前回は、肺がん患者が手術前にリハビリテーションを行った方がいいという、がんのリハビリテーションガイドラインの内容について紹介させていただきました。
ガイドラインの内容というのは、多くの論文の内容を吟味して、それが推奨されるかどうかをまとめています。
多くの論文の内容をまとめて検討してくれているので、読む側としては非常に助かります。
しかし、逆に言えばガイドラインの内容と結果が異なる論文も少なからず存在するはずなので、その内容を個別に見ていく必要も、場合としてあります。
そこで、今回は、肺がん患者の手術前のリハビリテーションの推奨に対して、吟味された論文の一部を紹介します。
・手術前にリハビリを行うことで、術後合併症の減少、入院期間の減少、肋間カテーテル留置期間の減少、持久力の向上、呼吸機能の向上が期待できる。
・倦怠感や呼吸困難、死亡率に関しては、調査している論文が少なく、その効果は不明である。
・どの運動内容がいいかまでは言及できないが、少なくとも有酸素運動は行った方がよさそうである。

今回紹介する研究の概要
今回紹介する論文は、非小細胞肺がん患者の手術前のリハビリテーション効果について検討したメタアナリシスです。
「Cavalheri V, Granger C. Preoperative exercise training for patients with non-small cell lung cancer: Cochrane Database Syst Rev. 2017」2017年に発行された論文です。
肺がんは非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分類されますが、肺がん患者の80%程度が非小細胞肺がんと言われており、比較的早期の場合には手術が適応となります。
今回は、メタアナリシスといって、非小細胞肺がん患者を対象として、手術前のリハビリテーション効果について研究した論文を集めて、その結果をまとめるという統計手法を用いています。
メタアナリシスという統計手法は、論文の中では最も質が高い根拠として位置づけられています。
特に、今回紹介する論文は、コクランライブラリーといって、世界的に有名なデータベースからの論文ですので、より質が高いものと思われます。
ちなみに、ガイドラインでは、メタアナリシスも含めた多くの論文内容を吟味して、効果を検証しております。少しややこしいですね・・・。
対象と方法
非小細胞肺がんに対する肺切除術を行う予定の患者を対象とした論文を集めています。手術方法は関係なく、開胸術も胸腔鏡(傷口が小さい手術)も集めているようです。
ランダム化比較試験といって、手術前にリハビリテーションを行う群と行わない群を作って、その2つを比較するという質の高い論文のみを集めています。
リハビリテーションの内容は、有酸素運動や抵抗運動、呼吸筋トレーニングなどを組み合わせたもので、手術前に最低でも1週間以上は実施している研究を集めています。
そして、以下の内容についてリハビリテーション実施群と非実施群で比較検討しています。
- 術後合併症(肺炎など)
- 手術後に肋間カテーテル(肺から漏れてくる空気や水を抜く管)を必要とした日数
- 入院期間
- 呼吸困難(息苦しさ)
- 倦怠感(だるさ)
- 持久力
- 呼吸機能
- 死亡率

結果
論文検索サイトで432の論文が条件に該当しました。その内容を吟味して、不適当な論文を除外して、最終的に5つの論文が調査対象となっております。
Cavalheri V, Granger C. Preoperative exercise training for patients with non-small cell lung cancer: Cochrane Database Syst Rev. 2017
こちらの図は術後合併症のリスクを表しています。メタアナリシスで使用されるフォレストプロットという結果になります。
細かい内容は難しいので、右の横棒とひし形だけに注目してください。
ひとつひとつの横棒は、ひとつひとつの論文の結果を表しています。横棒が真ん中の「1」の縦線より左に寄るほど術前リハビリテーションを行うと術後合併症が少ない、右に寄るほど術前リハビリテーションを行うと術後合併症が多いという結果になります。
そして、下のひし形が、それぞれの論文の結果を統合した結果となります。つまり、このひし形が左に寄るほど術前リハビリテーションを行うと術後合併症が少ない、右に寄るほど術前リハビリテーションを行うと術後合併症が多いという結果になります。
術前リハビリテーションを行うことが、何かしらの影響を及ぼすという結果は、ひし形が左か右に寄った場合だけです。ひし形が真ん中の「1」の縦線に重なる場合には、術前リハビリテーションを行うことは、行わないことと比較して変化はないという結果になります。
