今回の記事では、がん患者の痛みをコントロールするための神経ブロックの役割と,その中でも比較的低侵襲で簡便に行える末梢神経ブロックの有用性について解説します。
以前、がん患者さんの痛みの治療として鎮痛薬を紹介しました。
鎮痛薬の種類としては、オピオイド、NSAIDs、アセトアミノフェン、鎮痛補助薬などが挙げられます
しかし、がんの痛みに対する治療は薬物療法以外にも、神経ブロック,インターベンション,外科的治療,放射線照射などの非薬物療法も存在します。
そこで、今回は、がん患者の痛みをコントロールするための神経ブロックの役割と,その中でも比較的低侵襲で簡便に行える末梢神経ブロックの有用性について解説します。
記載内容は、上野 博司. ─緩和ケアにおけるインターベンショナル治療─ 緩和ケアと末梢神経ブロック. 日本臨床麻酔学会誌/41 巻 (2021) 3 号 、から引用させていただいております。
首と脳を酷使するデジタル世代のための理想の枕・ブレインスリープピローNEW WAVEがん疼痛の治療
がん性疼痛治療ではオピオイド鎮痛薬による薬物 療法がその中核を担い,オピオイド鎮痛薬の投与で 14 日以内に95%の患者の痛みのコントロールが可 能であったとされています。
一方で,残りの5%は,便秘, 悪心・嘔吐などのオピオイド鎮痛薬の副作用により, 投与継続が不可となったと報告されています.
このように,がん性疼痛に対しては,まず,オピ オイド鎮痛薬を中心とした薬物療法を行い,それで も効果が不十分な場合には,神経ブロックなどの非 薬物療法を考慮するというストラテジーに従って治 療を進めていく必要があります。
首と脳を酷使するデジタル世代のための理想の枕・ブレインスリープピローNEW WAVEがん性疼痛に対する神経ブロック
神経ブロックとは,「脳脊髄神経および神経節, 交感神経および神経節や神経叢にブロック針を刺入 し,直接またはその近傍に局所麻酔薬または神経破 壊薬を用いて化学的に,あるいは高周波熱凝固や圧 迫などによって物理的に,神経機能を一時的または 長期的に遮断する方法」と定義されています.
日本ペインクリニック学会 がん性痛に対するインター ベンショナル治療ガイドライン作成ワーキンググルー プ編:がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン.真興交易医書出版部,東京,2014
こちらの表は日本ペインクリニック学会の「がん性痛に対する インターベンショナル治療ガイドライン」記載されている神経ブロックの種類です.
がん性疼痛に対する神経ブロックで,特にその効果 にエビデンスが認められているものは,腹腔神経叢 (内臓神経)ブロックとくも膜下持続モルヒネ投与の 2 つです
日本ペインクリニック学会 がん性痛に対するインター ベンショナル治療ガイドライン作成ワーキンググルー プ編:がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン.真興交易医書出版部,東京,2014
こちらの表は,「がん性痛に対する インターベンショナル治療ガイドライン」で有用性が記載されている各種末梢神経ブロックになります.
がん性疼痛の原因となる腫瘍自体の除去や縮小が不可能な場合には,神経ブロックは,一時的ではなく,持続的あるいは長期的な効果が求められるために,このガイドラインに記載されているものの多くは神経破壊を伴う神経ブロックでになります.
一方,腫瘍の浸潤や転移により四肢や体幹部に強い痛みが生じており,他の治療に抵抗性を示す場合は,くも膜下フェノールブロックや高周波熱凝固による腰仙部神経根ブロックなどを考慮する場合がありますが,運動麻痺や膀胱直腸障害などを伴う神経破壊ブロックであるため,適応には慎重な判断が必要です.
神経ブロックは薬物治療で十分な効果が得られない場合に考慮すると述べましたが,オピオイド鎮痛薬でコントロールできていても,早期から神経破壊薬による内臓神経ブロックを行うことで,病状が進行した場合も少量のオピオイド鎮痛薬で痛みのコントロールができるようになり,QOLの改善に寄与する場合もあります.
