リンパ浮腫患者が注意すべき日常生活の具体的な内容～カナダのガイドラインより抜粋～

前回の記事で、リンパ浮腫患者さんのセルフケア指導に関してガイドラインの記載内容を説明しました。

がんのむくみ、リンパ浮腫に対するセルフケア指導って効果はあるの？

2023年6月16日

ガイドラインで強く推奨されているわけではないですが、やっぱりセルフケア指導って大事だとは思います。

いくら指導されてもすぐに忘れてしまうのが人間ですので、今回は論文に記載されている具体的な日常での対策について紹介します。

今回紹介する論文の概要

今回紹介する論文は、カナダの乳がんのリンパ浮腫に対するガイドラインです。その中から、 日常での対策について記載されている部分を抜粋して紹介します。

「Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer: 11. Lymphedema. ; Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. CMAJ. 2001; 164(2): 191-9.」

2001年に発行されているので少し古い論文になりますね。

スキンケア

Scrupulous skin care should be encouraged. Women should avoid cuts, pin pricks, hangnails, insect bites, contact allergens or irritants, pet scratches and burns to the affected extremity. Whenever possible patients should avoid medical procedures such as vaccination, blood drawing, intravenous access, blood pressure monitoring, acupuncture, venography and lymphangiography in the affected arm

Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer: 11. Lymphedema. ; Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. CMAJ. 2001; 164(2): 191-9

綿密なスキンケアが推奨されています。

具体的には、切り傷、ピン刺し、ささくれ、虫刺され、アレルゲンや刺激物への接触、ペットの引っかき傷、患肢への火傷を避ける必要があると記載されています。

やはり、傷や火傷を避けるように注意は必要ですね。

さらには、可能な限り、手術側のワクチン接種、採血、点滴、血圧測定、鍼治療、静脈造影、リンパ管造影などの医療処置を避ける必要があると記載されています。

ただし、これらは、医療行為ですので、反対側での処置が難しければ、実施するのを考慮しなければならないかもですね。

旅行

Lymphedema may be exacerbated if women use saunas, steam baths or hot tubs, spend time in hot climates or travel. Many patients report worsening of their lymphedema during flight, which suggests that patients who use compression sleeves should probably use them during air travel.

Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer: 11. Lymphedema. ; Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. CMAJ. 2001; 164(2): 191-9

火傷まではしないにしても、日焼けやお風呂に関してはどうでしょうか？

このガイドラインでは、サウナ、スチームバス、または温水浴槽を使用したり、暑い気候で時間を過ごしたり、旅行したりすると、リンパ浮腫が悪化する可能性があると記載されています。

正直、どこまで制限するか難しいところですが、温泉や旅行時は、特に皮膚や浮腫の状態を注意深く観察する必要があるでしょう。

特に、旅行なんかは、いつも以上に動きますので運動負荷としても多くなってしまいます。

多くの患者が飛行中のリンパ浮腫の悪化を報告しており、旅行中にスリーブを使用する必要があることを示唆していると記載されています。

日本のガイドラインでは、飛行機とリンパ浮腫の増悪は関係があるとは言えないという結果になっていますが、やはり注意が必要みたいですね。

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2023年6月11日

運動

Exercise involving the affected arm may be beneficial in controlling lymphedema. Although some clinicians have recommended avoidance of rowing, tennis, golf, skiing, squash, racquetball or any vigorous, repetitive movements against resistance, there is no published evidence to suggest that these activities promote or worsen lymphedema. No exacerbation of existing lymphedema or development of new cases of lymphedema occurred in 20 women with breast cancer who competed in the strenuous sport of dragon boat racing. Some experts have recommended that women with lymphedema wear a compression sleeve during arm exercises.

Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer: 11. Lymphedema. ; Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. CMAJ. 2001; 164(2): 191-9

一般的にリンパ浮腫に対しては運動療法も有効といわれています。

このガイドラインでも、手術側の上肢を含む運動は、リンパ浮腫を制御するのに有益かもしれないと記載されています。

ただし、運動の中でもボート、テニス、ゴルフ、スキー、スカッシュ、ラケットボール、または抵抗に対する激しい反復運動は控えることが推奨されています。

腕に強い負荷がかかる運動はあまり推奨されないということですね。

ただし、これらの運動を実施することで、リンパ浮腫の悪化や新しいリンパ浮腫の発症するかどうかは明らかではないようです。

また、上肢を使用した運動はスリーブを着用することが推奨されています。

やっぱりスリーブを装着していた方が多少の負荷をかけても、排液がスムーズになるんでしょうね。

体重管理

Maintenance of ideal body weight should be encouraged. Obesity is a contributing factor for the development of lymphedema and may limit the effectiveness of compression pumps or sleeves.

Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer: 11. Lymphedema. ; Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. CMAJ. 2001; 164(2): 191-9

以前もお話ししましたが、肥満はリンパ浮腫の原因になるので、体重管理は大事ですね。

このガイドラインには、具体的な体重管理の方法は記載されていませんでしたが、肥満になるとスリーブの効果が減少するかもしれないと記載されています。

感染症

Skin infection, which is often streptococcal, or on rare occasions staphylococcal, should be promptly treated with antibiotics such as a penicillin, a cephalosporin or a macrolide.^{83,84,85,86,87} For recurrent infections, prophylaxis with oral antibiotics or monthly injections of penicillin should be considered.⁸⁷ It may be prudent to provide the patient who has recurrent infections with an emergency home supply of an antistreptococcal antibiotic, to be taken at the first sign of infection. A patient travelling to a remote area should be encouraged to take along a supply of antibiotics.

Harris SR, Hugi MR, Olivotto IA, et al. Clinical practice guidelines for the care and treatment of breast cancer: 11. Lymphedema. ; Steering Committee for Clinical Practice Guidelines for the Care and Treatment of Breast Cancer. CMAJ. 2001; 164(2): 191-9

感染症にも注意が必要ですね。

このガイドラインでも、感染症が疑われる場合には、抗生剤での治療が必要であると記載されています。

特に、遠くに旅行する患者は、抗生剤を持参することが推奨されています。

基本的に、抗生剤は飲みきりなので余ることはないと思いますが、感染症が疑われるときにすぐ使用できるように、自宅や旅行先に準備しておくことがよいでしょうね。

今回は、より具体的なセルフケア指導について記載されているガイドラインを紹介しました。

これらの内容を参考にリンパ浮腫対策をしていきましょう。