行い、もう一つのグループには行わないという方法をとりました。
どちらのグループも、圧迫療法や皮膚のケア、運動などは同じように行いました。
マニュアルリンパドレナージは、1週間に1回、60分間、肩や胸、腕などをマッサージするように行いました。
この治療を4週間続けた後、2か月間休憩し、グループを入れ替えて同じように治療を行いました。
乳がんの手術後にリンパ浮腫を発症した女性29人が参加しました。
参加者の年齢や体重、身長などは、どちらのグループにも大きな違いはありませんでした。
マニュアルリンパドレナージの効果を測るために、以下のような方法で参加者の状態を評価しました。
- 腕の周囲の長さを測る方法:リンパ浮腫のある腕の太さを、手首やひじなどの4か所で測りました。これは、リンパ浮腫の量を推定する方法です。
- 超音波画像で皮下組織の厚さを測る方法:リンパ浮腫のある腕の皮下組織の厚さを、超音波検査で測りました。これは、リンパ液が溜まっている部分を直接見ることができる方法です。
- 視覚的アナログ尺度で重だるさや痛みや張りを評価する方法:リンパ浮腫のある腕の重だるさや痛みや張りを、0から10までの数字で表した尺度で評価しました。これは、リンパ浮腫の影響を主観的に測る方法です。
これらの方法で、治療の前後に参加者の状態を測定し、グループ間や時期間での違いを統計的に分析しました。
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結果
Da Cuña-Carrera I, et al. Is the Absence of Manual Lymphatic Drainage-Based Treatment in Lymphedema after Breast Cancer Harmful? A Randomized Crossover Study. J Clin Med. 2024 Jan 11;13(2):402. doi: 10.3390/jcm13020402.
igure 1. Flow diagram. は、この研究の参加者の流れを示す図です。以下に詳細に説明します。
- 最初に、乳がんによるリンパ浮腫を持つ34人の女性が募集されました。
- そのうち、29人が選択基準を満たし、研究に同意しました。
- 29人の女性は、無作為にグループ1とグループ2に割り当てられました。グループ1は14人、グループ2は15人でした。
- グループ1は、4週間にわたって週1回のマニュアルリンパドレナージュ(MLD)を受けました。グループ2は、4週間にわたってMLDを受けませんでした。
- 4週間後、両グループの女性は、腕の周囲、皮下組織の厚さ、重さ、痛み、緊張感などの測定値を受けました。
- その後、2ヶ月間の休止期間を経て、両グループの女性は交差しました。つまり、グループ1はMLDを受けなくなり、グループ2はMLDを受けるようになりました。
- さらに4週間後、両グループの女性は再び同じ測定値を受けました。
- このようにして、すべての女性は、MLDを受けた場合と受けなかった場合の両方の効果を比較することができました。
- 研究の途中で、グループ2の1人の女性がCOVIDの合併症で研究から離脱しました。そのため、最終的に研究を完了したのは28人の女性でした。グループ1は14人、グループ2は14人でした。
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Da Cuña-Carrera I, et al. Is the Absence of Manual Lymphatic Drainage-Based Treatment in Lymphedema after Breast Cancer Harmful? A Randomized Crossover Study. J Clin Med. 2024 Jan 11;13(2):402. doi: 10.3390/jcm13020402.
Table 1. Demographic characteristics は、参加者の特徴を示す表です。
この表には、以下のような情報が含まれています。
- 参加者の性別(男性、女性)
- 参加者の教育水準(小学校、中学校、高校/大学進学、大学院)
- 参加者の配偶者の有無(既婚、未婚、離婚、死別、その他)
- 参加者の子どもの有無
- 参加者の同居人の有無
- 参加者の最高学歴
- 参加者の雇用状況(失業、学生、雇用、自営業、退職)
- 参加者の過去の心理的治療の有無
- 参加者の過去の向精神薬の使用の有無
各グループ間に統計学的な差がないことを確認するのにも役立ちます。
この表から、性別、教育水準、最高学歴、雇用状況などの特徴について、各グループに有意な差はないことがわかります。
ただし、配偶者の有無や子どもの有無などの特徴については、各グループに若干の差が見られます。
これらの差が、介入の効果に影響を与える可能性があるかどうかは、さらなる分析が必要です。
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Da Cuña-Carrera I, et al. Is the Absence of Manual Lymphatic Drainage-Based Treatment in Lymphedema after Breast Cancer Harmful? A Randomized Crossover Study. J Clin Med. 2024 Jan 11;13(2):402. doi: 10.3390/jcm13020402.
