今回は、アンドロゲン除去療法を受けている前立腺がん患者さんの心血管機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介します。
前回は、アロマターゼ阻害剤療法を受けている乳がんの閉経後の女性の血管内皮機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介しました。
高強度のインターバルトレーニングとレジスタンストレーニングを実施することで運動機能の改善は認めましたが、血管内皮機能の改善は認めなかったという結果でしたね。
それでも、高強度の運動は運動機能を改善させ、運動機能が高いことは心疾患のリスクを下げるので、運動は行った方がいいという結論でした。
乳がんだけでなく、前立腺がんもホルモン療法を行うがん種です。
前立腺がん患者さんに対するアンドロゲン除去療法という治療は、乳がん患者さんのホルモン療法と同様に、骨密度低下や心血管機能低下などの問題を引き起こすことが知られています。
こちらに対しても、手術や薬物のみでなく、運動を行うことが心血管機能の治療になるのではないか期待されます。
そこで今回は、アンドロゲン除去療法を受けている前立腺がん患者さんの心血管機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介します。
・10-18週間の運動療法によって、収縮時および拡張期血圧や運動機能の改善を認めた。
・特に、ベースラインの状態が悪いほど、運動療法の効果が認められた。
・可能であれば、治療中の前立腺がん患者に対して、機能および幸福感を高めるための補助療法として運動を提供すべきである。
・一方的に指示される運動でなく、医療者と一緒に運動の形式や内容を調整できるシステムがより効果的かもしれない。
今回紹介する研究の概要
今回紹介する論文は、アアンドロゲン除去療法を受けている前立腺がん患者さんの心血管機能に対する運動トレーニングの効果をを検討した内容になっています。
「Schumacher O, Galvão DA, Taaffe DR, et al. Nationwide Industry-Led Community Exercise Program for Men With Locally Advanced, Relapsed, or Metastatic Prostate Cancer on Androgen-Deprivation Therapy. JCO Oncol Pract. 2022 May 18:OP2100745. doi: 10.1200/OP.21.00745. Online ahead of print.」、2022年に発行された最新の論文です。
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Prostate cancer patients with locally advanced, relapsed, or metastatic disease receiving leuprorelin acetate were enrolled into the program by invitation from their attending specialist across different sites in Australia. Group allocation is based on patient preference (in consultation with their health care provider), presence of comorbidities, and individual fitness levels. Patients were excluded from the supervised and home-based exercise programs and allocated to the support only program (ie, no formal exercise) if they had any musculoskeletal, cardiovascular, or neurologic disorders that prevented them from exercising, were unable to walk 400 m, or could not perform upper and lower limb exercises (eg, because of symptomatic bone metastases or extensive metastatic disease).
Schumacher O, Galvão DA, Taaffe DR, et al. Nationwide Industry-Led Community Exercise Program for Men With Locally Advanced, Relapsed, or Metastatic Prostate Cancer on Androgen-Deprivation Therapy. JCO Oncol Pract. 2022 May 18:OP2100745. doi: 10.1200/OP.21.00745. Online ahead of print.
対象は、リュープロレリン酢酸塩の投与を受けている局所進行性、再発性、転移性の前立腺がん患者さん760名です。
Man Plan プログラムという、酢酸リュープロレリンによる治療を受けている前立腺がんの男性のためのサポートプログラムを使用しています。
これのプランは、(1)監視付きグループ運動、(2)在宅運動、(3)それらのサポートプログラムの3つの形態の運動が含まれ、患者の希望(医療従事者と相談)、合併症の有無、個人のフィットネスレベルに基づいて、それぞれの形態を選択しています
運動ができない筋骨格系、心血管系、神経系の障害がある場合、400m歩けない場合、上肢・下肢の運動ができない場合(例:症候性骨転移や広範な転移性疾患のため)は、監視下および在宅での運動プログラムから除外し、サポートのみのプログラム(つまり正式な運動なし)に割り当てられています。
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The community-based exercise program consisted of one to two exercise sessions each week supervised by an accredited exercise physiologist (AEP) and was conducted over a total of 10-18 weeks, depending on participant attendance (16 exercise sessions in total plus initial and final assessment). The exercise prescription was modeled after a previously conducted exercise trial in men with prostate cancer receiving ADT.21 In brief, progressive resistance training was performed at 6- to 12-repetition maximum and two-four sets per exercise for upper-body and lower-body muscle groups. Resistance training was supplemented with up to 20 minutes of aerobic exercise at 65%-80% of maximum heart rate or a perceived exertion of 11-13 (6-to-20-point Borg scale).
Schumacher O, Galvão DA, Taaffe DR, et al. Nationwide Industry-Led Community Exercise Program for Men With Locally Advanced, Relapsed, or Metastatic Prostate Cancer on Androgen-Deprivation Therapy. JCO Oncol Pract. 2022 May 18:OP2100745. doi: 10.1200/OP.21.00745. Online ahead of print.
