がんサバイバーに推奨される運動量は?ガイドラインを解説!

がんになると体も心も弱って、運動をするどころじゃないと言う人も多いと思います。

そして、こんなに体がきついのに、運動なんかしたら負荷が強すぎるんじゃないかと不安にもなってきますよね。

今回は、海外の診療ガイドラインでは、がんサバイバーに対する運動がどのように記載されているのかを紹介します。

がんサバイバーという言葉がよくわからない方はコチラ

クエッション

がんサバイバーって何?「がん患者」や「生存者」とは違うの?

2021年2月27日
この記事の要約
・2010年のアメリカスポーツ医学会の「がんサバイバーのための運動ガイドライン」には、運動の安全性と効果が記載されている。

・がんサバイバーの運動は、リスク管理は必要だが安全に行える。

・乳がん、前立腺がん、血液がんサバイバーに対して、有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチを行うことは効果が期待できる。

・体がきつくて運動ができない場合でも、可能な範囲で動くことが望ましい。

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診療ガイドラインって何?

診療ガイドラインとは、科学的根拠に基づいて最適と思われる治療法を提示する文書のことです。

つまり、この病気に対しては、このような治療が効果があるみたいですよってことを記載しているものです。

医療者や患者さんが、治療方針を決める重要な判断材料ですね。

医療の分野では数多くの診療ガイドラインがあります。

がんの診療ガイドラインも、がん種ごとにありますし、がん以外の病気や症状に対して数多くの診療ガイドラインが存在します。

公益財団法人 日本医療機能評価機構という団体が管理している、「Mindsガイドラインライブラリ」には、様々な診療ガイドラインがまとめられています。

医療者だけでなく、一般向けにまとめられているガイドラインもありますので、興味がある方は確認してみるのもいいですね。

多くのガイドラインが、なんと無料で見れますよ~。

自分の病気の治療方針が、どのような根拠のもとに考えられているか、参考になると思いますよ。

がんサバイバーのためのガイドライン

がん種ごとの診療ガイドライン以外にも、リハビリテーションに特化したガイドラインも存在します。

がんサバイバーの運動や生活について記載されているガイドラインは少ないのですが、海外にいくつかありますので、今回はその一部を紹介します。

今回紹介するのは2010年にアメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine: ASCM)が発表した「がんサバイバーのための運動ガイドライン」です。

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安全に運動できるのか?

Although there are specific risks associated with cancer treatments that need to be considered when survivors exercise, there seems to be consistent evidence that exercise is safe during and after cancer treatment.

引用:Schmitz KH, Courneya KS, et al: American College of Sports Medicine roundtable on exercise guidelines for cancer survivors. Med Sci Sports Exerc. 2010 Jul;42(7):1409-26

がん治療中・後の運動を実施する際には特別のリスク管理を要するが,運動の実施は安全である。」と記載されています。

がんの治療中は、様々な症状が出現することがありますので、リスク管理に注意をしないといけません。

抗がん剤治療後は、貧血でフラフラするから負荷を軽めにしないといけないかもしれないですし、免疫が落ちるから感染しないようにジムでの運動は避けた方がいい場合もあります。

しかし、そのような知識を持って、リスク管理をしながら運動を行うことは安全であると記載されています。

でも、適切なリスク管理って・・・・、医療者じゃないと難しいですよね・・・。

運動時の注意点については、担当の医師や医療従事者に確認するようにしておきましょう。

運動することでリンパ浮腫がひどくならないの?

乳がんの手術後の方なんかは、運動しろっていっても、「運動しすぎるとリンパ浮腫がひどくなるんじゃないの?」って心配になりますよね。

確かに、負荷をかけすぎるのはリンパ浮腫がひどくなるリスクがありますが、一方で動かなさすぎてもリンパ浮腫のリスクになります。

難しいところですよね・・・。

リンパ浮腫に関しては、こんなことが書かれてあります。

Resistance training can be performed safely by breast cancer survivors with and at risk for lymphedema.

引用:Schmitz KH, Courneya KS, et al: American College of Sports Medicine roundtable on exercise guidelines for cancer survivors. Med Sci Sports Exerc. 2010 Jul;42(7):1409-26

リンパ浮腫があったり、リンパ浮腫のリスクがある乳がんサバイバーは、レジスタンストレーニングを安全に実施できる。」と記載されています。

リンパ浮腫のリスクがある乳がんサバイバーっていうのは、乳がんの手術や放射線療法を行った方が中心となります。

つまり、リンパ浮腫がすでに発症してたり、手術や放射線療法後でリンパ浮腫になる可能性があるサバイバーでも、運動は安全に実施できるということです。

残念ながら下枝のリンパ浮腫については何も記載されていません。

乳がんサバイバーも、安全と言われはしても、運動後にむくみがひどくなっていないかなど確認しながら、適度な運動に調整したほうがいいでしょうね。

運動にはどんな効果があるのか?