Table 2 では、腕の周囲の測定値を用いて、リンパ浮腫の変化を評価しています。
測定値は、手根関節(MCP)、手首(Wrist)、肘の外側上顆から10 cm下(BLE)、肘の外側上顆から10 cm上(ALE)の4つの解剖学的な点で行われました。
測定は、介入前(Pre)と介入後(Post)の両方で行われました。
介入群(EG)は、4週間にわたって週1回のマニュアルリンパドレナージュ(MLD)を受けました。
対照群(CG)は、4週間にわたってMLDを受けませんでした。
Table 2 の結果から、以下のことが分かります。
- MCP、Wrist、BLEの測定値では、群間や介入前後で有意な差は見られませんでした。これは、MLDがこれらの部位のリンパ浮腫に影響を与えなかったことを示しています。
- ALEの測定値では、対照群では介入後に周囲が有意に増加しました(p<0.001; ES=0.17, small)。これは、MLDを中止するとリンパ浮腫が悪化することを示しています。
- また、対照群は介入群と比較しても有意に周囲が大きかったです(p=0.017; ES=0.08, small)。一方、介入群では介入前後で有意な差は見られませんでした。これは、MLDがリンパ浮腫の維持に役立ったことを示しています。
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Da Cuña-Carrera I, et al. Is the Absence of Manual Lymphatic Drainage-Based Treatment in Lymphedema after Breast Cancer Harmful? A Randomized Crossover Study. J Clin Med. 2024 Jan 11;13(2):402. doi: 10.3390/jcm13020402.
この表は、乳がん手術後のリンパ浮腫に対するマニュアルリンパドレナージュの効果を、超音波画像で測定した皮下組織の厚さという指標で評価したものです。
以下にその内容を詳細にわかりやすく説明します。
- 表の左側には、測定箇所として、肘の外側上顆から10cm上(ALE)と10cm下(BLE)の2か所が示されています。これらは、リンパ浮腫の程度を評価するためによく用いられる部位です。
- 表の上部には、介入群(EG)と対照群(CG)の2つのグループが示されています。介入群は、4週間にわたって週1回のマニュアルリンパドレナージュを受けたグループで、対照群は何も治療を受けなかったグループです。
- 表の中央には、各グループの各測定箇所における皮下組織の厚さの平均値と標準偏差が、介入前(Pre)と介入後(Post)の2回の測定で示されています。また、介入前後の変化の割合(∆)も計算されています。
- 介入群では、両方の測定箇所で皮下組織の厚さが介入後に減少しましたが、対照群では、肘の下の測定箇所で皮下組織の厚さが介入後に増加しました。これは、マニュアルリンパドレナージュがリンパ液の排出を促進し、皮下組織の腫脹を抑制する効果があることを示しています。
- 介入群と対照群の間で、肘の下の測定箇所で介入後の皮下組織の厚さに有意差が認められましたが、肘の上の測定箇所では有意差が認められませんでした。これは、リンパ浮腫の程度が高い部位ほど、マニュアルリンパドレナージュの効果が顕著に現れることを示しています。
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Da Cuña-Carrera I, et al. Is the Absence of Manual Lymphatic Drainage-Based Treatment in Lymphedema after Breast Cancer Harmful? A Randomized Crossover Study. J Clin Med. 2024 Jan 11;13(2):402. doi: 10.3390/jcm13020402.
この表は、乳がんによるリンパ浮腫の患者に対するマニュアルリンパドレナージュ(MLD)の効果を、重さ、緊張、痛みという3つの変数で評価したものです。
MLDを受けた実験群(EG)と受けなかった対照群(CG)の間で、介入前(Pre)と介入後(Post)の値の変化を比較しています。
変化の割合は、介入前と後の値の差を介入前の値で割って百分率にしたものです。統計的に有意な差がある場合は、#で示されています。
表の内容を要約すると、以下のようになります。
- 重さについては、対照群では介入後に増加し、実験群では減少しました。この差は統計的に有意でした(p=0.001)。つまり、MLDは重さを軽減する効果があると言えます。
- 緊張については、対照群では介入後に増加し、実験群ではほとんど変化しませんでした。しかし、この差は統計的に有意ではありませんでした(p>0.05)。つまり、MLDが緊張に与える影響は明確ではないと言えます。
- 痛みについては、対照群と実験群の両方で介入後に増加しましたが、対照群の方が増加幅が大きかったです。しかし、この差も統計的に有意ではありませんでした(p>0.05)。つまり、MLDが痛みに与える影響も明確ではないと言えます。
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考察
この論文の考察から、乳がんによるリンパ浮腫の治療において、MLDをやめるとリンパ浮腫が悪化することがわかりました。
したがって、MLDはリンパ浮腫の維持治療の一部として行うべきであると言えます。
しかし、この研究では、MLDを他の治療法と組み合わせたり、リンパ浮腫の程度によって変えたりすることは検討していません。
また、実験の期間や回数も限られていました。
そこで、今後は、MLDの効果をさらに検証するために、より長期的で多様な研究が必要だと考えます。
ドレナージも運動や圧迫と並行して行う価値はあるかもしれませんね!!
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リンパ浮腫に対しては日常生活指導も重要です、コチラにを参考にしてみてください。
・マニュアルリンパドレナージを行わない群では、腕の周囲や皮下組織の厚さが増加し、腕の重さも悪化した。
・マニュアルリンパドレナージを行う群では、これらの変化は見られなかった。
・マニュアルリンパドレナージは、リンパ浮腫の体積には明確な効果がないが、組織の組成や感覚には影響を与える可能性がある。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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