乳房手術後に慢性痛で困っている患者さんが意外と多いことを前回は紹介しました。
乳がん手術を受けた患者さんの中には、術後に長期間痛みを感じる方がいます。
この痛みは、上肢の機能障害や生活の質の低下を引き起こし、患者さんにとって大きな苦しみとなります。
そこで今回は、乳癌手術後の持続的な疼痛(PPSP)の予測因子について詳しく見ていきます。
特に、手術に関連する要因や、術前および術後の中枢性感作(CS)とその関連症状、心理的要因に焦点を当てます。これらの要因がどのようにPPSPに影響を与えるのかを理解することで、より効果的な予防と管理が可能になるでしょう。
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今回紹介する論文の概要
今回紹介する論文は、乳がん手術後1年の持続的な術後痛(PPSP)の予測因子を調査しています。
「Manfuku M, Nishigami T, Mibu A, Yamashita H, Imai R, Kanamori H, Sumiyoshi K. Predictors of persistent post-surgical pain intensity and interference at 1 year after breast cancer surgery: assessing central sensitization, central sensitivity symptoms, and psychological factors. Breast Cancer. 2023 Mar;30(2):271-281. 」。
2023年の論文になります。
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対象と方法
研究の対象と方法
この研究は、乳がん手術を受ける女性を対象に行われました。
対象者は20歳から79歳の女性で、手術前後の痛みや心理的な状態を調査しました。
対象者の選び方
対象者は、乳がん手術を予定している女性で、転移や再発がないことが条件でした。
また、手術後に感染症が発生した場合や、他の治療による痛みがある場合は除外されました。
データの収集方法
手術の3~4日前に、対象者の年齢、体重、身長、教育レベル、結婚状況などの基本情報を収集しました。
また、痛みや心理的な状態を評価するためのアンケートも実施しました。
これらの評価は、手術前、手術後1か月、手術後1年の3回行われました。
痛みの評価
痛みの強さや影響を評価するために、Brief Pain Inventory(BPI)というアンケートを使用しました。
これは、痛みの強さや日常生活への影響を0から10のスケールで評価するものです。
心理的な評価
心理的な状態を評価するために、Pain Catastrophizing Scale(PCS)、Patient Health Questionnaire-2(PHQ-2)、Generalized Anxiety Disorder-2(GAD-2)というアンケートを使用しました。
これらは、それぞれ痛みに対する不安やうつ症状を評価するものです。
統計の方法
年齢や体重などの影響を取り除いて、痛みや心理的な状態の違いを比較しました。
また、複数の要因が痛みにどのように影響するかを調べるために、重回帰分析も行いました。
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結果
研究の結果
- 中央感作(CS)スコアの違い: 手術前および手術後1ヶ月の中枢性感作スコアが、PPSPを経験するグループでは、経験しないグループよりも有意に高いことがわかりました。これは、手術前から既に痛みを感じやすい状態にあることが影響している可能性があります。
- 腋窩リンパ節郭清(ALND): PPSPの強さや影響を予測する独立した要因として、腋窩リンパ節郭清が挙げられました。この手術は、乳がんの広がりを確認するために行われますが、神経を傷つけるリスクがあり、これが持続的な痛みの原因となることがあります。
- 術後1ヶ月のCS関連症状: 手術後1ヶ月の時点でのCS関連症状(筋肉のこわばり、疲労、睡眠障害など)も、PPSPの強さや影響を予測する重要な要因でした。これらの症状が強いほど、1年後の痛みも強くなる傾向がありました。
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まとめ
この研究から、手術前および手術後の早い段階での中枢性感作や関連症状の評価が、持続的な術後痛の予防や管理に役立つ可能性が示唆されました。
特に、腋窩リンパ節郭清を受ける患者さんは、術後の痛み管理に特別な注意が必要です。
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感想
慢性痛の原因の一つとして中枢性感作という、脳や脊髄が痛みに対して敏感になってしまっている状態が挙げられます。
乳がん患者さんに対しても、術後の慢性痛に中枢性感作が関連していたということは、通常の痛みに対するアプローチでは対応が困難な可能性が考えられます。
腋窩リンパ節郭清を受けて慢性痛を生じている患者さんには、中枢性感作などの評価を行いながら、対応を検討する必要がありますね。
慢性痛のメカニズムに関してはコチラにを参考にしてみてください。
・腋窩リンパ節郭清(ALND)と術後1ヶ月のCS関連症状が、術後1年のPPSPの強度と干渉の独立した予測因子であることが示されました。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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