乳がんや前立腺がんは骨粗鬆症と関連することは、以前紹介しました。
乳がんは女性にとって最も多いがんの一つで、世界で年間200万人以上の新規患者さんが発生しています。
近年の治療の進歩により、乳がん患者さんの生存率は向上していますが、治療に伴う副作用も新たな問題として浮上しています。
その一つが関節痛です。
関節痛は、乳がん治療の中でも特にホルモン療法や化学療法によって引き起こされることが多く、生活の質を低下させたり、治療の継続を困難にしたりすることがあります。
関節痛の原因やメカニズムはまだ十分に解明されておらず、適切な診断や治療が必要です。
また、関節痛の症状は、関節炎の一種であるリウマチと似ていることもあります。
リウマチは、免疫系の異常によって関節に炎症が起こる病気で、女性に多く見られます。
乳がんとリウマチの関係については、研究によって結果が異なっており、はっきりとしたことはわかっていません。
今回は、乳がん患者さんの関節痛の原因や頻度、リウマチとの関係について調査した論文を紹介します。
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今回紹介する論文の概要
今回紹介する論文は、乳がん患者さんの関節痛の原因や頻度、リウマチとの関係について調査した内容です。
「Kim JY,et al. Musculoskeletal Pain and the Prevalence of Rheumatoid Arthritis in Breast Cancer Patients During Cancer Treatment: A Retrospective Study. J Breast Cancer. 2022 Oct;25(5):404-414. doi: 10.4048/jbc.2022.25.e40. 」。
2022年の最新の論文になります。
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対象と方法
この研究では、2004年から2018年の間に、乳がんの手術や抗がん剤、ホルモン療法などの治療を受けた後に、関節や筋肉に痛みが出た患者さんを対象にしました。
自己免疫病などの病気がなかった患者さんだけを選び、がんが骨に転移している患者さんは除外しました。
このようにして、146人の乳がん患者さんが研究の対象になりました。
乳がん患者さんと同じ年齢や性別で、乳がんではなく、関節や筋肉に痛みがある患者さんを比較対象にしました。
このような患者さんは、同じ期間に、関節や筋肉の専門医であるリウマチ科の診察を受けた人の中から選びました。
このようにして、102人の比較対象の患者さんが決まりました。
そして、この研究では、乳がん患者さんと比較対象の患者さんの両方に、以下のことを行いました。
- 関節や筋肉の状態を詳しく調べるために、触診や動作検査などを行いました。
- 炎症の程度を調べるために、血液検査で赤沈やCRPなどの値を測定しました。
- 関節炎や自己免疫病の有無を調べるために、血液検査でリウマチ因子や抗CCP抗体、抗核抗体などの値を測定しました。
- 関節の変形や破壊の有無を調べるために、関節のレントゲン写真を撮りました。
- 痛みの原因や種類を判断するために、専門医の診断を受けました。
- 痛みの治療や予防のために、薬や注射などの処方を受けました。
統計的な分析を行うために、乳がん患者さんと比較対象の患者さんの年齢や性別、痛みの原因や種類、血液検査やレントゲン写真の結果、処方された薬や注射の種類や回数などのデータを集めました。
そして、乳がん患者さんと比較対象の患者さんの間に、痛みの原因や種類、血液検査やレントゲン写真の結果、処方された薬や注射の種類や回数などに、どのような違いがあるかを調べました。
その際に、乳がん患者さんの中でも、治療の種類や期間によって、痛みの原因や種類、血液検査やレントゲン写真の結果、処方された薬や注射の種類や回数などに、どのような違いがあるかも調べました。
このようにして、乳がんの治療が、関節や筋肉の痛みにどのような影響を与えるかを分析しました。
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結果
Kim JY,et al. Musculoskeletal Pain and the Prevalence of Rheumatoid Arthritis in Breast Cancer Patients During Cancer Treatment: A Retrospective Study. J Breast Cancer. 2022 Oct;25(5):404-414. doi: 10.4048/jbc.2022.25.e40.
Table 2は、乳がん患者のうち、関節リウマチ(RA)を発症した3人と、発症しなかった143人の特徴を比較したものです。以下に主な内容をまとめます。
- RAを発症した乳がん患者は、発症しなかった患者よりも、赤沈(ESR)やC反応性タンパク質(CRP)などの炎症マーカーが高く、リウマチ因子(RF)や抗サイクリックシトルリン化ペプチド抗体(ACPA)などのRAの血液検査の陽性率も高かったです。
- RAの発症は、乳がんの治療法(内分泌療法、手術、化学療法、トラスツズマブ、放射線療法)とは関係がないことが示されました。
- RAを発症した乳がん患者のうち、1人は内分泌療法を受けておらず、2人はアロマターゼ阻害剤(AI)を使用していました。AIはRAの症状を悪化させる可能性があると考えられています。
- RAを発症した乳がん患者と、RAを発症した対照群の患者との間には、炎症マーカーやRAの血液検査の陽性率に有意差はありませんでした。
- これは、乳がんとRAの発症には直接的な関係がないことを示唆しています。
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Kim JY,et al. Musculoskeletal Pain and the Prevalence of Rheumatoid Arthritis in Breast Cancer Patients During Cancer Treatment: A Retrospective Study. J Breast Cancer. 2022 Oct;25(5):404-414. doi: 10.4048/jbc.2022.25.e40.