地域ベースの運動プログラムは、毎週1~2回の運動セッションで構成され、参加者の出席状況に応じて合計10~18週間にわたって実施されました(合計16回の運動セッションと初回および最終評価)。
運動処方は、上半身および下半身の筋肉群について、1回の運動につき6~12回の反復最大値と2~4セットで段階的なレジスタンストレーニングが実施されました。
レジスタンストレーニングに加え、最大心拍数の65%~80%または自覚的疲労度11~13(6~20ポイントのBorgスケール)で最大20分間の有酸素運動が実施されました。
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Schumacher O, Galvão DA, Taaffe DR, et al. Nationwide Industry-Led Community Exercise Program for Men With Locally Advanced, Relapsed, or Metastatic Prostate Cancer on Androgen-Deprivation Therapy. JCO Oncol Pract. 2022 May 18:OP2100745. doi: 10.1200/OP.21.00745. Online ahead of print.
こちらの図はベースラインと介入後の結果です。
運動プログラム後、体重(MD = -0.1 kg; 95% CI [-0.3 to 0.1]; P = .331)または肥満指数(BMI; MD = -0.03 kg/m2; 95% CI [-0.09 to 0.03]; P = .327)のいずれも有意な変化はありませんでした。
しかし、ウエスト周囲径(MD = -0.9 cm; 95% CI [-1.2 to -0.5]; P < .001)ではわずかではあるものの有意な減少がみられました。
安静時心拍数には有意な変化はありませんでしたが(MD = 0.4 bpm; 95% CI [-0.3 to 1.1]; P = .218)、収縮期および拡張期血圧は、運動介入後にそれぞれ -3.7 mmHg(95% CI [-4.8 to -2.6]; P < .001) および -1.7 mmHg(95% CI [-2.3 to -1.0]; P < .001) 減少していました。
収縮期および拡張期血圧と安静時心拍数の減少は、ベースライン値が高い参加者で有意に大きく、参加者は年齢が上がるにつれて拡張期血圧の減少が有意に大きくなっていました。
身体機能は運動介入により、すべてのアウトカム指標で有意な改善(P < 0.001)が認められました。
初期の400m歩行時間が遅い参加者は、有意に大きなパフォーマンスの改善を示しました。
ぴったりのインストラクターを探せる【オンラインエクササイズ LOOOM】結論
The Man Plan program—a treatment-integrated, community-based, and industry-led exercise and support program for men with prostate cancer receiving leuprorelin acetate—is a feasible, effective, and enjoyable intervention to prevent weight gain, reduce blood pressure, and improve physical function. Moreover, patients presenting with the poorest outcome measures at baseline benefited the most from participating in the structured and supervised exercise sessions. Consequently, where possible, exercise as an adjunct therapy for patients with prostate cancer undergoing treatment should be offered to enhance function and well-being.
Schumacher O, Galvão DA, Taaffe DR, et al. Nationwide Industry-Led Community Exercise Program for Men With Locally Advanced, Relapsed, or Metastatic Prostate Cancer on Androgen-Deprivation Therapy. JCO Oncol Pract. 2022 May 18:OP2100745. doi: 10.1200/OP.21.00745. Online ahead of print.
Man Plan プログラムは、リュープロレリン酢酸塩の投与を受けている前立腺癌男性に対する、治療統合型、地域密着型、業界主導型の運動および支援プログラムであり、体重増加を防ぎ、血圧を下げ、身体機能を改善する、実行可能で、有効で、楽しい介入であると考えられます。
さらに、ベースライン時に最も悪いアウトカム指標を示した患者は、構造化され監督された運動セッションに参加することで最も恩恵を受けました。
したがって、可能であれば、治療中の前立腺がん患者に対して、機能および幸福感を高めるための補助療法として運動を提供すべきです。
ホルモン療法を受けている前立腺がん患者さんに対する運動療法は、運動機能や心血管機能改善が期待できるという結果でしたね。
心血管機能といっても、今回は血圧だけだったので、心血管合併症の発生率や前回のような血管内皮機能などへの効果が認められるといいですね。
今回の介入は、患者さんの希望や状態に応じて、運動の介入形式を選択できるというプログラムでした。
この方法は患者さんにとっては有意義だと思います。
一方的に指示される運動でなく、医療者と一緒に運動の形式や内容を調整できるシステムづくりが必要ですね。
ぴったりのインストラクターを探せる【オンラインエクササイズ LOOOM】・10-18週間の運動療法によって、収縮時および拡張期血圧や運動機能の改善を認めた。
・特に、ベースラインの状態が悪いほど、運動療法の効果が認められた。
・可能であれば、治療中の前立腺がん患者に対して、機能および幸福感を高めるための補助療法として運動を提供すべきである。
・一方的に指示される運動でなく、医療者と一緒に運動の形式や内容を調整できるシステムがより効果的かもしれない。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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