Exercise training-induced improvements can be expected concerning aerobic fitness, muscular strength, QOL, and fatigue in breast, prostate, and hematologic cancer survivors.

引用:Schmitz KH, Courneya KS, et al: American College of Sports Medicine roundtable on exercise guidelines for cancer survivors. Med Sci Sports Exerc. 2010 Jul;42(7):1409-26

乳がん、前立腺がん、および血液がんサバイバーは、運動トレーニングによる体力、筋力、生活の質(quality of life:QOL)、および疲労の改善が期待できる。」と記載されています。

運動で体力や筋力がついて、生活の質が良くなるってのは想像できますよね。

でも、運動することでがんサバイバーの症状の一つである「疲労感・倦怠感・だるさ」が改善するっていうのは意外だった人も多いんじゃないでしょうか?

体がきついと動きたくなくなりますが、軽くでも運動したほうが、だるい感じが改善するかもしれませんよ。

ただし、乳がん、前立腺がん、血液がん以外のがんサバイバーについては記載されていないことには注意が必要です。

引用:Schmitz KH, Courneya KS, et al: American College of Sports Medicine roundtable on exercise guidelines for cancer survivors. Med Sci Sports Exerc. 2010 Jul;42(7):1409-26

こちらの図は、このガイドラインで使用したがんサバイバーの運動に関する論文の数をまとめた結果です。

上段に横に並んで記載されているのが、「がん種」です。左から乳がん、前立腺がん、大腸がん、血液がんの順番に並んでいます。

左側に縦に並んで記載されているのが、その論文で調査した項目の種類です。

そして、真ん中に記載されている数字が、がん種に対して項目を調査した論文の数になります。

ぱっと見て、乳がんサバイバーの論文数が非常に多いのが目に付きませんか?

その次に、前立腺がん、血液がんサバイバーの論文数ですかね。

つまり、ガイドラインに記載されているがん種は、論文数が多いがん種ということになります。

ガイドラインっていうのは、多くの論文の内容を吟味して、効果の有無を検討するものなので、論文数が少ないと、なかなか効果をいうことはできません。

たった1つの論文で効果があったから、「効果があります」って言ってしまうと、その後効果がないっていう論文がたくさん出てきたら、困りますよね。

研究っていうのは、対象数や期間や治療方法など、設定が少し変わるだけで結果が変わることもあるので、数多くの論文があればあるほど結論が出しやすいんです。

つまり、このガイドラインに記載されていないがん種については、「効果がない」と確定したわけでなく、論文数が少なくて「効果があるかわからない」っていう表現が正確ですね

どんな運動したらいいの?

がんサバイバーの運動は安全で効果があるっていうのはわかりましたね。

では具体的にはどんな運動をしたらいいのでしょうか?

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The key US DHHS guideline for aerobic activity focused on an overall volume of weekly activity of 150 min of moderate-intensity exercise or 75 min of vigorous-intensity exercise or an equivalent combination. Guidance for strength training is to perform two to three weekly sessions that include exercises for major muscle groups. Flexibility guidelines are to stretch major muscle groups and tendons on days that other exercises are performed.

Physical Activities Guidelines Advisory Committee. Physical Activity Guidelines Advisory Committee Report. Washington (DC): US Department of Health and Human Services; 2008.

ガイドラインの中には、米国保健福祉省(US Department of Health and Human Services: US DHHS)の「アメリカ人のための身体活動ガイドライン」を引用して、具体的な内容を記載されています。

行う運動は「有酸素運動」+「筋力トレーニング」+「ストレッチ」の3つです。

有酸素運動

有酸素運動は、「週に150分の中等強度の強度の運動」、もしくは、「75分の高強度の運動」が推奨されています。

中等強度?、高強度?・・・。よくわからないですよね。

運動の強度を決定する方法はいろいろありますが、基本的には自覚症状でOKです。

中等強度は「軽く息が弾む」「ややきついと感じる」、高強度は「息が上がって会話が難しくなる」「きつい~非常にきついと感じる」くらいですかね。

運動の例としては、一般的には、中等強度が「早歩き~軽いジョギング」、高強度が「ジョギング~ランニング」となっています。

でも、年齢や運動習慣できつさは変わってしまいます。20歳と80歳では同じ運動しても、きつさは全然違いますよね。毎日ジョギングしている人と10年間運動していない人では、同じ運動してもきつさは違います。

