高強度の運動はホルモン治療中の乳がん患者の血管機能を改善させるか?

今回は、アロマターゼ阻害剤療法を受けている乳がんの閉経後の女性の血管内皮機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介します。

がん患者さんに対する運動は、運動機能やQOL改善に効果があり、推奨されていることは何度も紹介しています。

がんサバイバーに効果のある運動強度を論文から解説

2022年4月30日

一方で、抗がん剤は血管内皮機能障害を引き起こし、心臓や血管に問題を生じることが問題視されています。

アロマターゼ阻害剤療というホルモン療法を受けている乳がん患者さんも、血管内皮機能障害を引き起こしやすいと言われています。

運動機能だけでなく、血管内皮機能にも効果が期待できるのではないかと言われているのが「運動」です。

手術や薬物のみでなく、運動を行うことが血管内皮機能の治療になるのではないかということです。

そこで今回は、アロマターゼ阻害剤療法を受けている乳がんの閉経後の女性の血管内皮機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介します。

まとめ
・アロマターゼ阻害剤療法を受けている乳がんの閉経後の女性の血管内皮機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介。

・高強度のインターバルトレーニングとレジスタンストレーニングを実施することで運動機能の改善を認めた。

・しかし、血管内皮機能の改善は有意差は認めなかった。

・今回は、はっきりした効果は認めませんでしたが、高強度の運動は運動機能を改善させ、運動機能が高いことは心疾患のリスクを下げるので、運動は行った方がいいと思います!

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今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、アロマターゼ阻害剤療法を受けている乳がんの閉経後の女性の血管内皮機能に対する運動トレーニングの効果を検討した内容になっています。

「Barbara M, Bernhard R, Richard G, et al. The effect of exercise training on endothelial function in postmenopausal women with breast cancer under aromatase inhibitor therapy. Cancer Med. 2022 May 18. doi: 10.1002/cam4.4833. Online ahead of print.」、2022年に発行された最新の論文です。

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対象

In this randomized controlled trial, we evaluated the effectiveness of 6 months of supervised ET and further 6 months without ET in breast cancer patients on AI therapy.15 Women with other relevant chronic diseases or an Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance status ≥ III could not participate in this trial. Eligible patients (n = 32, 60.9 ± 7.4 years) were randomly assigned 1:1 to ET (ET, n = 16) or usual care (UC, (n = 16). All subjects underwent counseling on healthy lifestyle changes including nutrition and exercise training.

Barbara M, Bernhard R, Richard G, et al. The effect of exercise training on endothelial function in postmenopausal women with breast cancer under aromatase inhibitor therapy. Cancer Med. 2022 May 18. doi: 10.1002/cam4.4833. Online ahead of print.

この無作為化比較試験では、アロマターゼ阻害剤(AI)治療中の乳がん患者を対象に、6ヶ月間の監視下での運動トレーニング(ET)と、さらに6ヶ月間のETなしの有効性を評価しています。

他の関連慢性疾患を持つ女性やEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のパフォーマンスステータス≥ IIIの女性は除外しています。

適格患者(n = 32、60.9 ± 7.4歳)は、ET(n = 16)または通常ケア(UC、n = 16)に1対1で無作為に割り付けられました。

方法

Barbara M, Bernhard R, Richard G, et al. The effect of exercise training on endothelial function in postmenopausal women with breast cancer under aromatase inhibitor therapy. Cancer Med. 2022 May 18. doi: 10.1002/cam4.4833. Online ahead of print.

ETに無作為に割り付けられた患者は、高強度インターバルトレーニング(HIIT)とレジスタンストレーニング(RT)から成る、監督下で施設ベースのトレーニングプログラムに6ヶ月間参加しています。

トレーニングは午前中に行われ、HIITから始めてRTを行っています。

HIITプロトコルは、個人の最大HR(HRmax)の85~95%での5×4分のインターバルと65~75%HRmaxでの3分間のアクティブリカバリー、50~60%HRmaxでの5分間のウォームアップとクールダウンからなる(図2)。

合計45分間の高強度のインターバルトレーニングです。

HIITの後、患者は30分間のRTを行っています。

アームプルダウン,アームディップ,バタフライ,バタフライリバース,体幹伸展,体幹屈曲,脚伸展,レッグカール.各セッションにおいて、最初のトレーニングセッションでテストした10回反復最大負荷の80%に相当する作業負荷で、12回反復の2セットを実施しています。

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結果

Barbara M, Bernhard R, Richard G, et al. The effect of exercise training on endothelial function in postmenopausal women with breast cancer under aromatase inhibitor therapy. Cancer Med. 2022 May 18. doi: 10.1002/cam4.4833. Online ahead of print.