表3は、乳がん患者と対照群の間で筋骨格系の痛みの原因を比較したものです。
以下に主な内容をまとめます。
- 乳がん患者と対照群の間で関節炎の発生率は有意差がありませんでしたが、乳がん患者の方が腱や付着部の炎症(腱炎、肩関節周囲炎、腱鞘炎など)の発生率が高かったです(28.1%対12.7%、p = 0.004)。
- 乳がん患者のうち、アロマターゼ阻害剤(AI)を使用している72人のうち36人(50.0%)がAIによる筋骨格系症状(AIMSS)を合併していました。AIMSSは、AI治療開始後6か月以内に発症または悪化した対称性の関節痛や朝のこわばりなどの症状で診断されます。
- 乳がん患者と対照群の間で関節リウマチ(RA)の発生率にも有意差はありませんでした(2.1%対2.9%、p = 0.692)。乳がん患者のRA患者は、赤沈やCRPなどの炎症マーカーが高値であり、リウマチ因子(RF)や抗CCP抗体(ACPA)などの血清学的特徴も有していました。これらの指標は、RAの診断に有用です。
- 乳がん患者の筋骨格系の痛みの原因は、乳がん治療や加齢に伴う変性疾患、あるいはその両方による可能性があります。乳がん治療やRAとの関連性をさらに調べるためには、より大規模な前向き研究が必要です。
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Kim JY,et al. Musculoskeletal Pain and the Prevalence of Rheumatoid Arthritis in Breast Cancer Patients During Cancer Treatment: A Retrospective Study. J Breast Cancer. 2022 Oct;25(5):404-414. doi: 10.4048/jbc.2022.25.e40.
Figure 2は、乳がん患者と対照群の鎮痛剤の処方数の割合を示した棒グラフです。
鎮痛剤には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、トラマドール、三環系抗うつ薬(TCA)やガンマアミノ酪酸(GABA)アナログなどが含まれます。
鎮痛剤の処方数は、0、1、2、3の4段階に分けられています。
グラフから、乳がん患者の方が対照群よりも多くの鎮痛剤を必要としていることがわかります。
特に、2種類以上の鎮痛剤を使用している乳がん患者の割合は、対照群の約3倍です。
グラフの下にあるp値は、乳がん患者と対照群の鎮痛剤の処方数の傾向に統計的に有意な差があることを示しています。
つまり、乳がん治療に伴う関節痛や筋肉痛は、対照群よりも乳がん患者にとって重大な問題であることがグラフから読み取れます。
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Kim JY,et al. Musculoskeletal Pain and the Prevalence of Rheumatoid Arthritis in Breast Cancer Patients During Cancer Treatment: A Retrospective Study. J Breast Cancer. 2022 Oct;25(5):404-414. doi: 10.4048/jbc.2022.25.e40.
Table 4は、乳がん患者と対照群の関節痛の治療法を比較した表です。
以下にその内容をわかりやすく説明します。
- 表の左側には、関節痛の治療に用いられる薬剤や方法が列挙されています。NSAIDは非ステロイド性抗炎症薬、TCAは三環系抗うつ薬、GABAはガンマアミノ酪酸、DMARDは病態変化抗リウマチ薬、AAPはアセトアミノフェン、local injectionは局所注射を意味します。
- 表の右側には、乳がん患者と対照群のそれぞれにおいて、各治療法を受けた人数と割合が示されています。たとえば、乳がん患者のうち113人(77.4%)がNSAIDを使用し、対照群のうち60人(58.8%)がNSAIDを使用したことがわかります。
- 表の下部には、治療法の違いについて統計的に検定した結果がp値として示されています。p値が0.05より小さい場合は、乳がん患者と対照群の間に有意な差があると判断できます。たとえば、NSAIDの使用については、p値が0.002であり、乳がん患者の方が対照群よりも多く使用していることが有意であると言えます。
- 表から分かることは、乳がん患者は対照群よりも関節痛の治療により多くの薬剤や方法を必要としているということです。特に、NSAIDやtramadolなどの鎮痛薬の使用率が高く、複数の薬剤を併用する割合も高いことがわかります。また、乳がん患者の方が対照群よりも自然に痛みが改善する割合が低いこともわかります。これらのことは、乳がん患者の関節痛がより重度であることを示唆しています。
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考察
この論文から分かったことは、乳がん患者は、骨関節症や腱炎などの関節痛を多く経験し、その原因は乳がん治療によるものもあるということです。
また、乳がん患者は、リウマチを発症するリスクは高くないということです。
乳がん患者さんの関節痛は、痛みの強さや持続時間によって、生活の質や治療の継続に影響を与えることがあります。
そのため、関節痛の原因を正確に診断し、適切な治療を行うことが大切です。関節痛の治療には、鎮痛薬や抗炎症薬などの薬物療法や、運動療法や物理療法などの非薬物療法があります。
また、アロマターゼ阻害薬による関節痛がひどい場合は、タモキシフェンに切り替えることもできます。
関節痛は、乳がん治療の副作用の一つとして軽視されがちですが、患者さんの健康や幸せに大きく関わる問題です。
関節痛の治療は、個々の患者さんの状態や希望に応じて、医師と相談して決めていきましょう!
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変形性膝関節症患者にする理学療法の効果はコチラにを参考にしてみてください。
・リウマチの発症率は、乳がん患者と乳がんのない患者で差はなく、乳がん治療の種類や期間とも関係がなかった。
・乳がん患者は、関節痛の発症から専門医の受診までの期間が短く、関節痛の治療により強い鎮痛剤を必要とすることが多かった。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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