抗がん剤中の血液がん患者の入院中の低強度運動の効果は?

がん患者さんは体調不良等もあり、推奨はされていてもなかなか中~高強度の運動は実施できないことが多いですよね。

前回の記事では、自覚的運動強度で設定した筋力トレーニングを、体調に合わせて修正しながら行うことでも効果があるのではないかという論文を紹介しました。

自宅でのエクササイズになりますが、自分で負荷を修正しながら行うと、しっかり継続できていましたね。

監視下でなくても、これだけ継続できるのは素晴らしいと思います。

最近では、がんの治療は外来が主体となってきていますが、まだまだ入院して化学療法や放射線療法を行うことも少なくないです。

特に、初回化学療法の1コース目なんかは、有害事象に注意するために、入院して観察することが多いですね。

入院して、治療を行うだけでも、体力や筋力ってすぐに落ちてしまうので、入院中のがん患者さんに対してリハビリテーションを行うことを重要になってきます。

ただし、先ほども話したようになかなか負荷の高いリハビリテーションは実施しにくく、軽めの運動になることが多い印象ですね。

そこで今回は、入院して化学療法を実施しているがん患者さんに対して、低強度のリハビリテーションを実施した効果を検証している論文を紹介します。

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今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、入院して化学療法を実施している造血器腫瘍患者に対して、低強度の運動療法を行い、運動機能,倦怠感,精神症状に対する効果を検証している内容です。

「中野 治郎, 石井 瞬, 福島 卓矢, 他 . 化学療法実施中に低強度の運動療法を行った造血器悪性腫瘍患者の運動機能,倦怠感,精神症状の変化 . 2017. Palliative Care Research: 12; 277-284」2017年に発行された論文です。

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対象

期間中に保存療法を受けることを目的に長崎大学病院に入院し,リハビリテーションが処方されたがん患者は424名で,この中で低強度の運動療法を適用しリハビリテーション介入時(以下,介入時)と退院時において後述する評価を行った造血器悪性腫瘍患者は120名であった.そして,他臓器に転移が認められた患者,放射線療法または骨髄移植を行った患者,意識レベルが低下している患者(Japan Coma ScaleでI-1以上),Mini-Mental State Examination 23点以下の認知症またはそれに相当するせん妄がある患者,継時的な運動療法の実施が困難であった患者,研究に協力を得られなかった患者,一部の評価が行えなかった患者を除外し,残りの62名(男性32名,女性30名,平均年齢63.2±15.8歳)を今回の解析対象とした.

中野 治郎, 石井 瞬, 福島 卓矢, 他 . 化学療法実施中に低強度の運動療法を行った造血器悪性腫瘍患者の運動機能,倦怠感,精神症状の変化 . 2017. Palliative Care Research: 12; 277-284

最終的な対象は、入院して化学療法を実施した造血器腫瘍患者62名となっています。

平均年齢63.2±15.8歳となっているので、高齢がん患者よりは若干若い印象ですね。

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方法

運動療法

今回の対象者に実施された運動療法は歩行,階段昇降,軽度の筋力トレーニングを含む低強度の運動療法である.1回の実施時間は20分,頻度は週5回,運動強度は修正ボルグスケールの「4,ややきつい」を目安とし,かつカルボーネン法により算出した上限心拍数の40%以下とした.プログラム内容は,最大限の歩行または階段昇降を1~2回,筋力トレーニングでは0~2 kg重錘負荷での股関節・膝関節・肘関節それぞれの屈伸運動10~20回を1セットとして1~2セット,起立動作またはつま先立ち5~20回を1セットとして1~2セット,スクワット5回を1セットとして1~2セット,低負荷でのエルゴメーターを5~10分とし,患者の運動機能と身体状況に応じて組み合わせと回数を調整した.

中野 治郎, 石井 瞬, 福島 卓矢, 他 . 化学療法実施中に低強度の運動療法を行った造血器悪性腫瘍患者の運動機能,倦怠感,精神症状の変化 . 2017. Palliative Care Research: 12; 277-284

入院中のリハビリテーションとして、修正ボルグスケールの「4,ややきつい」を目安に、カルボーネン法により算出した上限心拍数の40%以下の運動強度で、20分間の運動を週5回実施しています。

修正ボルグスケールやカルボーネン法というのは運動強度の評価の一つです。詳しく知りたい方はコチラ。

自覚症状だけでいえば中等度くらいの運動強度でしょうけど、心拍数からの評価では40%は低強度くらいに分類されます。

運動内容も軽い負荷での運動で、回数・セット数も比較的少ないようですね。

ただし、入院中して化学療法中のがん患者さんは、倦怠感などの体調不良が強い方も多いですので、これくらいの運動でも結構きついことも多いです。

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評価項目

  • 握力
  • 膝伸展筋力
  • 歩行速度
  • ADL能力(日常生活動作能力)
  • 全身状態:Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)の Performance Status(PS)
  • 倦怠感:Cancer Fatigue Scale(CFS)
  • 不安・抑うつ:Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)
  • 痛み:Numerical Rating Scale(NRS)

ADLとはActivity Daily Livingの略で、日常生活がどの程度自立しているかの評価です。点数が高いほど、日常生活が自立、つまり他人の手を借りなくても大丈夫という意味になります。

Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)の Performance Status(PS)というのは、0~4点の5段階で全身状態を評価する指標です。簡単に言うと0だと問題なしで、点数が高くなるにつれて日中に動けなかったりベッドに寝ていることが多くなってきて、4だと終日寝たきりになっているような感じです。がん患者さんの全身状態の簡便な評価としてよく用いられますね。

