通いの場づくりによる介護予防は活動性やうつ,フレイルを改善させる 

今回は、地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域に対して、通いの場の立ち上げや運営を支援することで、健康格差を縮小できるかを調査した論文を紹介します。

 

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高齢者の社会的なつながりとして、多くの公的な催しなども行われていますが、地域によって差が大きいようです。

国も、「通いの場」という、高齢者が集まって談笑したり、運動したりする場を積極的に増やしていくように働きかけていますが、そのような場が少ない地域では社会性低下している高齢者が多くなってしまうのでしょうね。

そのような地域には「通いの場」を支援することで、高齢者の健康はほかの地域と同等になる可能性があると思われます。

 

そこで今回は、地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域に対して、通いの場の立ち上げや運営を支援することで、健康格差を縮小できるかを調査した論文を紹介します。

まとめ
・地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域に対して、通いの場の立ち上げや運営を支援することで、健康格差を縮小できるかを調査した論文を紹介。

・ベースラインでは、モデル地域は「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度や「友人・知人と会う頻度」が有意に少なく、運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、うつ傾向が有意に高いじょうたいであった。

・支援を行った結果、8年後には「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度や「友人・知人と会う頻度」が、非モデル地区と変わらない程度に改善した。

・運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、うつ傾向も改善が認められた。

・通いの場に限らず、がん患者さんや高齢者の健康促進のためのシステムづくりを考えていく必要があると思われる。

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今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域に対して、通いの場の立ち上げや運営を支援することで、健康格差を縮小できるかを調査した内容になっています。

「辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393 」 2022年に発行された最新の論文になります。

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対象

神戸市と日本老年学的評価研究は,要介護認定を受けていない高齢者を対象に全市で実施し たサンプリング郵送調査データを用い,市内78圏域(1 圏域≒中学校区)の地域診断を行った。 複数の要介護リスク指標で不良な値を示し,重点的な支援が必要と判断された16圏域を2014~ 19年度にかけてモデル地区として指定し,市・区・地域包括支援センター・研究者らが連携し て通いの場の立ち上げや運営を支援した。

辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393

神戸市では,2014年度から「介護予防サロン推進事業」に取り組み,「健康とくらしの調査」のデータを用い,圏域単位の地域診断を行いました。

要介護リスクが高い高齢者や地域課 題が多い圏域を選定し,その中から「モデル地区」 を選定しています。これにより,2014年度は4 圏域,2015 年度は2 圏域,2016年度は3 圏域,2017年度は3 圏 域,2018年度は2 圏域,2019年度は2 圏域,計16圏 域のモデル地区を選定されました。

そして、これらの圏域では,市,区,地域包括支援センター職員,研究者などがミーティングを行い,それらの関係者らが連携して住民主体の介護予防サロン(通いの場)の立ち上げ支援を重点的に行っております。

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方法

4 回(2011, 13, 16, 19年度)の同調査デー タ(各8,872人,10,572人,10,063人,5,759人)を用い,モデル地区(16圏域)と非モデル地 区(62圏域)との間で,中間アウトカム9 指標(社会参加3 指標,社会的ネットワーク2 指標, 社会的サポート4 指標)と健康アウトカム5 指標(運動器の機能低下,低栄養,口腔機能低下, 認知機能低下,うつ傾向)の経年推移を,線形混合効果モデルにより比較した。

辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393

以下の項目について調査を行い、モデル地域と非モデル地域で比較しております。

 

  • 社会参加:「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度を尋ね,それぞれについて月1 回以上を「参 加」と定義した。
  • 社会的ネットワーク:「友人・知人と会う頻度」 が月1 回以上を「高い」と定義し,「交流する友人 の数」が過去1 か月間に10人以上であった場合に 「多い」と定義した。
  • 社会的サポート:心配事や愚痴を聞いてくれ る/聞いてあげる人がいる場合に,それぞれ「情緒 的サポート受領」/「情緒的サポート提供」が「あ り」と定義した。
  • 手段的サポート:病気で数日間寝込んだとき に看病や世話をしてくれる人がいる/してあげる人 がいる場合に,それぞれ「手段的サポート受領」/ 「手段的サポート提供」が「あり」と定義した
  • 運動器の機能低下、低栄養、口腔機能 低下、認知機能低下、は基本チェックリストを用いて評価した。
  • うつ傾向に関しては、15項 目版の高齢者用うつ尺度( Geriatric Depression Scale-15: GDS)を用いて評価した。

 

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結果

辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393

こちらの表はベースラインでのモデル地区と非モデル地区の評価結果を示しています。

モデル地域は「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度や「友人・知人と会う頻度」が有意に少ないという結果になっています。

また、モデル地域は、運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、うつ傾向が有意に高いという結果となっています。

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辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393

こちらのグラフが2011年度から支援を開始して、2019年度までの調査結果の推移を示しています。

2011年度では差が大きかった、「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度や「友人・知人と会う頻度」が、2019年度には非モデル地区と変わらない程度に改善しています。

辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393

こちらのグラフは、運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、栄養状態、うつ傾向の推移になります。

2011年度では差が大きかった、運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、うつ傾向が改善しているのがわかります。

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結論

地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く住む地域を特定し,住民主体の通いの場 づくりを重点的に6 年間推進することで,社会参加やネットワーク,サポートが醸成され,ひ いては地域間の健康格差の是正に寄与したことが示唆された。

辻 大士, 高木 大資, 近藤 尚己, 他. 通いの場づくりによる介護予防は地域間の健康格差を是正するか?:8年間のエコロジカル研究. 日本公衆衛生雑誌 2022年 69 巻 5 号 383-393

通いの場が、高齢者の健康促進のために有用であることは、だいぶ広まってきていますね。

ただし、通いの場自体が少ない地域もまだまだあると思いますので、そのような地域はそのシステムを構築することからがスタートとなります。

通いの場に限らず、がん患者さんや高齢者の健康促進のためのシステムづくりを考えていく必要がありますね!

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まとめ
・地域診断により要介護リスクを抱えた高齢者が多く居住する地域に対して、通いの場の立ち上げや運営を支援することで、健康格差を縮小できるかを調査した論文を紹介。

・ベースラインでは、モデル地域は「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度や「友人・知人と会う頻度」が有意に少なく、運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、うつ傾向が有意に高いじょうたいであった。

・支援を行った結果、8年後には「スポーツ関係のグループ」「趣味関 係のグループ」「ボランティアのグループ」への参 加頻度や「友人・知人と会う頻度」が、非モデル地区と変わらない程度に改善した。

・運動器の機能低下、口腔機能 低下、認知機能低下、うつ傾向も改善が認められた。

・通いの場に限らず、がん患者さんや高齢者の健康促進のためのシステムづくりを考えていく必要があると思われる。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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