以前の記事で、がん患者さんが運動するときのリスク管理について紹介しました。
リスク管理にも色々ありましたが、私たち理学療法士が最も注意するリスク管理の一つが骨転移になります。
骨転移がある患者さんは、運動負荷によっては骨折の危険性があるので注意が必要です。
万が一、骨折でもしてしまえば、手術が必要になったり大変なことになりますね。
そこで今回は、骨転移が気になるがん患者さんに対して、どのようながん種が注意すべきか、どのような部位が骨転移になりやすいか、どのような症状が出現しやすいかを紹介します。
「骨盤ウォーカーベルト」
骨転移が起こりやすいがん種
骨転移の頻度としては、国立がん研究センターのX線画像読影などの登録データによると、がん患者全体の約10%に骨転移が発生するといわれています(荒木信人: 転移骨腫瘍診療の現状:骨転移診療ハンドブック. 金原出版. 2004)
森脇昭介 他: 癌の骨転移と病理形態と問題点. 病理と臨. 1999: 17; 28-34
上の表は、胸椎~腰椎の骨転移のがん種別の頻度の調査になります。
乳がんや前立腺がんは75%とかなりの高頻度で、胸椎~腰椎の骨転移が出現しています。
次いで肺や甲状腺の順番になっています。
食道、胃、大腸といった消化器がんは20%前後と、骨転移の頻度は低いですが、そもそもの患者数が多いですので、がん患者さん全体人数としての割合は多くなるかもしれません。
日本で最も骨転移のデータが多い「全国骨腫瘍患者登録一覧表(1964~2005年)」では、乳がんや肺がんは21%、前立腺がんや腎がん、胃がんが約7%となっています。
こちらのデータは、13,577例と膨大なデータではありますが、年代が幅広いのでその影響も大きいような気がします。
いずれにしろ、乳がん、肺がん、甲状腺がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がんの患者さんは骨転移を注意しておいた方がいいでしょう。
実際に病院で診る患者さんでは、胃がんや大腸がん、子宮がん、卵巣がんなどでも骨転移を生じていることが多かったです。
他には、血液がんの一つである多発性骨髄腫も、骨転移とは若干異なりますが、骨がもろくなって骨折を起こしやすいので注意が必要です。
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骨転移が起こりやすい部位
骨転移の発生頻度は脊椎(背骨)39.3%、骨盤16.7%、大腿骨(太ももの骨)18.0%とされています。(川井 他: がん骨転移の疫学. 骨・関節・靭帯. 2004: 17; 363-7)
がんの種類によっても若干異なりますが、脊椎の中では胸椎と腰椎,骨盤の中では腸骨に骨転移が多いとされています。
他には、肋骨や上腕骨(腕の骨)にも骨転移は起こりやすいです。
基本的には、体幹付近の骨に転移しやすく、末梢骨という手足の指の骨などの先っぽには転移しにくいようです。
その理由としては、末梢骨は体積が小さい、温度が低い、血行が少ないなどが挙げられるようです。
実際の患者さんでも背骨や骨盤、大腿骨に転移を生じている患者さんが大半でした。
がんの患者さんは大半が肺~骨盤までのCTをとっているので、骨転移を生じやすい部位はCTでチェックがしやすいです。
それでも稀に、肘や膝より末梢に骨転移を生じることもあるので注意が必要です。
私も脛骨(すねの骨)に骨転移がある患者さんのリハビリを行ったこともあります。骨盤までのCTだけではわからないので、見逃すこともあるので要注意ですね。
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骨転移の症状
骨転移ではいろいろな症状が出現しますが、最も多い症状としては痛みが挙げられます。
痛みの原因としてはいろいろな要因が挙げられていますが、腫瘍によるものや骨折によるもの、炎症によるもの、神経障害によるものなど多様になります。
腫瘍の痛みには医療用麻薬やオピオイドが効きやすいですし、骨折や炎症に対してはロキソプロフェンのようなNSAIDS、神経障害に対してはプレガバリンのような鎮痛薬が効きやすいですので、痛みの原因に応じて鎮痛薬を調整することが重要です。
骨転移の痛みの特徴としては、安静時痛というよりも、動作を行ったときの疼痛が強いことが挙げられます。
