人工膝関節全置換術後の早期からの段階的な筋トレの効果は?  

今回は、人工膝関節全置換術後の患者さんに対して早期からの段階的な筋トレを実施することの効果を検討した論文を紹介します。

 

最近は、中等度~重度のの変形性膝関節症患者さんに対する運動の効果について紹介しています。

膝OA患者に対する筋トレの効果~神経筋運動vs大腿四頭筋強化~ 

2022年6月9日

弾性バンドでの筋トレは中等度の変形性膝関節症患者にも効果がある 

2022年6月8日

重度の変形性膝関節症患者に対する運動負荷は注意が必要 

2022年6月7日

運動負荷の調整は必要ですが、可能な範囲で運動したほうが効果があるような結果でしたね。

 

しかし、変形性膝関節症が進行すると、最終的には人工膝関節全置換術を行うことも少なくありません。

小池祐輔, 石田和宏, 宮城島一史 . 膝関節. 整形外科看護 25(10): 975-981, 2020.

 手術後は、膝の変形は改善しているので積極的に運動を行ってもいい気がしますがどうなのでしょうか?

理学療法ガイドラインにおいては、「運動機能低下がある人工膝関節全置換術後の患者に対して,漸増膝伸展筋力強化運動は推奨されるか」というクリニカルクエスチョンに対して、「運動機能低下がある人工膝関節全置換術後の患者に対して,漸増膝伸展筋力強化運動を実施することを提案する.」と記載されています。

では、実際にガイドラインの根拠となった文献の内容はどのようのものなのでしょうか?

  

今回は人工膝関節全置換術後の患者さんに対して早期からの段階的な筋トレを実施することの効果を検討した論文を紹介します。

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今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、人工膝関節全置換術後の患者さんに対して早期からの段階的な筋トレを実施することの効果を検討した内容になっています。

「Jakobsen TL, Kehlet H, Husted H, et al. Early progressive strength training to enhance recovery after fast-track total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Dec;66(12):1856-66.」 2014年に発行された少し昔の論文になります。

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対象

In total, 82 patients with a unilateral primary TKA were randomized to 2 different interventions: 7 weeks of supervised physical rehabilitation with PST (PST group) and without PST (CON group) commenced early after fast-track TKA.

Jakobsen TL, Kehlet H, Husted H, et al. Early progressive strength training to enhance recovery after fast-track total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Dec;66(12):1856-66.

片側一次TKA患者82名を2種類の介入に無作為に割り付けています。

段階的な筋トレを用いた7週間の指導付きリハビリテーション(PST群)35名と段階的な筋トレを用いないリハビリテーション(CON群)37名を、TKA後の早期から開始しています。

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方法

The primary outcome was the maximal distance walked in 6 minutes (6-minute walk test). Secondary outcomes were lower extremity strength and power, knee joint effusion and range of motion, knee pain, and self-reported disability and quality of life. All outcome measures were assessed before TKA (baseline) and 4, 8, and 26 weeks after TKA.

Jakobsen TL, Kehlet H, Husted H, et al. Early progressive strength training to enhance recovery after fast-track total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Dec;66(12):1856-66.

主要アウトカムは6分間の最大歩行距離(6分間歩行テスト)で、副次的アウトカムは,下肢筋力とパワー,膝関節液貯留と可動域,膝関節痛,自己申告による障害と QOL でした.

すべての評価項目は,TKA施行前(ベースライン),TKA施行後4,8,26週目に評価されています. 

Jakobsen TL, Kehlet H, Husted H, et al. Early progressive strength training to enhance recovery after fast-track total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Dec;66(12):1856-66.

こちらの表2群の運動プログラムになります。

 

【CON群】

①ウォーミングアップ(10分)
②関節可動域運動(6分)
③ストレッチング(6分)
④ファンクショナルトレーニング(10分)
⑤バランストレーニング(5分)
⑥アイシング,下肢挙上(10分)

 

【PST群】

①ウォーミングアップ(5分)
②関節可動域運動(3分)
③ストレッチング(4分)
④段階的筋力トレーニング(15分)
⑤ファンクショナルトレーニング(10分)
⑥バランストレーニング(5分)
⑦アイシング,下肢挙上(5分)

両群ともに60分間の運動を週2回、7週間実施しています。

 

段階的筋力トレーニングの負荷は、

1週目:12RM
2-5週目:10RM
6-7週目:8RM

というように、徐々に負荷をアップしています。

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結果

Jakobsen TL, Kehlet H, Husted H, et al. Early progressive strength training to enhance recovery after fast-track total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Dec;66(12):1856-66.

こちらのグラフは、介入前後の2群の運動機能の変化を示しています。

上の図が6分間歩行テスト、すなわち持久力の結果であり、太い点線がPST群、太い実線がCON群になります。

どちらの群も手術直後は下肢筋力が一時的に低下しますが、26週後には同等のレベルまで回復しています。

しかし、2群間で変化の程度に差はなかったようです。

 

下の図が下肢筋力の結果であり、太い点線がPST群、太い実線がCON群になります。

どちらの群も手術直後は持久力が一時的に低下しますが、26週後には同等のレベルまで回復しています。

しかし、2群間で変化の程度に差はなかったようです。

 

それ以外の項目においても2群間で臨床的に意味のある差はなかったようです。

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結論

Seven weeks of supervised physical rehabilitation with PST was not superior to 7 weeks of supervised physical rehabilitation without PST in improving functional performance, measured as the maximal walking distance in 6 minutes, at the primary end point 8 weeks after fast-track TKA.

Jakobsen TL, Kehlet H, Husted H, et al. Early progressive strength training to enhance recovery after fast-track total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Dec;66(12):1856-66.

PSTを用いた7週間のリハビリテーションは、PSTを用いない7週間のリハビリテーションと比較して、人工関節全置換術の8週間後の6分間の最大歩行距離で測定される機能パフォーマンスや下肢筋力の改善において優れることはありませんでした。

 

残念ながら術後早期から積極的な筋トレを行ったからといって、通常のリハビリと比べて大きな改善はなかったようですね。

これだけ筋トレしているのだから、もっと運動機能改善してもよさそうですけど・・・。

この研究だけで、術後早期の筋トレが不要とまでは言いませんが、筋トレに固執せずに機能的な運動中心でも大丈夫なのかもしれませんね。

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まとめ
・人工膝関節全置換術後の患者さんに対して早期からの段階的な筋トレを実施することの効果を検討した論文を紹介。

・段階的な筋トレを用いた7週間の指導付きリハビリテーション(PST群)35名と段階的な筋トレを用いないリハビリテーション(CON群)37名を、TKA後の早期から開始した。

・PST群は1週目:12RM、2-5週目:10RM、6-7週目:8RMの負荷で筋トレを実施した。

・どちらの群も手術直後は運動機能が一時的に低下したが、26週後には同等のレベルまで回復した。しかし、2群間で改善の程度に差はなかった。

・この研究だけで、術後早期の筋トレが不要とまでは言わないが、筋トレに固執せずに機能的な運動中心でも大丈夫なのかもしれない。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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