高齢進行がん患者でも、ややきつい筋トレは効果的

前回の記事で、筋トレの運動強度を自覚的運動強度で評価する妥当性について紹介しました。

自覚的運動強度は筋トレの運動強度評価にも使用できる

2021年4月8日

なかなか1RMなどで運動強度の評価が難しいがん患者さんにも、自覚的運動強度は簡便に使用できそうですね。

今回は、自覚的運動強度で運動強度を設定して、高齢進行がん患者さんに在宅での下肢筋力トレーニングを行った論文を紹介します。

まとめ
・高齢進行がん患者に対して、在宅での下肢筋力トレーニングの安全性および忍容性を検証している論文の紹介。

・低強度かつ自分で修正できる運動プログラムであれば、継続率は90%以上であった。

・低強度の運動であっても、2か月間可能な範囲で継続できれば、弱らないようにする効果は期待できるかもしれない。

ジーンズが似合うためには「骨盤」が重要!

今回紹介する研究の概要

今回紹介する論文は、悪液質リスクの高い高齢進行がん患者に対して、在宅での下肢筋力トレーニングの安全性および忍容性を検証している内容です。

「立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381」2018年に発行された論文です。

ジーンズが似合うためには「骨盤」が重要!

対象

対象者の適格基準は,(1)進行期の非小細 胞肺がんまたは膵がん,(2)同意取得時の年齢が満 70 歳以上,(3)一次治療として化学療法が予定されてい る(6 カ月以上前に完遂している術後補助化学療法ま たは化学放射線療法は除く),(4)Eastern Cooperative Oncology Group performance statu(s ECOG PS)が0-1,(5) Barthel index(BI)が 90 点以上,(6)試験期間を通じて支 援が可能な家族または友人が少なくとも一人以上存在 している,とした.心疾患,骨関節疾患,神経疾患な どにより安全な評価または介入が困難と判断される患 者,精神病や精神症状により試験への参加が困難と判 断される患者は除外とした.

立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381

対象は、70歳以上の進行期の非小細胞肺がん、膵がん患者さんで、合計30名となっています。

初回化学療法を実施する方となっていますので、今から化学療法を開始する予定の方です。

「Eastern Cooperative Oncology Group performance statu(s ECOG PS)が0-1」、「 Barthel index(BI)が 90 点以上」というのは、簡単に言うと日常生活はおおむね自立していて、激しい運動まではできないかもしれないけど、家事とか買い物はできてますよ~ってくらいをイメージしてもらえばいいと思います。

治療前で比較的元気な患者さんの印象ですね。

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方法

下肢筋力トレーニング

NEXTAC プログラムにおける下肢筋力トレーニング は,椅子座位での膝関節伸展や屈曲,起立訓練などの 3 または 5 種類のメニューで構成され(付録図 1),重錘 使用の有無などで 3 段階の強度レベルを設定した.各 対象者においては,最初にレベル 2 の運動プログラム を 10回×3 セット実施してもらい,実施後の疲労感を 修正 Borg スケールにて評価を行った.修正 Borg ス ケール 3~5 となるように強度レベルを設定し,10回×3 セットを毎日継続して実施することを基本処方とした (図 1).一方,体調不良時には中断なく継続できるよ う,メニュー数や回数の自己調整法を指導した(修正 処方).修正処方の具体的な方法としては,①:「10 回×3 セットを連続して行う」の基本回数を,「10回×3 セットを 1 日の中で分けて行う」または「10回×1~2 セットに減らして行う」と負荷量を軽減して継続す る,②:①で継続が難しい場合は,運動の種類を減ら して継続する,③:②で継続が難しい場合は運動の実 施頻度を 2~3 日に 1 回に減らして継続する,④:体調 回復時には速やかに基本処方へと戻す,とした.上記 の手順で対象者が自己調整を行えるように指導し,修 正処方の内容がわかるように運動・食事日記(付録図 2)に記載することとした

立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381
立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381

