がんの痛み、消化器症状に対する運動療法の効果

今回は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの痛み、消化器症状に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介します。

最近はがんの症状に対する代替補完療法の効果について記載している内容を紹介しています。

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多くの代替補完療法がありますが、私たちリハビリテーション専門職にとっては、やはり運動療法が一番気になるところです。

 

私の記事でもがん患者さんに対する運動療法の効果は多数紹介してきましたが、こちらのガイドラインにはどのように記載されているのでしょうか?

 

今回は、がんの痛み、消化器症状に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介します。

記載内容は、がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版. 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 (編). 金原出版、から引用させていただいております。

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運動療法の概要

運動とは,体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施されるもので,継続性のある身体活動を指します。

がん患者に対する運動療法の効果として,倦怠感などの苦痛症状の緩和,身体機能や QOL の向上などがあります。

既存のガイドラインでは 一般に成人(18~64 歳)に対して,中等度の身体活動を週150 分,高強度の有酸素運動 を週75 分,中~高強度の抵抗運動を週2 回以上,行うことが推奨されており、65 歳以 上の高齢者においても成人と同等の運動が推奨されています。

 

運動療法を実施するにあたって、以下の点に注意が必要ときさいされています。

 

  • 抗がん剤の点滴中や治療後24 時間以内は運動を避ける。
  • がん治療による重篤な貧血がある場合は,改善してから行う。
  • がん治療による白血球減少の場合は,感染予防のため公共施設での運動を避ける。
  • 放射線治療中には,皮膚防護のためプール(塩素含む)の使用を避ける。
  • 高齢者の場合,骨疾患(重篤な骨粗鬆症や骨転移など)に注意する。

 

運動はメリットがある一方で、リスク管理が重要になりますので貧血や感染、骨転移などには細心の注意が必要ですね。

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痛みに対する効果

痛みに対しては、コクランのシステマティックレビューでは,頭頸部がんの治療による肩の機能不全に対する運動の介入の効果として,2 件の研究で漸進的抵抗運動が, 肩の痛みや機能障害,関節可動域の改善に有効であったと報告されています。

他のシステマティックレビューでは,肩の痛みを有する乳がん治療中 の患者を対象に,運 動が乳がん治療による肩の痛みを軽減する可能性があると結論づけています。運動の介入 方法は多様であり,肩・腕・肩甲骨の抵抗運動,姿勢運動,全身運動や調整運動,肩回し運動,リンパ浮腫の予防運動などが活用されています。

よって,運動は,乳がんや頭頸部がん患者の治療に関連した肩の痛みの軽減に有用 と考えられると結論付けられています。

 

一方で、「American College of Sports Medicine roundtable on exercise guidelines(2010)」では,乳がん患者を対象とした痛みの緩和について,いずれも 有効である知見とそうでない知見が混在しており,エビデンスレベルは低い結果となっています。ただし,運動を実施しても,症状の悪化は全くなかったようです。

 

乳がんや頭頚部がんは、肩関節の機能障害や疼痛を生じやすいので、運動療法で疼痛が軽減するという結果は素晴らしいですね。

ただし、どちらも運動器由来の疼痛の改善であるので、なかなかがん性疼痛や神経障害性疼痛の改善を明らかにするのは難しいんでしょうね。

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消化器症状・呼吸器症状に対する効果

消化器症状・呼吸器症状に対しては、2016年度のガイドラインの時点では根拠を示すシステマティックレビューの報告はないため、その効果はわからないようです。

 

一方で、「がんのリハビリテーションガイドライン(2013)」では,主に乳がん患者を対象に,末梢血管細胞輸血前の高用量化学療法中の患者に,臥位でのエルゴメーターを30 分,入院中毎日実施し,顆粒球減少と下痢の程度を改善させた報告があります。

さらに,ヨガで下 痢やストレス症状(胃腸症状など)が改善した報告もあります。

よって,有酸素運動や抵抗運動は,下痢や貧血など治療の有害反応を軽減させるため,行うように推奨されています(推奨グレードB)。

 

残念ながら、代替補完療法ガイドラインでは消化器や呼吸器症状については、記載がありませんでしたが、「がんのリハビリテーションガイドライン」を参考にすると、消化器症状の改善も期待してもいいかもしれません。

呼吸器症状の改善はガイドラインに記載はされていませんが、呼吸器症状はがん患者さんで問題になりやすいため、介入研究が散見されます。

運動を行うこと自体で呼吸器症状が改善するのは難しいかもしれませんが、心肺機能や筋力をアップさせることで呼吸器症状の軽減にはつながると思いますよ。

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泌尿器症状に対する効果

泌尿器症状に対しては、システマティックレビューでは,前立腺がんの治療中・後の患者を対象に,運動を実施した25 件の無作為化比較試験(2,590 例)において,運動の介入により尿失禁が改善し,指導下の運動はそうでない運動と比較してより効果的であったとされています。

主な運動は,ウォーキング,抵抗運動,耐久運動,指導下または在宅での骨盤筋抵抗運動などであり、介入期間は4 週間~1 年,週1~5 回, 1 日数回で,1 回15~90 分となっています。

 

一方で、「American College of Sports Medicine roundtable on exercise guidelines(2010)」で は,前立腺がんを対象とした観察研究で,標準体重で運動していた患者は肥満・座位傾向の患者と比較して失禁が少ないと報告していますが、研究数が少ないためエビデンスレベル の評価はありません。

 

「 がんのリハビリテーションガイドライン(2013)」では,前立腺全摘出術後の患者に骨盤底筋体操を行うと尿失禁を改善するので,行うことが強く推奨されています(推奨グ レードA)。

 

最近は、ウィメンズヘルス・メンズヘルス領域でも、リハビリテーションの効果に対する関心が高まってきていますので、その裏付けとなる報告ですね。

泌尿器症状で困っている方も運動を積極的に行っていくようにしていいかもですね。

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まとめ
・がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)より、がんの痛み、消化器症状に対する運動療法の効果について記載している内容を紹介。

・運動は,乳がんや頭頸部がん患者の治療に関連した肩の痛みの軽減に有用 と考えられると結論付けられている。

・「がんのリハビリテーションガイドライン(2013)」では,有酸素運動や抵抗運動は,下痢や貧血など治療の有害反応を軽減させるため,行うように推奨されている。

・運動の介入により尿失禁が改善し,指導下の運動はそうでない運動と比較してより効果的であった。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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