首と脳を酷使するデジタル世代のための理想の枕・ブレインスリープピローNEW WAVE神経ブロックの問題点
神経ブロックを行う上で,出血傾向の存在は血腫形成による神経圧迫などの問題点が懸念されます。
多くの末梢神経ブロックは,体表面のブロックに分類されており,出血傾向の存在下でも比較的安全に行うことができる.
また,出血傾向がなくても,神経ブロックの際に,ブロック針の進入経路に腫瘍や感染巣を認める場合は,感染,腫瘍の播種,腫瘍出血などのリスクを伴うため,神経ブロックの施行が難しくなる場合があります.
さらに,交感神経ブロックは末梢血管の拡張をきたし,血圧低下を招くため,全身状態が悪く血行動態が不安定な場合は益と害のバランスを考慮した上で,慎重に適応を判断する必要があります。
首と脳を酷使するデジタル世代のための理想の枕・ブレインスリープピローNEW WAVE末梢神経ブロックの適応例
上野 博司. ─緩和ケアにおけるインターベンショナル治療─ 緩和ケアと末梢神経ブロック. 日本臨床麻酔学会誌/41 巻 (2021) 3 号
こちらの症例は膵頭部がん患者さんで、腹膜播種による心窩部痛と,胸椎の骨転移による腰背部痛があったようです。
治療方法として、
①CT で胸椎の骨転移巣か ら右Th12 神経根への浸潤に対して,右Th12 神経根ブロックを実施
② 無水エタノール(20mL)を使用して内臓神経ブロッ クを実施
神経ブロック後には心窩部痛と腰背部痛は消失したとのことです。
上野 博司. ─緩和ケアにおけるインターベンショナル治療─ 緩和ケアと末梢神経ブロック. 日本臨床麻酔学会誌/41 巻 (2021) 3 号
こちらの症例は,肝細胞がん.多発骨転移があり,左仙骨部の転移巣が左L5 神経根へ浸潤し,安静時と体動時の左下肢痛があり,歩行困 難な状況でした.
左L5 神経根ブロックを行ったところ, 疼痛が軽減し,トイレ歩行が可 能となっっています.
上野 博司. ─緩和ケアにおけるインターベンショナル治療─ 緩和ケアと末梢神経ブロック. 日本臨床麻酔学会誌/41 巻 (2021) 3 号
こちらの症例は、悪性リンパ腫の患者さんです.
左大腿骨頭部骨折による急激 な左大腿部痛が生じ,CT で左右大腿骨骨幹部の骨 髄内に腫瘍病変が認められました.
左大腿神経周囲 にカテーテルを挿入し,局所麻酔薬を用いて持続大腿神経ブロックを行ったところ,一旦痛みは消失しました.
しかし,再度左大腿部全体に痛みが波及するため,最終的に腰部硬膜外持続ブロックを行い疼痛が軽減しました。
首と脳を酷使するデジタル世代のための理想の枕・ブレインスリープピローNEW WAVEまとめ
がん患者の痛みで,オピオイド鎮痛薬などの薬物 療法では十分な鎮痛が得られない場合や,オピオイ ド鎮痛薬の副作用のコントロールが難しい場合に, 神経ブロックを併用すれば,劇的に痛みの緩和が得 られることがあります.
痛みが強いと、どんどん鎮痛薬が増量されがちですが、やはり眠気や便秘等の副作用であまり薬を増やしたくないという希望も多いです。
そんな時は、神経ブロックを麻酔科や緩和ケアの医師に相談してみてもいいかもしれません。
オピオイドを極端に増量するよりも、神経ブロックの方が薬代が安くなることもあるのもメリットの一つですね。
適応としては、腫瘍や骨転移が神経に浸潤していることによって疼痛が出現している場合になりますので、注意してください。
・オピオイド鎮痛薬などの薬物 療法では十分な鎮痛が得られない場合や,オピオイ ド鎮痛薬の副作用のコントロールが難しい場合に, 神経ブロックを併用すれば,劇的に痛みの緩和が得 られることがある。
・腫瘍や骨転移が神経に浸潤していることによって疼痛が出現している場合が適応となる。
・血種形成による神経圧迫や感染などのリスクもあるので、実施には注意が必要である。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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