倦怠感は体のだるさという身体症状、不安・抑うつというのは精神症状の一つですね。どちらも質問紙に自己記入してもらう形の評価で、点数が高くなるほど症状が強いということになります。

痛みは、痛みの強さを0-10の11段階で評価しています。0が痛くなくて、点数が上がるにつれて徐々に痛みが強くなり、10が「今まで体験した最大の痛み」とか「これ以上耐えきれない痛み」とかで表現します。

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解析方法

上記の評価をリハビリテーション開始時と退院時に行い、その評価結果の推移を比較しております。

握力や歩行速度などは、これくらい数値がよくなれば改善したって言っていいよというMDC(最小可検変化量)という値があるので、その数値以上改善した場合は「改善」、その数値以上低下した場合は「悪化」、それ以外を「維持」としています。

倦怠感と不安・抑うつは、点数が1点でも増加すれば「悪化」、減少すれば「改善」としています。

さらに、倦怠感と不安・抑うつの評価は、この点数を超えると倦怠感が強い、不安や抑うつが強いという数値があるので、その数値も使用しています。

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結果

中野 治郎, 石井 瞬, 福島 卓矢, 他 . 化学療法実施中に低強度の運動療法を行った造血器悪性腫瘍患者の運動機能,倦怠感,精神症状の変化 . 2017. Palliative Care Research: 12; 277-284

こちらの表は運動機能の推移です。

評価の平均値の変化を見ると、歩行速度、mFIMという日常生活動作能力、PSという全身状態が、リハビリテーション介入時よりも退院時に改善しています。

改善したか、悪化したかで見ると、膝伸展筋力は悪化した患者さんが40%くらいいますね。

それ以外の項目では、悪化した患者さんは10%程度のようです。

歩行速度やmFIM、PSは改善した患者さんが40%くらいという結果になっています。

中野 治郎, 石井 瞬, 福島 卓矢, 他 . 化学療法実施中に低強度の運動療法を行った造血器悪性腫瘍患者の運動機能,倦怠感,精神症状の変化 . 2017. Palliative Care Research: 12; 277-284

こちらの表は、身体症状、精神症状の推移になります。

評価の平均値の変化を見ると、女性だけは倦怠感、不安、抑うつが、リハビリテーション介入時よりも退院時に改善しています。

改善したか、悪化したかで見ると、悪化した患者さんが30%とか50%いる項目もあるので、一見悪くなっているような印象です。

しかし、カットオフ値以上の割合でみると、倦怠感も不安・抑うつも減少しています。

つまり、点数が多少悪くなる患者さんが多くても、問題になるほど症状が強い患者さんの割合はそんなにいないってことですね。

数値だけ見ててもなかなかわからないことも多いですので、表の結果を見るときは注意してくださいね。

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結論

本研究の結果,化学療法実施中に低強度の運動療法を適用した造血器悪性腫瘍患者では,9割以上において歩行速度,ADL能力,全身状態が維持・改善されていた.また,女性においては倦怠感の改善が認められた.ただし,今回は対照群が設定できていないため,上記の成績が低強度の運動療法による効果とは言い切れない.また,倦怠感や不安,抑うつの性差に関しては不明な点が残された.今後はデータをさらに蓄積し,詳細な解析を実施するとともに,多重解析等を利用して低強度の運動療法の効果を明らかにしていきたい.

中野 治郎, 石井 瞬, 福島 卓矢, 他 . 化学療法実施中に低強度の運動療法を行った造血器悪性腫瘍患者の運動機能,倦怠感,精神症状の変化 . 2017. Palliative Care Research: 12; 277-284

今回の研究では、化学療法で入院中の造血器腫瘍患者に対して、低強度の運動は歩行能力、日常生活動作能力、全身状態に対して効果がある可能性があるという結果でした。

女性限定でいえば、倦怠感や不安・抑うつにも効果があるのではないかということでした。

性別の違いに関しては、なぜかはわからないようですが、がん患者さんに限らずとも女性の方が倦怠感や不安・抑うつが改善しやすいことは報告されているようです(Hunt-Shanks T, Blanchard C, Reid RD. Gender differences in cardiac patients: a longitudinal investigation of exercise, autonomic anxiety, negative affect and depression. Psychol Health Med 2009; 14: 375-85.)。

いずれにしろ、低強度の運動で効果がありそうというのは非常にいい結果ですね。

ガイドラインなんかでは中等度の運動がよく推奨されていますが、なかなか入院中の患者さんはそんな負荷では運動できないことが多いですから。

入院するだけでも活動量は落ちてしまいますので、起立練習やウォーキングくらいからでもいいので、弱らないようにしたほうがいいですね

ただし、今回はリハビリテーション介入前後で比較しているだけであって、リハビリを実施していない群が設定されていません。

リハビリをした群、していない群に分けて、リハビリした群が改善したという結果が一番いいのですが、今回の研究結果はそういうわけではありません。

いろいろな項目が改善した理由が、リハビリだけではない可能性があることには注意が必要です。

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まとめ
・化学療法で入院中の造血器腫瘍患者に対して、低強度の運動は歩行能力、日常生活動作能力、全身状態に対して効果がある可能性があった

・女性に関しては、倦怠感や不安・抑うつにも効果がある可能性があった。

・ランダム化比較試験ではないため、改善した理由がリハビリだけでない可能性があるので、結果の解釈には注意が必要である。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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