前回はリンパ浮腫ケアの実施状況について紹介しました。
リンパ浮腫予防のための日常生活指導等はしっかりと行われていましたが、運動やリハ職種のかかわりはちょっと少ないような結果でしたね。
また、がんサバイバーの運動実施の実態についても紹介しました。
年齢が低く、仕事や化学療法を行っている方は運動実施率が低いという結果でしたが、リンパ浮腫患者さんは比較的若い患者さんも多いですので、積極的に運動を実施してもらいたいところです。
リンパ浮腫の治療としては、リンパ浮腫外来がメインとなりますが、実際に運動はどの程度行われているのでしょうか?
今回は、がん診療連携拠点病院のリンパ浮腫外来における運動療法の実施やその問題点について調査した論文を紹介します。
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・全国のがん診療連携拠点病院402施設のリンパ浮腫外来を行っている施設と個人にアンケート調査を行った。
・リンパ浮腫外来で運動療法を実施しているのは少数であった。
・リハビリスタッフが関わっていると、運動療法の実施率が高くなるようである。
・マンパワー不足が問題となっているので、リンパ浮腫の知識があるリハビリスタッフの育成が大事である。
今回紹介する論文の概要
今回紹介する論文は、がん診療連携拠点病院のリンパ浮腫外来における運動療法の実施やその問題点について調査した内容の論文となっています。
「石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336 」2021年に発行された日本の論文です。
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方法
1.対象:調査対象は厚生労働省が認定したがん診療拠点病院402 施設の内,2018年9月時点で国立がん研究センターがん情報サービスにリンパ浮腫外来を実施している施設 として登録されていた198施設とした。
2.方法:該当施設内でリンパ浮腫外来に従事している医療者に 対して調査用紙を郵送した。調査用紙は「施設用」と「個人用」の2 部構成となっており,施設用調査は,1)リンパ浮腫ケアの治療内容,2)患者1 人に対する治療・ 指導時間と治療・指導時間の内訳,3)リンパ浮腫外来におけるリハビリスタッフとの連携の有無,4)運動療 法の実施が抱える問題点を尋ねる内容とした。施設用の 調査用紙には,施設のリンパ浮腫外来治療をもっとも把 握している医療従事者に記載を依頼した。また,個人用調査の内容は1)リンパ浮腫患者に対する運動療法の必 要性,2)リンパ浮腫患者の運動療法は自主練習で十分 かどうか,3)施設で実施・指導している運動療法は十 分かどうか,4)運動療法が十分に行えない理由,5)リンパ浮腫外来患者を専門的なリハビリ施設に紹介したい かどうか,6)月に何人程度の患者を紹介するかを尋ねる内容とした。個人向けの調査用紙には,リンパ浮腫外 来にかかわるすべての医療者に記載するよう依頼した。 なお,個人向けの調査用紙の記入は無記名・自記式とし た。未回答施設に対するリマインドは行わなかった。
石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
全国のがん診療連携拠点病院402施設に対して、リンパ浮腫外来に関して、施設を対象とした質問と個人を対象とした質問のアンケート調査を行っています。
施設に対しての質問は、
- リンパ浮腫ケアの治療内容
- 患者1 人に対する治療・ 指導時間と治療・指導時間の内訳
- リンパ浮腫外来におけるリハビリスタッフとの連携の有無
- 運動療法の実施が抱える問題点
個人に対しての質問は、
- リンパ浮腫患者に対する運動療法の必要性
- リンパ浮腫患者の運動療法は自主練習で十分 かどうか
- 施設で実施・指導している運動療法は十分かどうか
- 運動療法が十分に行えない理由
- リンパ浮腫外来患者を専門的なリハビリ施設に紹介したいかどうか
- 月に何人程度の患者を紹介するか
となっています。
施設と個人に対して、リンパ浮腫に関する運動の実施状況や必要性、問題点等を調査しています。
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結果
石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
こちらの表は、アンケートに回答した施設や回答者の基本情報になります。
300-1000床の一般病院が多いようです。
回答者は経験年数5-10年くらいが多いみたいです。
回答者の職種は、やはり看護師さんが多いですね。
石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
こちらが実際に行っているリンパ浮腫治療の内容とその時間です。
スキンケアやリンパドレナージ、圧迫療法はかなりの割合で行っていますが、運動療法は14%程度とかなり少ない割合になっています。
1回の治療は60分程度で、その内訳はリンパドレナージが24分間と大半を占めています。
それに対して、運動療法は3.3分間と、とても短い時間の実施となっていますね。
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石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
こちらの表は、リンパ浮腫外来で運動療法を実施している施設の特徴を示しています。
結果として、リハビリスタッフの数が多いことが、運動療法の実施につながっているようです。
やはり、看護師さんだけで運動療法まで実施するのは難しいので、リハビリスタッフが連携して運動療法まで実施しているんでしょうね。
石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
こちらの表は、リンパ浮腫外来で運動療法が実施できていない原因を示しています。
スタッフの不足や診療時間の不足などのマンパワーの問題が最も多いようです。
石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
こちらは個人に対するアンケートの結果になります。
リンパ浮腫患者さんに対する運動療法は必要と感じているものの、十分に実施できていないというジレンマが認められますね。
やはり、マンパワー不足が問題点のようです。
リンパ浮腫患者さんを外来で診てくれる病院が増えれば、紹介したいと考えてる人も多いようですので、どんどん広めていきたいところです。
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結論
本研究の結果,リンパ浮腫外来で多職種が連携して運動療法を実施しているのは6施設のみであり,医療従事 者はリンパ浮腫患者に対して運動療法は必要であるが十分に対応できていないと感じていることが明らかとなっ た。運動療法を実施できない問題点として「知識・技術 のあるスタッフの不足」,「診療時間の不足」「リハビリ スタッフとの連携不足」,「保険診療ができない」などが挙げられ,運動療法を実施できている施設はリンパ浮腫外来にかかわるリハビリスタッフが多いという特徴を認めた。今後リンパ浮腫外来で運動療法を実施するために は,専門的な知識をもったリハビリスタッフを育成,増員が必要と考えられた。
石井 瞬, 夏迫 歩美, 福島 卓矢, 他. 全国がん診療連携拠点病院でのリンパ浮腫外来における運動療法の実態調査. 2021 年 48 巻 3 号 p. 330-336
なんとかリンパ浮腫外来でも運動療法を実施する病院を増やしていきたいところですね。
ポイントは、リンパ浮腫に詳しいリハビリスタッフが増えて、連携を取りながら運動療法を実施できるようになるシステム作りでしょうね。
そんな病院がどんどん増えてくれれば、リンパ浮腫患者さんはそこで積極的に運動するようにしましょう。
ただ、現時点ではそのような病院は少数ですので、運動療法は自分で行うように頑張ってください。
リンパ浮腫外来のマッサージだけで満足してしまわないように注意してくださいね。
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・全国のがん診療連携拠点病院402施設のリンパ浮腫外来を行っている施設と個人にアンケート調査を行った。
・リンパ浮腫外来で運動療法を実施しているのは少数であった。
・リハビリスタッフが関わっていると、運動療法の実施率が高くなるようである。
・マンパワー不足が問題となっているので、リンパ浮腫の知識があるリハビリスタッフの育成が大事である。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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