今回の結果では、4つの論文の横棒が左に寄っており、ひし形も左に寄っているので、術前リハビリテーションを行うと術後合併症を減少させるという結果になります。
具体的には、術前リハビリテーションが術後肺合併症を発症するリスクを67%減少させるようです。
Cavalheri V, Granger C. Preoperative exercise training for patients with non-small cell lung cancer: Cochrane Database Syst Rev. 2017
こちらの図は手術後に肋間カテーテルを必要とした日数を表しています。
2つの論文の横棒が左に寄っており、ひし形も左に寄っているので、術前リハビリテーションを行うと手術後に肋間カテーテルを必要とした日数を減少させるという結果になります。
肋間カテーテルを必要とした日数が4.3日 vs 8.8日、4.5日 vs 7.4日と、術前リハビリテーションを行う方が3日ほど短くなるようですね。
Cavalheri V, Granger C. Preoperative exercise training for patients with non-small cell lung cancer: Cochrane Database Syst Rev. 2017
こちらの図は入院日数を表しています。
4つの論文の横棒が左に寄っており、ひし形も左に寄っているので、術前リハビリテーションを行うと入院日数を減少させるという結果になります。
術前リハビリテーションを行う方が4日ほど短くなるようですね。
Cavalheri V, Granger C. Preoperative exercise training for patients with non-small cell lung cancer: Cochrane Database Syst Rev. 2017
こちらの図は持久力を表しています。ちなみに、呼吸困難と倦怠感に関しては、調査している論文が見つからなかったようです。
2つの論文の横棒が右に寄っており、ひし形も右に寄っているので、術前リハビリテーションを行うと持久力を向上させるという結果になります。
術前リハビリテーションを行う方が6分間に歩ける距離が伸びたようです。
Cavalheri V, Granger C. Preoperative exercise training for patients with non-small cell lung cancer: Cochrane Database Syst Rev. 2017
こちらの図は呼吸機能を表しています。呼吸機能の中でも、努力性肺活量といって、一生懸命息を吸った状態から最大限息を吐いた状態までの、息を吐けた量を調査しています。
2つの論文の横棒が右に寄っており、ひし形も右に寄っているので、術前リハビリテーションを行うと呼吸機能を向上させるという結果になります。
ちなみに、術前リハビリテーションを行って、術後の死亡率を検討した研究は1つだけあったようですが、詳細は記載されていなかったようです。
ひざの痛みを徹底研究して生まれた家庭用電気治療器
考察
今回の研究で、非小細胞肺がん患者の術前リハビリテーションは、術後肺合併症を67%減少させ、肋間カテーテルを必要とした日数を3日減少させ、入院期間を4日減少させていました。
さらに、6分間に歩ける距離が延び、努力性肺活量が増大するようです。
手術前からリハビリテーションを行っていた方が、早く動けるようになるため、合併症が少なく、全身的な回復が早く、早期退院ができるという流れでしょうね。
運動内容は、すべての論文に有酸素運動は含まれていたようですが、それに抵抗運動や呼吸筋トレーニングを追加するかの条件は異なっていたようなので、どのような運動を行った方がいいかまでは言及できていません。
少なくとも、ウォーキングや自転車こぎなどの有酸素運動は行っておいた方がよさそうですね。
ひざの痛みを徹底研究して生まれた家庭用電気治療器
・手術前にリハビリを行うことで、術後合併症の減少、入院期間の減少、肋間カテーテル留置期間の減少、持久力の向上、呼吸機能の向上が期待できる。
・倦怠感や呼吸困難、死亡率に関しては、調査している論文が少なく、その効果は不明である。
・どの運動内容がいいかまでは言及できないが、少なくとも有酸素運動は行った方がよさそうである。
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。
しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。
記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。
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