こちらの図は運動機能の改善についての結果です。

監視下の運動トレーニングの6か月の介入フェーズの後、最大エルゴメトリー中の運動能力はETで増加しました(107±30〜131±37 W、p  <0.001)が、UCでは変化は発生しませんでした(115±27〜117±27 W 、p  = 0.590)。

監督された運動トレーニングなしの研究の後半では、ETでの最大エルゴメトリー中の運動能力の低下(131±37〜119±34 W、p  <0.001)が生じましたが、UCでは変化はありませんでした(117±27〜119)。 ±28W、p  = 0.839)(図 3A)。

両方のグループ間の変化を比較すると、UC(1.1±8.2 W; p)よりもET(24.1±11.5 W)の有意に高い増加が示されました。 <0.001)。

Barbara M, Bernhard R, Richard G, et al. The effect of exercise training on endothelial function in postmenopausal women with breast cancer under aromatase inhibitor therapy. Cancer Med. 2022 May 18. doi: 10.1002/cam4.4833. Online ahead of print.

こちらは血管内皮機能の結果になります。

内皮機能障害のカットオフ値は一般的にRHI1.67とされており、対象者の43.8%(ET n = 7 / UC n = 7)はRHI値がこの閾値以下でした(χ2-test p = 0.157 )。

6ヶ月後、そのうちの50%(ET n = 3 / UC n = 4)はRHI値≥1.67を改善しました(χ2-test p = 0.593)。

6ヶ月の監視下運動トレーニングの介入期後、ETではRHIに変化はなく(1.94 ± 0.5 から 1.84 ± 0.8 RHI、p = 0.393)、UCでも(2.04 ± 0.7 から 2.06 ± 0.8 RHI、p = 0.856)、同様に変化はありませんでした。

両群間の変化を比較すると、両群間に有意差は認められませんでした(ET: -0.10 ± 1.0 RHI, UC 0.02 ± 0.8 RHI; p = 0.323)。

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結論

We report for the first time that in postmenopausal women with breast cancer on AI therapy, 6 months of HIIT and resistance training improve maximal and submaximal exercise capacities, without exerting the otherwise well-known and cardio-protective effects on endothelial function. Further long-term studies are needed to not only concentrate on the effects of AI on the morbidity and mortality of postmenopausal women with breast cancer but should also focus on possible detrimental long-term effects on the cardiovascular system.

Barbara M, Bernhard R, Richard G, et al. The effect of exercise training on endothelial function in postmenopausal women with breast cancer under aromatase inhibitor therapy. Cancer Med. 2022 May 18. doi: 10.1002/cam4.4833. Online ahead of print.

AI治療中の閉経後乳がん女性において、6ヶ月間のHIITとレジスタンストレーニングは、内皮機能に対する心臓保護効果は認めずに、運動能力を改善することを初めて報告する。

閉経後乳癌女性の罹患率および死亡率に対するAIの効果に焦点を当てるだけでなく、心血管系に対する長期的な有害作用の可能性に焦点を当てるために、さらなる長期的研究が必要である。

 

残念ながら、ホルモン治療中の乳がん患者さんに対して、高強度で運動を行っても血管内皮機能の改善は認めなかったようですね。

しかし、心疾患の患者さんに対しては、その効果が認められていますので、症例数を増やして今後の研究が期待されます。

考察にも書いていましたが、高強度の運動は運動機能を改善させ、運動機能が高いことは心疾患のリスクを下げるので、運動は行った方がいいようですよ!

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まとめ
・アロマターゼ阻害剤療法を受けている乳がんの閉経後の女性の血管内皮機能に対する運動トレーニングの効果を検討した論文を紹介。

・高強度のインターバルトレーニングとレジスタンストレーニングを実施することで運動機能の改善を認めた。

・しかし、血管内皮機能の改善は有意差は認めなかった。

・今回は、はっきりした効果は認めませんでしたが、高強度の運動は運動機能を改善させ、運動機能が高いことは心疾患のリスクを下げるので、運動は行った方がいいと思います!

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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