なので、基本的には自覚症状でチェックしましょう。

運動強度について詳細を知りたい方はコチラ

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筋力トレーニング

筋力トレーニングに関しては、「主要筋群のエクササイズを週2~3回のセッションを行う。」と記載されています。

主要筋群?なんでしょうね・・・。具体的な記載はありません。

一般的には、主要筋群というと大きな筋肉を示すことが多いですね。

具体的には、おなかの筋肉(腹筋群)、背中の筋肉(背筋群)、お尻の筋肉(臀筋群)、太ももの筋肉(大腿四頭筋)、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)あたりでしょうね。

比較的元気な人であれば、腕立て伏せとスクワットを中心にしておけば大丈夫でしょう。

体がきつくて、なかなか腕立てなんかできないよって人も多いですよね。

体がきつければ、できる範囲で立ち座りの運動を行うことが一番です。

やっぱり動かないと弱っていくのは下肢(脚)なので、ウォーキングと立ち座りを最低限行うことが望ましいと思います。

ストレッチ

ストレッチに関しては、「運動を行う日に主要な筋群と腱のストレッチを行う。」と記載されています。

まあ、有酸素運動や筋力トレーニングを行うときに、ストレッチもいっしょに行いましょうってことでしょうね。

ストレッチをする主要な筋群となると、お尻の筋肉(臀筋群)、太ももの筋肉(大腿四頭筋)、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)あたりになると思います。

でも、腰痛なんかがあると腰~背中の筋肉をストレッチした方がいいし、乳がんサバイバーで肩の動きが硬い人なんかは、肩回りのストレッチをした方がいいでしょうから、症状に合わせて行いましょう。

ストレッチに関しては、基本的には「硬くなっているところが伸びて気持ちいい。」と感じればOKです。

きつくて運動できないときは?

The recent US DHHS guidelines indicate that, when individuals with chronic conditions such as cancer are unable to meet the stated recommendation on the basis of their health status, they “should be as physically active as their abilities and conditions allow.” An explicit recommendation was made to “avoid inactivity,” and it was clearly stated that “Some physical activity is better than none.”

Physical Activities Guidelines Advisory Committee. Physical Activity Guidelines Advisory Committee Report. Washington (DC): US Department of Health and Human Services; 2008.

米国保健福祉省(US Department of Health and Human Services: US DHHS)の「アメリカ人のための身体活動ガイドライン」は基本的に元気な人向けのガイドラインになります。

つまり、がんサバイバーでも可能であれば、病気でない人と同じような運動が推奨されるってことですね。

でも、病気や治療の影響で、なかなか運動できないときもありますよね・・・。

そのような場合でも、「能力と状態が許す限り、身体的に活動している必要がる。」、「不活動を避ける。」、「どんな身体活動でも何もしないよりはましだ。」と記載されています。

きついときにできる運動なんて、軽く歩いたり、ストレッチしたりくらいになりますよね。

それくらいだったら、そんなに体の負担にはならないから大丈夫みたいです。

運動でも作業でもなんでもいいので、できることをやってみましょう。

他にがんサバイバーのガイドラインってないの?

今回は2010年にアメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine: ASCM)が発表した「がんサバイバーのための運動ガイドライン」を紹介しました。

でも、2010年ってもう10年以上前ですよね・・・。そんな昔のガイドラインを言われても・・・って思いませんか?

ここまで具体的な内容を書いているがんサバイバーのガイドラインってなかなかないんですよね。

なので、このガイドラインは現在(2021年2月)でも割と引用されています。

2019年に改訂版も出ているので、そちらも参考にしてみてください。

今回紹介したガイドラインをもとに、運動処方をさらに具体的に提案している「がん患者のための運動前スクリーニングと運動処方のガイドライン」も2010年に出ているので、こちらも参考になりますよ。

日本では、2013年に「がんのリハビリテーションガイドライン」が発表され、2019年には第2版が出版されています。

これは多くのがん種のリハビリテーションについて詳しく解説されています。なんと無料で見れます!!。なにより日本語なので読みやすいですよ~。

重要そうな内容については別記事で紹介していきますね。

まとめ
・2010年のアメリカスポーツ医学会の「がんサバイバーのための運動ガイドライン」には、運動の安全性と効果が記載されている。

・がんサバイバーの運動は、リスク管理は必要だが安全に行える。

・乳がん、前立腺がん、血液がんサバイバーに対して、有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチを行うことは効果が期待できる。

・体がきつくて運動ができない場合でも、可能な範囲で動くことが望ましい。

注意
このブログは、ガイドラインや論文などの根拠をもとに情報を発信していく予定です。

しかし、がんの病態や治療方法によっては、お読みになっているがん患者さんにはその情報が当てはまらない場合もあります。

記事の内容を参考に新しく何かを始める場合には、担当の医師や医療従事者にご確認いただくようお願いいたします。

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