脊椎転移だと起き上がりや腰をひねったとき、大腿骨だと脚を上げた時や体重をかけた時に痛みが出やすいですので、動作時に脊椎や大腿骨に痛みがあると要注意です。
骨転移が出現しやすい乳がん、肺がん、甲状腺がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がんの患者さんで、動作をしたときに脊椎や骨盤、大腿骨に痛みが出現する場合には、痛みが出る動作は控えて医療従事者に確認したほうがいいかもしれません。
脊椎転移の場合には叩打痛といって、転移の部分を掌で叩くと痛みが出現することもあるので、参考にしてもいいかもしれません。骨転移ではなくても、高齢者だと圧迫骨折で、叩打痛が出現することもありますが。
ちなみに、膝や股関節が悪い方などは関節周囲が痛いことが多いですが、大腿骨転移だと関節よりも骨の部分が痛いことが多いです。
単純な筋肉痛との鑑別も難しいです。筋肉痛であれば時間の経過とともに改善するので、1週間経っても動いた時の痛みが持続しているのであれば、注意したほうがいいでしょう。
脊椎転移の場合は、麻痺症状が出現することもあります。
頸椎(首の骨)の転移だと上肢の麻痺、胸椎・腰椎の転移では下肢の麻痺が出現しやすいです。
骨盤の転移があると、転移が馬尾神経や坐骨神経に浸潤して、下肢の麻痺が出現することもあります。
いずれにしても、脊椎や骨盤の転移がある患者さんで、手足の動かしにくさや筋力低下を感じたり、しびれのような症状が出現する場合には、すぐに医師に相談したほうがいいでしょう。
骨転移があるのかどうかわかっていない状態でも、明らかに手足の動きが悪くなった場合には早急に病院を受診したほうがいいです。
麻痺が出現してから、48時間以内に手術や放射線治療を行った方がその後の回復がよくなると言われています。
しかし、しばらく様子を見ようとして、ほとんど足が動かなくなってから入院される方も少なくありません。
どうしても、ちょっと様子を見てみようと思う気持ちはわかりますが、手足が動かしにくくなるのは重要なサインですので、即病院に行くようにした方がいいです。
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骨転移の種類
日本臨床腫瘍学会(編): 骨転移診療ガイドライン. 2015
骨転移にはいくつかの種類がありますが、とりあえず溶骨型と造骨型があることを理解しておきましょう。
溶骨型は骨が溶けやすく、造骨型は骨が形成されやすい状態です。
溶骨型だと骨折に注意が必要ですし、造骨型だと脊髄の圧迫などに注意が必要です。
腎がんや肺がんなどが溶骨型が多く、前立腺がんなどが造骨型が多いなどの特徴があると言われていますが、同じがん種でも病態が異なることも多いですので、骨転移がある場合にはどの部位にどのような骨転移があるのかを把握しておいた方がいいです。
骨転移は骨折や麻痺が出現してしまう可能性があるので非常に注意が必要です。
乳がん、肺がん、甲状腺がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がんの患者さんで、動作をしたときに脊椎や骨盤、大腿骨に痛みが出現する場合には、無理に運動せずに経過を見ながら必要に応じて診察を受けましょう。
しびれや手足の動かしにくさを感じた時はすぐに診察を受けるようにしましょう。
しかし、骨転移があるからといっても運動をしてはいけないわけではないですので、自分の骨転移の部位や状態を医師に確認して、どのような運動は避けた方がいいかを医療従事者に確認してください。
原則としては、骨転移がわかってる場所に痛みが出現するような動作、運動は控えるようにしてくださいね。
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・乳がん、肺がん、甲状腺がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がんなどのがん種が骨転移が出現しやすい。
・脊椎や骨盤、大腿骨などの部位が骨転移が出現しやすい。
・骨転移の症状としては疼痛が最も出現しやすい。特に動作時の疼痛に注意。
・脊椎転移の場合には麻痺の出現にも注意が必要。
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