下肢筋力トレーニングの内容については、3~5種類の筋力トレーニングを毎日10回×3セット実施してもらっています。

運動内容は、一般的にリハビリテーションでよく行うような簡単な運動ですね。

私も、がん患者さんのリハビリでは、「立ち上がり運動」、「踵上げ運動」、「股外転運動」をよく行ってもらっています。

やっぱり、脚は体を支えなきゃいけないので、可能であれば立って運動したほうがより効果的な印象ですね。

立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381

運動負荷の設定方法は、まずは上記の運動5種類を10回×3セット実施してもらい、その自覚的運動強度を確認しています。

自覚的運動強度は、修正ボルグスケールという0-10で疲労感を確認する方法です。

最初の運動で、修正ボルグスケール3-5であれば、在宅でもその運動を行ってもらいます。

修正ボルグスケール4が「ややきつい」の運動強度ですので、だいたいそれくらいの運動強度を狙っているわけですね。

上記の運動で「ややきつい」よりもきつくなければ、足首に1kgの重りをつけて運動してもらいます。

「ややきつい」よりもきつければ、「立ち上がり運動」、「踵上げ運動」、「膝伸展運動」の3種類に減らして行ってもらいます。

患者さんの運動耐久性に応じて、運動内容を調整しているというわけです。

しかし、がん患者さんは体調等の問題もあり、毎日同じ運動を行うのも難しいですよね?

この研究では、体調不良等の状況にも考慮して、運動が難しければ自分で調整することも定めてくれています。

具体的には、上記の運動を10回×3セットを毎日行うことを基本として、きつかったら「10回×1-2セット」に減らしてOKです。それも難しければ、運動の種類を減らしてもOKです。さらには、どうしようもなくきつければ運動を2-3日に1回に減らしてもOKです。

ただし、体調が戻ったら、10回×3セットを毎日行うことを基本に戻ってください。

体調に応じて、運動負荷や回数を調整してくれているのは、体調にムラがあるがん患者さんには優しい指導ですね。

これらの運動を、在宅で8週間実施してもらっています。

そして、化学療法前、運動開始から8週後に、(1)骨格筋量(2)6分間歩行距離(3)歩行速度(4)5回立ち上がりテスト(5)握力(6)身体活動量を評価して、結果の推移を比較しています。

結果

立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381

上記の表は、筋力トレーニングをどれくらい継続できたかの結果になっています。

全期間の列のプログラム実施割合の数字を確認してください。

基本処方プログラムは41%と継続率がやや低い印象ですが、修正処方プログラムも41%の患者さんが継続できており、修正した運動でもいいのであれば91%の患者さんが8週間の下肢筋力トレーニングを完遂できています。

2か月間継続して運動を行うって、元気な人でもなかなか難しいですよね。すごい結果だと思います。

立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381

こちらは、化学療法前のベースラインの評価結果がと8週間後のT3でどのように変化したのかを比較したものです。

5回立ち上がりテストが「-0.5」となっていますが、これは5回立ち上がるのにかかった時間が0.5秒減少したことを意味しており、立ち座りが素早くなった結果となっています。

「*」マークがついている結果は、8週間後に明らかに変化したということを意味しており、今回の下肢筋力トレーニングが効果があった可能性があるようです。

他の評価結果には、「*」マークはついていないので、変化がなかったということになります。

それでは、「効果がなかったのか?」ということですが、進行がん患者さんというのは、通常ならば8週間の間に骨格筋量や身体機能は低下すると考えられます(Naito T, Okayama T, Aoyama T, et al. BMC Cancer 2017; 17: 571)ので、効果がなかったというよりは、維持できたという解釈の方がいいかもしれません。

結論

悪液質高リスクの進行がんを有する高齢がん患者に おいて,NEXTAC の下肢筋力トレーニングは高い実施 割合を有し,身体機能や身体活動量の維持に寄与した 可能性が示唆された.

立松 典篤, 岡山 太郎, 辻 哲也, 他 . 悪液質高リスクの高齢進行がん患者に対する在宅ベースの下肢筋力トレーニングプログラムの開発─NEXTAC-ONE試験の運動介入の詳細─ . 2018. Palliative Care Research: 13; 373-381

今回の研究で大変参考になる点は、①低強度で簡便に行いやすい運動を毎日実施した点②体調に応じて、自分で運動内容や負荷を調整できる点ですね。

低強度の運動であれば、高齢進行がん患者さんでも、自分の体調に応じて2か月間継続できるようです。

そして、低強度の運動であっても、体調に応じて2か月間続ければ、少なくとも弱らないようにするための効果は期待できそうです。

無理にきつい運動を頑張らなくても、軽い運動でも継続することが大事みたいです。継続は力なりですね。

まとめ
・高齢進行がん患者に対して、在宅での下肢筋力トレーニングの安全性および忍容性を検証している論文の紹介。

・低強度かつ自分で修正できる運動プログラムであれば、継続率は90%以上であった。

・低強度の運動であっても、2か月間可能な範囲で継続できれば、弱らないようにする効果は期待できるかもしれない。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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